上 下
13 / 21

可愛い元木さん 5

しおりを挟む
――駅前のペットショップ。
ここは大型店舗なので、ドッグフードやゲージ、ペットシーツやおもちゃなど、様々なペットに関わる商品がある。
そしてもちろん何よりもここの目玉は、個々のゲージに入れられた可愛い子犬たちだ。元木さんとその子犬たちを見に行こうと足を進めると、既にそこには学校帰りの小学生たちが楽しそうに子犬たちを眺めていた。

「しのちゃん、しのちゃん。あの子!」

誰か知り合いでもいたのかと指さす方を見ると、ゲージの中で与えられたおもちゃと一心不乱に遊ぶトイプードルの姿があった。

「かわいい……」

思わず漏れた私の声に、元木さんが目を輝かせる。

「だよな! 可愛いよな」

そう言って私の手を引っ張って、トイプードルの前を陣取った。

元木さんがゲージをちょいちょいと突く。すると子犬はくりくりとした目で元木さんを見つめ、トコトコと近づいてきた。

「く~ん」と鼻を鳴らすような甘えた声で鳴き、しっぽをパタパタと振っている。

「かわいい……」
「かわいいですね」

そうして、私たちは結局一時間ほどそうやって子犬たちを眺めていた。そんな私たちの耳に、少し離れたところからひそひそと話す声が聞こえて来た。
チラッとそこを窺うと、他校の制服を着た女の子たちが頬を染めて元木さんのことを見ている。

……イケメン恐るべし。

きっと元木さんのことだから、他校の女子にまでこんな風に見られるなんてさぞかし嬉しいんだろうと思ったのだけど、どうやらそうでもないらしい。彼女たちがこちらを意識しているのに気が付いて、「そろそろ帰ろう」とペットショップを後にした。

「満足しました?」
「……まあそれなりに」

……?

「あんまりかっこよくないところは他人に見られたくない」

ああ、そういうこと……。

もう本当に、どこまで見栄っ張りなんだろう。

「かわいいと思いますけどねえ……」
「それは誉め言葉じゃない」

はいはい、そうでした。かっこよくて色気半端ないんですよね。

「ところで家はどこだ?」
三七橋みなはしです」
「……逆だな」

どうやらこのペットショップから元木さんの家と私の家は逆方向のようだ。だけど元木さんは、付き合ってもらったからと駅まで私を送ってくれた。
元木さんは意外と紳士だ。

「じゃあ、今日はありがとうな。気を付けて帰れよ」
「はい。送ってくれてありがとうございました」

ぺこりと軽く頭を下げると、元木さんは笑って手を振って帰っていった。



本当に意外だった。遠くから見ている時には気が付かなかったけど、モテるわけだよ。

かっこよくてかかわいくて優しくて……。ちょっぴり見栄っ張り。
どことなく翔くんに似てるじゃない。

――もちろん私は、翔くん一筋だけどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました! カクヨム、小説家になろうでも投稿しています。

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

永遠のトナラー 消えた彼女の行方と疑惑の隣人

二廻歩
現代文学
引っ越し先には危険な隣人が一杯。 部屋を紹介してくれた親切な裏の爺さんは人が変わったように不愛想に。 真向いの風呂好きはパーソナルスペースを侵害して近づくし。 右隣の紛らわしい左横田さんは自意識過剰で俺を変態ストーカー扱いするし。 左隣の外人さんは良い人だけど何人隠れ住んでるか分からないし。 唯一の救いの彼女は突然いなくなっちゃうし。 警察は取り合わないし。 やっぱり俺たちがあんなことしたから……  

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

ハルイロ
恋愛
「ごめんね。きみとこのままではいられない。」そう言われて私は大好きな婚約者に捨てられた。  アルト子爵家の一人娘のリルメリアはその天才的な魔法の才能で幼少期から魔道具の開発に携わってきた。 彼女は優しい両親の下、様々な出会いを経て幸せな学生時代を過ごす。 しかし、行方不明だった元王女の子が見つかり、今までの生活は一変。 愛する婚約者は彼女から離れ、お姫様を選んだ。 「それなら私も貴方はいらない。」 リルメリアは圧倒的な才能と財力を駆使してこの世界の頂点「聖女」になることを決意する。 「待っていなさい。私が復讐を完遂するその日まで。」 頑張り屋の天才少女が濃いキャラ達に囲まれながら、ただひたすら上を目指すお話。   *他視点あり 二部構成です。 一部は幼少期編でほのぼのと進みます 二部は復讐編、本編です。

ちょっとのつもりだったのに

つぼっち
エッセイ・ノンフィクション
やってしまった。 ノンフィクション。

離婚のきっかけ

黒神真司
恋愛
わたしはこれで別れました…

ごめんなさい、全部聞こえてます! ~ 私を嫌う婚約者が『魔法の鏡』に恋愛相談をしていました

秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
恋愛
「鏡よ鏡、真実を教えてくれ。好いてもない相手と結婚させられたら、人は一体どうなってしまうのだろうか……」 『魔法の鏡』に向かって話しかけているのは、辺境伯ユラン・ジークリッド。 ユランが最愛の婚約者に逃げられて致し方なく私と婚約したのは重々承知だけど、私のことを「好いてもない相手」呼ばわりだなんて酷すぎる。 しかも貴方が恋愛相談しているその『魔法の鏡』。 裏で喋ってるの、私ですからーっ! *他サイトに投稿したものを改稿 *長編化するか迷ってますが、とりあえず短編でお楽しみください

処理中です...