たとえ神様に嫌われても

らいち

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ただ一人の為に

ずっと一緒がいい 2

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お互い、離れていた間を埋めるように唇を重ね合わせた。だけど、気持ちが落ち着き始めると、なんだか急に恥ずかしくなってくる。
 
そんなあたしの気持ちを察したかのように、大石君は名残惜しげに唇をついばんでゆっくりと離れた。
だけど、腕はそのままあたしの背に回したままだ。

「なあ、いづみ……」
 
呼ばれてあたしは顔を上げる。

「俺の血はお前には甘いんだ」
 
唐突な言葉に大石君が何を言おうとしているのか分からずキョトンとする。

「いづみには分からないかもしれないけど、悪魔の俺からするといづみにはずいぶん甘い対応になっているんだ。……まあ、それもこれも悪魔からしてはって事で、人間の目から見たらどうなのかは分からないけど」
 
大石君の言葉をきちんと理解できているかは分からないけど、何となく彼が言いたい事は分かるような気がした。

「……だからお前に対して取る俺の行為は、絶対にいづみのためになる事だけだって事は信じて欲しい」
「……大石君」
「それとな」
 
苦笑いをしながら、彼は言葉を続ける。

「これからはサモンって呼んでくれるか? 向こうでその呼び名は通用しないから」
 
向こう、と言う言葉に一瞬たじろいだ。大石君と一緒にいる事を選ぶということはそういう事だ。
 
けれどもう離れられないと分かってしまった以上、従うしかない。
戸惑いはしたけれど、あたしは、「うん」と返事をした。

「いづみ」
 
いつもより低く慎重な声。彼は真剣な表情をしている。

「家族にも、会えなくなるぞ」
 
そらすことなくじっと見られ紡がれる言葉に、大石君の真剣さが伝わってくる。うやむやにしてはいけないと考えてくれているのだろう。

「……見に来るくらいは出来る? 一方的でも良いから……」
「ああ」
「困ってることがあったら、助けてあげても、いい?」
「姿さえ現さなければな」
 
返事をしようと唇を動かすけれど、わなわなと震えて上手く言葉にならない。涙がぽろぽろと、零れてくる。
それでも笑顔を見せようと、口角を上げようとして失敗した。
きっと今のあたしの顔は、くしゃくしゃになっていると思う。

「うん……。良い……。一方的でも会いに来れるなら……」
「いづみ……」
 
大石君はあたしを抱き寄せて髪を撫でる。そしてぎゅうっと力を込めて抱きしめてくれた。

「それが、いづみの一番の願いなんだな」
「うん……」
「分かった。それだけは絶対に守るようにする」
 
大石君が、スッと体を離して右手を出してきた。そしてこの手を取れと、促している。

自分の意志で魔界に行くことを承諾するようにという事なんだろう。
恐らくここで躊躇したら、大石君は今度こそ本当に二度とあたしの前には現れないのだろうと思った。
 
あたしは震える手で大石君の手を取る。

彼の掌に触れた途端ぎゅっと強く握られ、体ごと引き寄せられた。
 
力強く抱きしめられ、髪をかきまぜられる。

そして彼はあたしのこめかみに唇を寄せ、独り言のように呟いた。

「やっと……俺のものだ。もう誰にも渡さない……」
 
甘く毒のある響きに、心が震える。
 

大石君はあたしをゆっくりと離し、しっかりと目を合わせた。


「守るからな、絶対。お前の為なら俺は、魔界全体をも騙してやる」
 

あたし以外はどうでもいいと言いたげな執念ともいえる真摯な愛の告白に、恐怖と共に満たされていく心を感じていた。
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