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異変
夢の正体
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最近眠るのが怖い。
この3日ほど、連続で同じ夢を見ている。
恐怖に顔をひきつらせ逃げる男を追いかける自分。なぜかその手には大石君の黒い刃を持っている。
恐怖で怯え助けを懇願する男に、容赦なく刃を持った手を振りかざす自分……。
――ハッとして目を覚ます。
全身にびっしょりと、嫌な汗を掻いていた。
やけに生々しい夢。
いつも、いつも、この夢の中の自分は嬉々として男を追い詰めている。
何でこんな夢を見るんだろう。
最近の自分はおかしい。十字架も怖いままだ。
大石君は吸血鬼になんてなってないって言っていたけど、信じてもいいんだろうか。
もしかしたらあたしを怖がらせないように、嘘を吐いているんじゃないのかと勘ぐってしまう。
「あれ? もしかして今日、大石君休み?」
「うん」
昨日帰り際に教えてもらった。
これから魔界に帰らないといけないから、もしかしたら今日は来れないかもしれないと。
そしてこいつは残しておくから安心しろと言って、刃を宙に浮かして彼は魔界へと帰って行った。
……大石君は知らないんだよな。
私がこの刃に対して複雑な思いを抱いていることを。
彼が起こしてしまった残虐な行為。
しかもそれがあたしに関わっていることだという事実が、あたしの中の罪として残っていることも。
だけどその一方で、あたしを守ってくれる存在だというのもまた事実なんだ。
あの悪夢も、そんな葛藤とあたしの中で起きている十字架が怖いという戸惑いから来ているのかもしれない。
「どこ、飛んでるのかなあ……」
「え?」
「あ、ううん。なんでもない」
思わず声に出してしまっていた。
危ない、危ない。気を付けないと。
城田君が、みんなにおはようと声をかけて入ってくる。真奈美たちも城田君とよく話しをするようで、こちらにも挨拶をしてきた。
「小田さん、木原さんおはよう」
こっちに近づいてきた城田君にびっくりして思わず立ち上がった。
体が勝手に反応して、城田君から離れたがっている。
「どうしたの? いづみ」
「あ、や。なんでもない。ちょっとトイレ行きたいかなあって……」
「え~、もうそろそろ先生来るよ。大丈夫かなあ」
「あ、そ、そうだね。我慢するかな」
どう見ても挙動不審なあたしの態度に、真奈美が小首を傾げた。
「倉橋さん」
心構えをする間もなく突然呼ばれて体が揺れる。
明らかに緊張したその様子に、千夏ちゃんまでが不思議そうにあたしを見た。
恐らく城田君も気が付いただろうに、そんなそぶりも見せずあたしに更に話しかけた。
「初めて話すよね。おはよう、倉橋さん」
「お、おはよう」
碌に顔も見ずにそっけなく返事をした。城田君は明るく挨拶してくれているのに、とんでもない態度だ。
だけど出来ればこれであたしの事を愛想の無いやつだと決めつけて、二度と拘わらないでおこうと思って欲しい。
目を伏せて城田君の顔を見ずにいるのに、彼はまだここに立ち止まっていた。
「倉橋さ…」
「あ、先生来たよ」
誰かの声に城田君は入口に目をやって、真奈美たちに「じゃあね」と言って自分の席に戻って行った。
あからさまにホッとして、脱力する体。
これはもう、あたしが意識してどうこう出来る問題ではない。
きっと大石くんなら知っている。
怖くてもちゃんと聞かないといけないと、震える体を抱きしめながらそう思った。
この3日ほど、連続で同じ夢を見ている。
恐怖に顔をひきつらせ逃げる男を追いかける自分。なぜかその手には大石君の黒い刃を持っている。
恐怖で怯え助けを懇願する男に、容赦なく刃を持った手を振りかざす自分……。
――ハッとして目を覚ます。
全身にびっしょりと、嫌な汗を掻いていた。
やけに生々しい夢。
いつも、いつも、この夢の中の自分は嬉々として男を追い詰めている。
何でこんな夢を見るんだろう。
最近の自分はおかしい。十字架も怖いままだ。
大石君は吸血鬼になんてなってないって言っていたけど、信じてもいいんだろうか。
もしかしたらあたしを怖がらせないように、嘘を吐いているんじゃないのかと勘ぐってしまう。
「あれ? もしかして今日、大石君休み?」
「うん」
昨日帰り際に教えてもらった。
これから魔界に帰らないといけないから、もしかしたら今日は来れないかもしれないと。
そしてこいつは残しておくから安心しろと言って、刃を宙に浮かして彼は魔界へと帰って行った。
……大石君は知らないんだよな。
私がこの刃に対して複雑な思いを抱いていることを。
彼が起こしてしまった残虐な行為。
しかもそれがあたしに関わっていることだという事実が、あたしの中の罪として残っていることも。
だけどその一方で、あたしを守ってくれる存在だというのもまた事実なんだ。
あの悪夢も、そんな葛藤とあたしの中で起きている十字架が怖いという戸惑いから来ているのかもしれない。
「どこ、飛んでるのかなあ……」
「え?」
「あ、ううん。なんでもない」
思わず声に出してしまっていた。
危ない、危ない。気を付けないと。
城田君が、みんなにおはようと声をかけて入ってくる。真奈美たちも城田君とよく話しをするようで、こちらにも挨拶をしてきた。
「小田さん、木原さんおはよう」
こっちに近づいてきた城田君にびっくりして思わず立ち上がった。
体が勝手に反応して、城田君から離れたがっている。
「どうしたの? いづみ」
「あ、や。なんでもない。ちょっとトイレ行きたいかなあって……」
「え~、もうそろそろ先生来るよ。大丈夫かなあ」
「あ、そ、そうだね。我慢するかな」
どう見ても挙動不審なあたしの態度に、真奈美が小首を傾げた。
「倉橋さん」
心構えをする間もなく突然呼ばれて体が揺れる。
明らかに緊張したその様子に、千夏ちゃんまでが不思議そうにあたしを見た。
恐らく城田君も気が付いただろうに、そんなそぶりも見せずあたしに更に話しかけた。
「初めて話すよね。おはよう、倉橋さん」
「お、おはよう」
碌に顔も見ずにそっけなく返事をした。城田君は明るく挨拶してくれているのに、とんでもない態度だ。
だけど出来ればこれであたしの事を愛想の無いやつだと決めつけて、二度と拘わらないでおこうと思って欲しい。
目を伏せて城田君の顔を見ずにいるのに、彼はまだここに立ち止まっていた。
「倉橋さ…」
「あ、先生来たよ」
誰かの声に城田君は入口に目をやって、真奈美たちに「じゃあね」と言って自分の席に戻って行った。
あからさまにホッとして、脱力する体。
これはもう、あたしが意識してどうこう出来る問題ではない。
きっと大石くんなら知っている。
怖くてもちゃんと聞かないといけないと、震える体を抱きしめながらそう思った。
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