たとえ神様に嫌われても

らいち

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夏休み

1人の部屋

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花火の処理を済ませた後、リビングルームで平林君のお兄さんたちが置いていってくれたジュースを飲みながら、他愛のない話をした。
その話の内容から平林君がかなりの裕福な家庭である事がわかり、真奈美に「やっぱり、お坊ちゃんだ」と揄われ、平林君は眉間にしわを寄せていた。 


「ああ、もうこんな時間だ。そろそろ寝るか」
 
時計が11時半を回っていた。千夏ちゃんは既に、あくびをかみ殺している。

「じゃあ、行こうか」
 
真奈美が千夏ちゃんの肩を抱き、あたしを振り返って誘う。部屋は一緒ではないけれど一応隣同士だ。
立ち上がって真奈美たちの後に続こうとしたあたしの手を、大石君が握った。

「……大丈夫か?」
「うん。真奈美たちの部屋の隣だし、あとは寝るだけだもん。寂しくはないよ?」
 
安心させようと思って明るく笑いながら言ったのに、それでも大石君は心配そうで、握った手に力を込めた。

「部屋の前まで送る」
「……うん」
 
割り当てられている部屋はここから数メートルと離れていないのにと思いはしたけど、ちょっぴり心配そうな大石君が嬉しくて、ついつい口角が上がった。

「ちゃんと戻ってこいよ」
 
平林君がちょっと面白くなさそうに大石君に声をかけた。振り向いたあたしと目が合うと、驚いたように目を見開いた後、ばつが悪そうにそらされてしまった。

「分かってる」
 
ホラ行くぞ、と大石君に促されて部屋へと向かった。

「アイツにちゃんと見張らせてるから、気にしないで眠れよ」
「……アイツって、あの黒い……?」
「ああ。俺が一緒に居られるんなら安心だけど……。俺がお前の元に戻った事で、エルザの神経逆なでしちゃったからな」
「アレって……、金属の刃物だよね……? いつも勝手に動いているみたいだけど……」
「気になる?」
「……うん」
 
「使い魔みたいなものかな。アレは俺が自分の魔力で生み出して、血を与えて作ったものだ。俺の意思通りに動く相棒みたいなものだよ」
「……大石君が、作ったの…?」
「ああ、だから安心しろ。アレはお前の味方だ」
「うん……」

そう言って優しく笑ってくれる大石君にうれしいと思う反面、どうしても拭えずに残っている複雑な気持ちがあった。
大石君と共にいることを選んだあたしが、背負っていかないといけない消してはいけない痛ましい過去。

あの刃は、きっとその象徴だ。


それでも、1人っきりの部屋でちょっぴり寂しいって思っているあたしの気持ちを大石君は気付いてくれている。
そんな優しい彼のことを、あたしはやっぱり受け入れたいと思ってしまうんだ。
わがままかもしれないけれど、それは許してほしいと、誰にともなく思った。

「……じゃあ、安心していいからな。お休み」
「うん、お休みなさい」

結局大石君は部屋には入らずそのまま手を振って戻って行った。
 

割り当てられた部屋はベッドが2つ。それでもゆとりのある空間だ。
だけどそれが却って1人の寂しさを増幅させてしまっているから皮肉だ。

「ふあ……」
 
移動やらいろいろあって疲れたようであくびが出る。
もう寝ようと灯りを消して、ベッドにもぐりこんだ。
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