たとえ神様に嫌われても

らいち

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引き裂かれる心

見えないものの拘束

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「いづみ、もう出るの?」
 
朝ごはんをいつもより早い時間に食べて玄関に向かうあたしに、お母さんが驚いて声をかけた。

「うん。ちょっとやる事があって」
「そうなの? じゃ、気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきます」
 
本当は特に用事があるわけじゃなかった。だけど、無性に大石君の痕跡をたどりたくなったのだ。
 

あたしの大石君への気持ちは今でもくるくると変わり続けている。
二度と会わない方が良いという気持ちと、会いたくて寂しくて泣きたくなる気持ちと。
 
そして今は、無性に会いたかった。会いたくて会いたくて気が狂いそうだった。
 
校門を抜けてそのまま図書館に向かう。
こんな朝っぱらから図書館に来る人はやはりいなくて、カウンターの奥に司書の先生がいるだけだった。
 
あたしはあの時、大石君にキスをされた書棚の方へと向かった。
だけどそこはシンとしているだけで、やはり大石君がいるはずはなかった。
 
大石君に追いやられた所へ歩を進め、壁にもたれて目を閉じる。
 
あの時はもう、戸惑いながらも彼の事を気になっていたから、だから嫌じゃなかったんだ……。

そっと指先を唇に当ててみる。あの時の大石君の息遣いが感じられるような気がした。

「大石君……」
 

わかってるんだ、本当は。
もうこのまま会わない方が良い。

なのにそう思えば思うほど、苦しくて辛くて会いたくなる。
 

気が付くと、涙が頬を伝っていた。
 

もういいや。もう堪えない。
例え授業に遅れても、泣くだけ泣こう。

そう思ったら、なぜだか少しだけ気が楽になったような気がした。
 

時計を確認すると、もうとっくに授業が始まっている時間だった。
 
きっと、目が真っ赤だよなあ……。授業が終わるまでここに居て、トイレで顔洗ってから行く事にしようかな。
 
授業が終わるまで20分近くあるので、しばらく手近にある本を立ち読みでもしようかと書棚を物色する。運の良い事に、こちらの書棚はミステリーのコーナーだった。

興味を引くタイトルが目についたので、手を伸ばし取ろうとした。
だけどその瞬間、後ろから強い力で引っ張られ、羽交い絞めにされびっくりして固まる。
そしてそのまま口も鼻も塞がれて息苦しくなった。

突然のあまりの出来事に恐怖で体が強張ったけど、それを必死で引き剥がそうともがいて暴れた。


だけど嫌な事に、それと同時に奇妙な違和感も覚えていた。
それがあまりにも嫌な違和感で、きっとその違和感の正体を突き止めたら、今以上の恐怖が待っていそうで怖い。


『怖いけど、たぶん無視しちゃだめだ』


怖くて怖くて仕方ないけど本当は見たくないけど……。あたしは警告する自分の勘に従って、意識して自分を拘束しているものの正体を見ようと視線を下にもって行った。
 

拘束しているはずの腕が見えない。
 

あまりの恐怖に強張っていた体が、更に固まる。
視線をそのまま固定していると、その視界はだんだん黒くなり、まるで渦巻くモヤに拘束されているかのような状況に追い込まれていった。

「んんんーーーーっ」
 
頭を振りながら声にならない叫び声を必死に上げる。
カウンターにいるはずの先生を心の中で何度も呼んだ。
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