たとえ神様に嫌われても

らいち

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引き裂かれる心

乗っ取られた体 3

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大石君はあたしを抱えて立ち上がり、歩き出した。学校には戻らず狭い道を抜けて行く。
そして誰もいない路地で立ち止まった。
 
途端にあたしの体に緊張が走る。明らかに中にいる誰かが大石君に対して警戒しているような感じだ。
 
大石君はあたしを地面に立たせ、背後に回った。バサッと、まるで大きな羽を広げたような音が聞こえたかと思ったら、強い力で頭をわしづかみにされる。
 
不快なキーンという音が、頭の中に響いた。
あたしも気持ち悪かったけれど、それ以上に体の中の者が苦痛で暴れ始める。そしてそれは、必死で大石君の腕を外そうと足掻いて手足をバタつかせた。
 
手や足が何かにぶつかる感触がある。おそらく大石君を強い力で殴りつけているのだろう。
それを押さえつける為なのか、背後から何か黒い幕のようなものがあたしの体を包み込んだ。
 
ギリギリと体を締め付けられる感覚に今まで以上の苦痛が走る。
あまりの衝撃にあたしの意識も朦朧としてきた。
 
限界に達しそうになったその時――

「ギアアァァァァー」
 
断末魔のような叫び声が響き、体から勢いよく何かが出て行くのを感じた。
一瞬にして脱力し、倒れそうになったところを背後から大石君に抱き留められた。



「もう、大丈夫だ」

「大石く……」
 
涙で詰まって言葉が上手く出せない。取り憑かれていたせいか疲労感が半端なくて、体も思うように動かせなかった。

「急がなくていいよ。クラスのみんなの記憶は操作しておいたから」
「え……」
 
そんな事も出来てしまうのかと驚いて大石君を見上げると、ばつの悪そうな顔をしていた。

「……大丈夫。こんな事は頻繁にはしないから。今回は特別だ」
 
別に責めているわけじゃないんだけどな……。
 
こういう所を見てしまうと、大石君はあたしと付き合う決心をしたことを後悔しているんじゃないかとちょっぴり不安に思ってしまう。

だけど多分不安はお互いさまだ。
あたしはあたしであの時、大石君にいろんなことを聞きそびれてしまったことに気が付いていても、それを改めて聞き直す勇気が出ずにいるし。
 

大石君はあたしをひょいっと回転させて、正面からギュッと抱きしめてくれた。
真正面から見上げた彼の髪は、もう元の短さに戻っていた。

「髪……」
 
思わず呟いたあたしに、大石君は「気になる?」と、いたずらっぽく聞き返した。

「……気になるというか……。長い髪も似合うよなーと、思って」
 
素直な感想だったんだけど、大石君は一瞬目を丸くして、そして噴出した。

「そこ?」
それこそ本当に楽しそうに、大石君は肩を揺らして笑い続けた。

「……ちょっとー、これってそんなに笑うトコ?」
 
ちょっぴりムッとして抗議すると、嬉しそうに顔を綻ばす。

「……嬉しいだろ。普通に。……いくらお前が俺を受け入れてくれたって思っていてもさ、少しでも素を見せたら、怖がられるんじゃないかって……思ってしまうんだよ」
「……大石君」
「さ、そろそろ行こうか。歩けるだろ? もう」
「あ、うん」
 
本当は長くする髪の意味も、『甘い』といった言葉の意味も、そして他にも……。


聞かなきゃいけない事はたくさんあるはずなのに、やっぱり今のあたしには踏み込む勇気が出せずにいた。
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