たとえ神様に嫌われても

らいち

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捕食する瞳

背後の音

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暖かく柔らかい塊に歯列をなぞられる。
それにびっくりしてさらに歯を食いしばると、くすっと笑いの零れる音がした。
 
そして離れて行く唇。
それにホッと息を吐く間もなく、首筋を撫でられギョッとする。

「ちょっ……。おおい……」
 
慌てて口を開いた途端、大石君の舌がもぐり込んで来た。
びっくりして引っ込んだあたしのそれに、大石君の舌が柔らかく絡みついてくる。

ゆっくり優しく弄ぶような動きに翻弄され、あたしの頭の中は真っ白になっていった。



「いづみ……」
 
頬を優しく撫でられながら、額がくっつくほどの至近距離で名前を呼ばれる。
どうやらあたしは、かなりぼうっとしていたらしい。気が付くと大石君の唇はとっくに離れていた。

「やっぱり甘かった。他の人間と、何が違うんだろう。相性かな……それとも、……邪気が少ないんだろうか」
「……え?」
 
語尾が小さくなっていて、最後のあたりがちゃんと聞こえなかった。

それに頭の中がまだ、とろんとしている。
大石君の手が、頬から顎へと滑り落ちる。その仕草を嬉しいと思ってしまっている自分に切なくなった。

「いづみ……俺さ、……!?」

優しくあたしの髪を指で梳きながら、囁くように話しかけていた大石君が一瞬ハッとしたような顔をする。そしていきなりあたしの腕を引き寄せて、ぎゅうっと抱き込んで来た。

「えっ、何? 大石君?」
 
突然の動きにびっくりして覚醒し、慌てて押しのけようとすると、よけいに力を込めて逃がすまいと抱きしめられた。おかげで体がぴったりと密着して、心臓の音が煩くなって焦る。
 
ドスッ!!
 
頭上を冷たい風が吹き抜けたかと思うと、背後から何かが棚に突き刺すような音が聞こえた。
びっくりして振り返ろうとしたけれど、大石君の手があたしの頭を押さえつけていてままならない。

「大石君! 今、今なんか後ろで音がした!」
「気のせいだろ」
「違うよ、気のせいなんかじゃない! すごい大きな音だった!」
 
自分だって聞こえたはずなのになぜか知らんふりを押し通そうとする大石君に、違和感を覚える。
そんな態度をとられるから、あたしも証拠を見せようと意地になって大石君の背中をポカポカ叩いた。
 
彼はそんなあたしにため息を吐いて、ようやく腕を離してくれた。
勢いよく振り返って、飛んできたはずの何かを探す。
だけどあの衝撃音が聞こえてきた辺りには、なにも無かった。

「そんなはずは……」
 
呆然とつぶやくあたしに、大石君が、「だから言ったろ?」といいたげに、腰に手を当てて小首を傾げていた。

「あ」
 
やっぱりあった! 
飛んできたものは無いけれど、本棚に、まるでナイフで傷をつけたような跡が残っていた。
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