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捕食する瞳
まるで特別
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お昼休み、いつもならお母さんがお弁当を作ってくれるのだけど、今日は寝坊したとかで作ってもらえなかった。で、今、売店へと向かっている。
真奈美も千夏ちゃんもお弁当を持ってきているので、教室で待っててもらっている。
お昼に売店に来るのは初めてで、結構な混みようにちょっとたじろいだ。
どうしようかなー。
おにぎりとコロッケ、残ってるといいな。出来ればついでに美味しいって評判のメロンパンも。
なんてそんなことを考えていたら、突然背後から声をかけられた。
「珍しいな。いつもは弁当、持って来てるよな」
振り返ると、大石君が笑顔で立っていた。
「……大石君も、いつも購買なの?」
ちょっと距離が近いのが嫌で、少し後ろに下がる。それに気が付いたのか、大石君の唇がゆっくりと弧を描いた。
「んー、そういう分けじゃないけど、いづみの姿が見えたから」
その言葉に思わず眉をしかめていると、大石君がゆっくりと上体を曲げてあたしの首筋に顔を近づけてきた。
「ちょっ……」
だけどそれは、慌てて手で退けようとする前に簡単に離れていく。
「いづみ、本当に甘い匂いがする」
まるでうっとりと、蕩けるような甘い声にぞくりとする。細く、甘く眇められたその目も怖い。
ドクドクとうるさく鳴り響く心臓。
体を強ばらせていると、その雰囲気を一掃するように大石君が大声で叫んだ。
「佐藤、悪い。注文お願いしてもいいか!」
「おう。何?」
「いづみは何?」
突然の豹変ぶりに慌てていると、「注文お願いするから」と急かされる。
「あ、おにぎりとコロッケとメロンパンを1個ずつ」
「佐藤、おにぎり、コロッケ、メロンパン1個ずつと、カツサンドふたつ!」
「OK」
その会話の最中に、大石君は思いっきり手を伸ばして佐藤君に千円札を渡していた。それを見て我に返り、自分の代金を払おうと財布を広げる。
「ああ、いいから」
「ダメ、絶対ダメ」
メニュー表を見ながら自分の代金を計算し、渡そうとすると不満そうな顔をされた。それでも引き下がらないあたしに、しぶしぶといった感じでお金を受け取る。
「大石君っていつもそうなの?」
「……何が?」
「だから、沙良や由美にもこうやって奢ってあげたりするの?」
「…………」
返事が無いので訝しんで顔を上げると、大石君が薄く笑っていた。
「まさか。彼女じゃないし」
――ドクン
不覚にも大石君のその言葉に、頭が理解するより先に体が反応した。
ちょっと待って。ちょっと待って。それってまるで、あたしが特別だって言ってるみたいじゃない。
だけどあたしだって彼女じゃないし!
顔の熱さに戸惑って、うろうろと視線を彷徨わせる。ちらっと大石君を窺うと、嬉しそうに微笑んでいた。
「ほら、買えたぞ。これ、お釣りな」
突然聞こえてきた佐藤君の声にびっくりする。
大石君は佐藤君からビニール袋を受け取り、そこからカツサンドを取って残りをあたしに手渡した。
「あ、ありがとう」
我に返って佐藤君にもお礼を言うと、「ついでだから」と笑ってくれた。
大石君は、その流れでそのまま佐藤君と一緒に、教室とは違う方向に歩いて行った。
離れて行く大石君の後ろ姿を見ながら、あたしの心臓は未だにドキドキいっている。
まるであたしが特別だと言わんばかりの大石君の言動に、今までのドキドキとは明らかに違う、甘い疼きまで伴っていた。
真奈美も千夏ちゃんもお弁当を持ってきているので、教室で待っててもらっている。
お昼に売店に来るのは初めてで、結構な混みようにちょっとたじろいだ。
どうしようかなー。
おにぎりとコロッケ、残ってるといいな。出来ればついでに美味しいって評判のメロンパンも。
なんてそんなことを考えていたら、突然背後から声をかけられた。
「珍しいな。いつもは弁当、持って来てるよな」
振り返ると、大石君が笑顔で立っていた。
「……大石君も、いつも購買なの?」
ちょっと距離が近いのが嫌で、少し後ろに下がる。それに気が付いたのか、大石君の唇がゆっくりと弧を描いた。
「んー、そういう分けじゃないけど、いづみの姿が見えたから」
その言葉に思わず眉をしかめていると、大石君がゆっくりと上体を曲げてあたしの首筋に顔を近づけてきた。
「ちょっ……」
だけどそれは、慌てて手で退けようとする前に簡単に離れていく。
「いづみ、本当に甘い匂いがする」
まるでうっとりと、蕩けるような甘い声にぞくりとする。細く、甘く眇められたその目も怖い。
ドクドクとうるさく鳴り響く心臓。
体を強ばらせていると、その雰囲気を一掃するように大石君が大声で叫んだ。
「佐藤、悪い。注文お願いしてもいいか!」
「おう。何?」
「いづみは何?」
突然の豹変ぶりに慌てていると、「注文お願いするから」と急かされる。
「あ、おにぎりとコロッケとメロンパンを1個ずつ」
「佐藤、おにぎり、コロッケ、メロンパン1個ずつと、カツサンドふたつ!」
「OK」
その会話の最中に、大石君は思いっきり手を伸ばして佐藤君に千円札を渡していた。それを見て我に返り、自分の代金を払おうと財布を広げる。
「ああ、いいから」
「ダメ、絶対ダメ」
メニュー表を見ながら自分の代金を計算し、渡そうとすると不満そうな顔をされた。それでも引き下がらないあたしに、しぶしぶといった感じでお金を受け取る。
「大石君っていつもそうなの?」
「……何が?」
「だから、沙良や由美にもこうやって奢ってあげたりするの?」
「…………」
返事が無いので訝しんで顔を上げると、大石君が薄く笑っていた。
「まさか。彼女じゃないし」
――ドクン
不覚にも大石君のその言葉に、頭が理解するより先に体が反応した。
ちょっと待って。ちょっと待って。それってまるで、あたしが特別だって言ってるみたいじゃない。
だけどあたしだって彼女じゃないし!
顔の熱さに戸惑って、うろうろと視線を彷徨わせる。ちらっと大石君を窺うと、嬉しそうに微笑んでいた。
「ほら、買えたぞ。これ、お釣りな」
突然聞こえてきた佐藤君の声にびっくりする。
大石君は佐藤君からビニール袋を受け取り、そこからカツサンドを取って残りをあたしに手渡した。
「あ、ありがとう」
我に返って佐藤君にもお礼を言うと、「ついでだから」と笑ってくれた。
大石君は、その流れでそのまま佐藤君と一緒に、教室とは違う方向に歩いて行った。
離れて行く大石君の後ろ姿を見ながら、あたしの心臓は未だにドキドキいっている。
まるであたしが特別だと言わんばかりの大石君の言動に、今までのドキドキとは明らかに違う、甘い疼きまで伴っていた。
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