不思議な縁に導かれました

らいち

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第二章

躾けちゃいなさいよ。……いや、ムリ 2

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「見たわよ、見たわよ。高科さん」

 大谷さんがサラダの盛り付けをする私に近付き、楽しそうに話し掛けた。

「なんですか?」
「またまた~。高科さんの白衣とシャツ。皺なんて一つも無くて、ぴっしゃりしてたじゃないの」

「だって、あれは誰だって気になるでしょう? ただで居候させてもらってる身なんですから、それくらいはしないと」

「ふふっ。そうなんだけどね」 
「で、家での高科さんってどんな感じなの?」
「どんなって……」
「ちょっと大谷さん達、口より手を動かして!」
「はい、すみません」

 パートリーダーの小池さんに叱られて、即座に謝った。大谷さんは、こそっと私に謝って首をすくめる。私はそれに笑顔で応えて、目の前の作業を進めていく。チラッと時間を確認すると、確かにもうおしゃべりしている時間なんかじゃなかった。

 そしていつものように怒涛の時間が過ぎていき、人の波がおさまった頃に高科さんはやって来た。

「あら、まあ!」

 カウンターから高科さんの姿を見た小杉さんが、驚きの声を上げた。高科さんはビックリしたのか、思わず立ち止まる。

「ああ、ごめんなさい。ええっと、日替わり定食ね」

 高科さんはコクリと頷き、そそくさと近くの席に座った。

「それにしても、着ている服が皺くちゃじゃ無いだけで、あんなにも感じが変わって見えるのね」
「そうよねえ。首から下だけ見ていれば、立派な科学者って感じよね」
「そう……、ですね」

 高科さんは、多分一流の研究員なんだろう。ただ一流過ぎて、すこぶる変人になってしまっていると言うだけで。

「ねえねえ、それで家の方はやっぱりゴミ屋敷だったの?」
「はい、そうなんです」

 私は、ほぼ家中が物とゴミで埋め尽くされていたこと。それが昨日一日かけても、全部片付けられなかった事を話した。

「ある程度想像はついていたけど、凄まじい生活ぶりだったのね」
「そうなんですよ。本当に高科さんの頭の中って、研究の事だけでいっぱいみたいです」

 チラリと高科さんに視線を向けた。今の高科さんは家とは違い、食べるスピードはそれ程遅くない。多分それは、食べ終えたらすぐに研究に入れると思っているからなんだろう。
 でもそれでもやっぱり他の人よりはまだまだ完食するには時間が掛かるようで、三十分以上掛けて食べ終えた後、トレイを戻して出て行った。

「でもまあ、忙しいのは最初の内だけよ。奇麗になった後は、高科さんを躾ちゃえばいいのよ」
「ハハ……」

 もっともらしい励ましに、乾いた笑いがこぼれた。頭の中に研究以外の何も入って来ないような高科さんを、どう躾たらいいんだろう? 
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