不思議な縁に導かれました

らいち

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第二章

ごみ屋敷と高科さん 5

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「大丈夫ですか?」
「……何がだ?」
「何がって……。なんだか固まってて、呼んでも反応がないから」
「――ああ、すまん。ちょっと気になる事があって」
「……あ、すみません。もしかして、私との今後の事で悩んでたりしてますか?」
「……は? 今後?」

 え? 何この反応?

「ですから、私が居候する事になったから」
「ああ、その事か。そんな事じゃない」

 そんな事……。

「じゃあ何を? あ、差し障りが無かったら……」

「今進めてる研究の事だ。新商品の開発にあたって、余分な添加物を出来るだけ排除して、なおかつ美味しく作るにはどうしたらいいのかと試行錯誤してる最中なんだ。――体にいい商品として売り出すとは言っても不味くては商品にならないし。かと言って、健康志向の商品でありながら、コストを気にし過ぎて添加物てんこ盛りの商品にはしたくないからな」

「はあ……」

 そうだった。この人の頭の中は普段から研究でいっぱいで、その他の事なんて入る余地も無かったんだった。

 脱力と同時に、もう一度高科さんに視線を向けた。今度はご飯に箸を突き刺したまま、微動だにしない。確かに高科さんの仕事に対する情熱は、尊敬に値すると思うけど。

「高科さん」
「…………」 

 ああ、また思考の海に沈んでいる。

「高科さん!」

 体を揺すりながら大声を出した。どれくらい集中して考え事をしているのか、私の突然の大声にビクッと体を揺らした。

「まずはご飯を食べるのに集中したらどうですか? その方が効率いいと思いますけど」
「あ、ああ。そうだな」

 高科さんがそう素直に頷いてご飯を食べ始めたのでホッとして、私も自分の食事を再開した。相変わらず無言状態が続いていたけど、高科さんの思考のほぼ全てが研究に行ってることを思い出したので、気に留めるのは止めにした。

 食事を終えて高科さんのお弁当を見ると、まだ半分以上が残っている。やっぱりどうしても、ご飯を優先させるのは難しいようだ。私は再度注意するのは止めにして、自分の分を片付け、リビングの掃除を再開した。

 ああ、それにしても……。

 広いリビングを覆い尽くす、この散らかりよう。この感じじゃ、明日一日ではこの家が奇麗になりそうもないか。とりあえず明日は、優先順位を決めて効率良く片付けていこう。

 なかなか食事の終わらない高科さんを見ながら、私はこっそりとため息をついた。
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