不思議な縁に導かれました

第二章

ごみ屋敷と高科さん 4

「ただいま」
「お帰りなさい！」

　高科さんが帰って来たのはいいタイミングだった。ムキになって流しをゴシゴシと擦り、なんとか満足できるレベルになり、お湯を沸かし終えたところだったのだ。

　玄関を開ける音と同時に聞こえて来た帰宅を告げる懐かしい挨拶の言葉に、思わず反射的に立ち上がって返事を返し、玄関まで駆け寄った。もちろんリビングに転がっている様々な物を避けながら。

「お、おう。すまなかった。腹減ってたのか？」
「あっ、や。そういう訳ではないんですけど……」

　高科さんに驚かれて気が付いた。一人暮らしをしばらく続けていたせいで、こういう何気ない挨拶の言葉に、きっと私は飢えていたんだ。

「どうした？」
「あ、いえ、ちょっと。……田舎の母と祖母を思い出してしまって」
「そうか……」
「はい。あ、買い物ありがとうございました」
「米取って来る。その荷物、頼むな」
「はい」

　食パンとカップスープを台所のテーブルに置き、お弁当を広げた。そして家から持ってきた茶葉と急須でお茶を淹れる。

　これはもう、明日は本格的に大掃除だね。このテーブルも、一度も拭いた事なんてないんだろう。少しべたべたしているし。
　でもまあ、男の人の一人暮らしなんてこんなものなんだろうな。少し度が過ぎてるとは思うけど。

「待たせたな。食べようか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
「…………」 
「…………」 

　ん～、どうしよう。空気が重い。
　いただきますの挨拶の後、全くの無言なんですけど。一人の食事は慣れているけれど、他人がいるのに何も喋らない空間というのは、もの凄く居心地が悪い。

　どうしよう。テレビでも点けに立った方がいいのかな？

　チラリと高科さんを窺うと、生姜焼きを箸でつかんだまま固まっている。

「た、高科さん？」

　びっくりして呼び掛けてみるも、高科さんはビクともしない。心配になって腕を揺すってみると、ポロッと生姜焼きをこぼしハッとしたようにこちらを向いた。