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第六章

訪ねて来てくれた牧村君

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 講義を終える時間が早い水曜日は、そのままアパートに戻ってお母さまの夕食を作るようにしている。それでさらに時間が余る時は、勉強もするようにしているのだけれど、やはり平日にアルバイトを入れている時は、その時間を確保するのはなかなか難しい。

 今日も、お母さまの夕食を作り終えて時計を確認すると、既に出かけなくてはいけない時間になっていた。

 慌てて出勤し、更衣室で制服に着替える。週の中日のせいか、店はそれほど混んではいなかった。それでも仕事はたくさんある。テーブルを片付け配膳し、お茶のお代わりを持っていく。手が空いている時には、レジでの会計にも回った。

「桐子さん、少し落ち着いたから賄い食べてきていいわよ」
「ありがとうございます」

 私は、なるべく野菜もお肉もちゃんと取れるメニューを選ぶことにしている。その方が健康的かなと思うから。
 これは、以前の私には無い考えだった。
 だって、体調を悪くしてしまうと働くことが出来なくなってしまうのだもの。今の私たちには、それこそ死活問題だ。

 あんまりのんびり休憩しているわけにはいかないけれど、それでもちゃんと大切に味わってご飯を食べ終え、仕事に戻るべくホールに出た。
 呼び出しチャイムが鳴り、注文を聞きに向かう。

「お決まりで……、牧村君!」
「よう。飯、食いに来たぞ」
「ありがとう。……一人?」
「ああ、今日はサークルの無い日だし、親たちは親戚の結婚式に出かけてる」
「牧村君は一緒に行かないの?」
「母の実家の方だから県外だし、行くとなると大学休まなきゃならないから遠慮した」
「そうなの。あ、ええっと、ご注文は?」
「ああ、これ。若鳥の香草焼き定食で」
「畏まりました」

 ペコリと頭を下げて戻ろうとしたら、牧村君に止められた。

「あ、ちょっと桐子」
「何?」
「お前、終わるの何時?」
「十時だけど」

「……結構遅い時間なんだな。じゃあ、ドリンクバーも付けて。俺、適当に時間潰して待ってるからさ。一緒に帰ろうぜ、送るよ」

「……え? でも、悪いわ」
「何が。店もそう混んでないし、大丈夫だろ。たまにはのんびりさせろよ」
「……牧村君。ええ、分かったわ。じゃあ、後で」
「おう」

 オーダーを伝えに戻りながら、涙がこぼれそうになって焦った。

 最近の私は涙腺が弱い。以前なら、もしかしたら気づかずにいたかもしれない他人のさりげない優しさや気遣いを、敏感に感じるようになってきているようなのだ。そしてそれは、疲弊して落ち込みそうになる私を温かく支えてくれている。

 ……恵まれているわよね、私。
 心の中でホッと息を吐きながら、頑張ろうと拳を握った。
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