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第三章

豹変

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 みんなが励ましてくれたおかげで、高遠さんにこちらから連絡したいという思いを行動に移すことは出来た。
 だけど当の高遠さんは、何度電話をしてもその電話を取ることは無かったし、折り返しの電話すら掛けてきてはくれなかった。

 そうこうしている内に、高遠さんと連絡が取れなくなってから、もう一ケ月が過ぎようとしていた。

 心変わり? 諦めなきゃ、ダメ?

 いろんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡るけど、どうしてもこのままフェイドアウトなんて、私には出来そうもない。
 こんな風に誰かを好きになったのは、初めてなんだ。そんなに簡単に諦められるわけがない。

 私は思い悩んだ末、部活終了後、そのまま高遠さんのマンションに向かった。

 高遠さんの住んでいるマンションは築年数が古いせいか、オートロックマンションではない。玄関先に、インターホンが付いているだけだ。
 その押しボタンを押してチャイムを鳴らしたが、なんの反応も無かった。

 どうしよう。まだ帰ってきてはいないみたいだ。いつ帰って来るのか分からないし……。日を改めた方が良いかしら?

「…………」

 やっぱり待っていよう。今日このまま帰ってしまっては、またいつここに来ようと決心出来るか分からないもの。


 只々高遠さんの帰りを待って、ドアの前に立つ。何もすることは無いし風除けも無いので、だんだんと体が冷えてきてしまった。

「寒い……、お腹も空いちゃった」

 情けない言葉がポロリと零れ落ちる。私は寒さに負けて、そのままドアの傍にしゃがみ込んだ。そして寒さを凌ごうと、体を密着させるため腕で両足を引き寄せ蹲った。 


「桐子、桐子」

 体を揺すぶられて名前を呼ばれ、ハッとする。顔を上げると高遠さんが、心配そうに覗き込んでいた。

「あ、お、お帰りなさい」

 慌てて立ち上がろうとしたら、ふらついた。高遠さんが、慌てて私の手を取って支えてくれる。

「――いつから、そこに居るんだ?」
「あ、ええっと、多分一時間前くらいです」

 低く冷たい声に、体が竦んだ。いつもの優しい高遠さんの声音と違い、それはそっけない冷えたものだった。

「いい機会かもしれないな」
「え?」

 脈絡もなく切り出された言葉。不自然なその言葉に、なんだか嫌な予感がする。

「別れよう、桐子」
「高……遠さん」

 一瞬、何を言われたのかと思った。驚いて高遠さんを見上げる。
 その顔は、今まで見たこともない冷たく無表情なものだった。

「悪いな。最初は興味深いと思えて可愛らしいと思ったことも、付き合っていく内にそれがお嬢様育ちの子供っぽさだと思えてきて、段々鼻につくようになってしまった。多分、これ以上付き合うのは無理だと思う」

「そん……な」

 嘘。信じられない。
 だって、だって最後にここで会った時だって、そんな素振りなんて何も……。

「直します。私が子供っぽいのが駄目なのなら、もっとちゃんとしっかりした女性になれるよう頑張りますから!」
「そういうところが鬱陶しいんだよ」
「……え?」

「お嬢様だから、何でも好きな物は手に入れられると勘違いしてるんじゃないのか? ともかく、君とこれ以上会う気も話す気も無いから、風邪をひく前にさっさと帰るんだな」

「高遠さん、待っ……!」

 最後まで私の言葉を聞こうとはせず、高遠さんは玄関のドアをバタンと閉めてしまった。

「……どうして? だって、高遠さん……」

 ドアに手を伸ばしかけて、だけどドアを叩く勇気も無くて。宙に浮いたその手をキュッと握りしめ、私はそのまま手を下ろした。

 見間違いだろうか? ドアが閉まる直前の高遠さんの顔、私にはとても苦しそうに見えた。まるで本心じゃない言葉を、絞り出しているみたいに。

 自惚れ? とんでもない勘違い?
 だけど私にはどうしても、あの言葉が本心には思えずにいた。
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