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第一章

高遠さんとの出会い

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 レストルームを出て一息吐いた。だけどやっぱりすぐには戻りたくなかったので、私はそのままホテルの外へと出た。

 もうとっくに日も暮れている。ホテルの正面玄関には、格好良い制服にピシッと身を包んだドアマンが、団体のお客さまの案内を気持ちいいほどスムーズに、しかも丁寧に対応をしていた。

「ああいう人たちをプロって言うのよねぇ……」

 本当に、私みたいな唯の大学生を、こんな大事なパーティの手伝いに駆り出すだなんて……。

「キャッ!」
「うわっ……、とっ」

 ドアマンの仕事ぶりに気を取られながら歩いていたら、誰かにまともにぶつかってしまった。

「すみません!」

 ぶつかってよろけそうになったところを支えてもらっていた。慌てて態勢を整えて顔を上げると、とても端正な顔立ちの凄いイケメンが微笑んでいる。

「大丈夫ですか?」
「は……い。大丈夫です」

 黒く澄んだ瞳にジッと見つめられて、心拍数がきっと恐ろしいくらいに跳ね上がった。もしかしたらどきんどきんと煩くなった心臓の音が、この人にも聞こえてしまっているかもしれない。

「あ、あの。それじゃ……」
「もしかして君、新入社員?」
「……え?」

 ペコリと挨拶をして戻ろうと思っていたら、突然話しかけられてびっくりした。
 それにしても、新入社員って……。そんな風に見えるんだろうか?

「君さっきパーティ会場に居て、相良の手伝いをしていただろ?」
「あ、はい! ……え? じゃあもしかして、貴方も?」
「ああ。総務の高遠悠馬たかとおゆうまだ、よろしく。君は?」
「私は桜井桐子です。今日は父の手伝いで来てまして……。社員ではなく大学生です」
「え……、じゃあ君もしかして、社長の……?」
「はい。娘です」
「ああ……っ、そうかぁ。社長のお嬢様か……、これはこれは大変失礼いたしました」

「あ……、いえ! とんでもないです。手伝いにと言われていたのに大したことが出来なくて……。すぐに音を上げて、逃げて来ちゃったんです私」

 本当に社員の方の足手纏いになって無ければ御の字と言うくらいのレベルだ。こんなんじゃ、お父様のメンツも丸潰れじゃないかしら。

 シュンとしてしまった私の頭に、高遠さんが軽く手を置いてポンポンとしてくれた。その感じはまるで、幼い子供を労わりあやすかのように優しい。そして高遠さんは、にっこりと笑った。

「驚きました」
「え?」
「お嬢様ってのは、もっと高慢なのかと思っていました」
「そんな……。確かに父は会社の社長ですけど、それは私とは関係のないことです」

 決して謙遜しているわけじゃない。私は確かにお父様のおかげでいい暮らしをさせてもらっているけれど、だからと言って、私が偉いわけじゃない。
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