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放っておけない

いつものように

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バッカだなあ。俺、ホント馬鹿。

お互いを本当に思いやっているそんな微笑ましい光景だったはずなのに、俺の心は凄くむなしくなっていた。



俺は、そのまま医療センターへと足を向ける。

だけどボランティアの時間はとっくに過ぎていたようで、医療センターに向かう途中で芙蓉が向こうからやってきた。



「遅かったな。もうとっくにお開きだ」

「…そっか」



子供たちと遊びたかったな。

でも終わってるんなら仕方がない、俺も芙蓉と一緒に帰る事にした。





俺は恋心を自覚し始めた所で、相手に伝える事も出来ずに失恋してしまった。

しかもその子は真剣に必死に恋愛をしていた。相手の事だけを考えて、身を切られるような思いだったはずなのに、自分から彼のために諦めようとしていた。

そのためには、どんな手段でも取ろうと思っていたのだろう。



―――ごめんなさい。



他人を騙すだなんて慣れていなさそうな子だったから、きっと辛かったはずだ。俺なんかこんな事、別に慣れているのに…。



くしゃり。



髪の毛を混ぜられる感触にハッとする。

意識を前に向けると、芙蓉が優しく俺の頭を撫でていた。



「お前の事だ。また、お節介な事でもしてたんだろ」

「芙蓉…」

「良いんじゃないのか?らしくて」



そう言って頭から手をするりと下ろし、肩に手を置き俺の顔を覗き込んでくる。



何でこんな時に限って優しくするんだよ? ずっと、我慢していたのに。



俺は、とうとう堪え切れなくなって、芙蓉の胸に頭を押しつけた。涙が止め処もなく流れてくる。

俺は芙蓉のシャツを握りしめ、嗚咽を漏らした。



芙蓉は一瞬びっくりしたように固まったけれど、一呼吸置いた後、そっと俺の背中に手をまわしてきた。

優しく背中を撫でる手。

俺はそんな芙蓉の態度に、いつの間にか意地を張るのも忘れてしまっていた。

恥ずかしいけれど、その後俺は芙蓉の胸で声を上げて泣いてしまっていたのだ。



十五分、二十分くらい泣いていただろうか? ようやく落ち着いて来て、涙もだんだん乾いてきた。



「落ち着いたか?」



芙蓉の手は、俺の背中にまわったままだ。



「う、うん」



芙蓉の顔を見るのは、かなり恥ずかしい。俺は下を向いたまま、ゆっくりと体を離した。





「お前は、そのままでいいさ」

「え?」



突然の意外な芙蓉の言葉に、俺は思わず顔を上げる。



「言ったろ?監視してやるから、有難く思えって」

「芙蓉…」



「ほら、帰るぞ」



当たり前のように芙蓉はそう言って、歩き始めた。

相変わらずの、捻くれた芙蓉の優しさ。



「うん」





俺もいつものように、芙蓉の後をついて行った。



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