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天使と悪魔

優しくて冷たい天使 2

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「ちょっと、帰るってお前…っ」
「ほら」

強い力で引っ張られ、俺は強引に病院の廊下を出口に向かって歩かされていた。

「芙蓉ってば、おいっ」

何度呼んでも芙蓉は振り向こうとすらしない。そのまま俺を引っ張って歩いている。

「芙蓉!! なんでお前、時々そんな冷たいんだよ! あの子泣いてたぞ」

突然芙蓉が足を止めたので、手を引かれた状態の俺は一瞬ぶつかりそうになる。

「言いたいことはそれだけか」

ゆっくりと振り向いた芙蓉の顔は、見たことも無いくらい怖い顔だった。冷たい瞳で刺すように俺を見ている。
芙蓉が時々見せる冷ややかな一面。俺は無性に腹が立った。

こいつの、こういう所が大嫌いなんだよ!

頭にきた俺は、彼女とは全く関係ないが、今まで思っていた事を芙蓉にぶちまけていた。

「まだある! お前本当は、病気とか治してやる力、あるんじゃないのか? あそこの病院には小児がんの子たちも居るんだろ? お前なら治してやる事も出来るだろ」

頭にきて怒鳴る俺とは正反対に、芙蓉はやけに冷めた表情だった。

「試してないから分からんな」

全く抑揚のない平坦な声だった。だから余計に俺をカチンとさせる。

「はあ!? ふつう試すだろ」
「バカか、お前は」
「なっ!? バカ!?」

「些細な事かもしれないけど、人ひとりの運命を変えるって事は歴史を変える事に繋がりかねないんだぞ。許されるわけがないだろうが、そんな事!」

「冷てえ」

あまりの正論をたれる芙蓉から視線を外して、俺はボソッと文句を言った。

「こんな事は、基本だ」

芙蓉はもう良いだろうと言うように、繋いだままになっていた俺の手を引っ張り歩き出す。

「ほら、さっさと歩け」

俺は慌ててその手を引き戻し抵抗した。

「待てよっ、あの子泣かせたままでいいのかよ」
「俺には関係ない」

結局俺の抵抗を物ともせずに、芙蓉は力任せに俺を引っ張って、家へと連れ帰って行った。

最低ヤロー! 
なんでこんな奴が天使なんだよ。

俺はこういう時、人生ってすげえ理不尽だって、いつも思うんだ。
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