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第二章
やっぱり特別
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翌日、いつものように二人で登校して、私が鞄を置きに行っている隙に大桃さんたちがヒロくんの周りに群がっていた。そしてなんだかんだとヒロくんに話しかけるから、無視できない彼は苦笑しながら返事を返している。
なんなの、あれ。陰謀がばれたら、今度は開き直り?
不機嫌にじっと見ていたら美代と目が合った。合ったと同時に美代は冷ややかな表情になり、くっと顎を上げてプイッと視線を外した。
何あいつ、何あいつ。もう~、怒った、絶対に怒った!
「未花ちゃーん」
「何よ?」
男子からの呼びかけに不機嫌に振り返る。私に殴られない距離を保って、三宅君と松永君が立っていた。彼らは私の顔を見てぎょっとする。
「や……、やだな。なに怒ってんだよ。かわいい顔が台無しだよ?」
「だって~」
「そうか! そんなことがあったのか!」
三宅君たちと向き合う私の斜め後ろからの声と同時に、突然グイッと抱き寄せられて、ぶわっと鳥肌が立った。反射的に力いっぱい突き飛ばし、鉄拳がうなる。
「まだ何も言ってないわよ!」
それはしっかりと顎にヒットした。まったくの条件反射で誰を殴ったのかは分からなかったんだけど、椅子にぶつかって床に転がっているのは玉川だった。
しんと静まり返った教室の中、みんなは床に転がる玉川と私を交互に見ている。
こんなに体中に鳥肌が立ったのは久しぶりだ。気持ちが悪くて居ても立ってもいられない。私はバタバタと走って教室を出て、その勢いでそのまま校舎を出た。
あ~、もう。ヤダヤダヤダ。気持ちが悪い!
気が付いたら中庭まで出ていた。そこで立ち止まって、パタパタと全身を叩く。それでもまだまだ、気持ちの悪さは治まらなかった。
「未花ちゃん!」
「……ヒロくん」
「大丈夫?」
私の後を、ヒロくんが追いかけて来てくれた。それにちょっと嬉しいと思ったけど、それでも嫌なぞくぞく感は治まりそうにない。
「……気持ち悪い」
唇を尖らせて文句を言うと、ヒロくんがゆっくり近づいてきて、私の腕を擦り始める。
「どう?」
「うん……」
腕を擦ったり手をにぎにぎしたり。ヒロくんが触る個所から、ぞくぞくしていた悪寒が温かく緩んでくる。
不思議。同じ男の子でもヒロくんだけは、他の人達とは全然違う。
安心感からホッとした。そしてその気持ちが、徐々に甘えたい気持ちへと変わり始める。
――ぽふん。
その気持ちのままに、そっとヒロくんの肩口に頭を寄せる。凭れ掛かる私に、一瞬手の動きを止めたヒロくんは、ゆっくりと私の背中に腕を回した。
「……あったかい」
私がそうポツリと呟くと、ヒロくんがホッとしたかのように体の力を抜いた。
やっぱりヒロくんは特別だ。抱きしめられてもうれしいだけで、あんな風に気持ちが悪いとは思わない。
とくんとくんと少し早めに響く心音を幸せな思いで聞きながら、私とヒロくんは時間の許す限りそのまま抱きあっていた。
なんなの、あれ。陰謀がばれたら、今度は開き直り?
不機嫌にじっと見ていたら美代と目が合った。合ったと同時に美代は冷ややかな表情になり、くっと顎を上げてプイッと視線を外した。
何あいつ、何あいつ。もう~、怒った、絶対に怒った!
「未花ちゃーん」
「何よ?」
男子からの呼びかけに不機嫌に振り返る。私に殴られない距離を保って、三宅君と松永君が立っていた。彼らは私の顔を見てぎょっとする。
「や……、やだな。なに怒ってんだよ。かわいい顔が台無しだよ?」
「だって~」
「そうか! そんなことがあったのか!」
三宅君たちと向き合う私の斜め後ろからの声と同時に、突然グイッと抱き寄せられて、ぶわっと鳥肌が立った。反射的に力いっぱい突き飛ばし、鉄拳がうなる。
「まだ何も言ってないわよ!」
それはしっかりと顎にヒットした。まったくの条件反射で誰を殴ったのかは分からなかったんだけど、椅子にぶつかって床に転がっているのは玉川だった。
しんと静まり返った教室の中、みんなは床に転がる玉川と私を交互に見ている。
こんなに体中に鳥肌が立ったのは久しぶりだ。気持ちが悪くて居ても立ってもいられない。私はバタバタと走って教室を出て、その勢いでそのまま校舎を出た。
あ~、もう。ヤダヤダヤダ。気持ちが悪い!
気が付いたら中庭まで出ていた。そこで立ち止まって、パタパタと全身を叩く。それでもまだまだ、気持ちの悪さは治まらなかった。
「未花ちゃん!」
「……ヒロくん」
「大丈夫?」
私の後を、ヒロくんが追いかけて来てくれた。それにちょっと嬉しいと思ったけど、それでも嫌なぞくぞく感は治まりそうにない。
「……気持ち悪い」
唇を尖らせて文句を言うと、ヒロくんがゆっくり近づいてきて、私の腕を擦り始める。
「どう?」
「うん……」
腕を擦ったり手をにぎにぎしたり。ヒロくんが触る個所から、ぞくぞくしていた悪寒が温かく緩んでくる。
不思議。同じ男の子でもヒロくんだけは、他の人達とは全然違う。
安心感からホッとした。そしてその気持ちが、徐々に甘えたい気持ちへと変わり始める。
――ぽふん。
その気持ちのままに、そっとヒロくんの肩口に頭を寄せる。凭れ掛かる私に、一瞬手の動きを止めたヒロくんは、ゆっくりと私の背中に腕を回した。
「……あったかい」
私がそうポツリと呟くと、ヒロくんがホッとしたかのように体の力を抜いた。
やっぱりヒロくんは特別だ。抱きしめられてもうれしいだけで、あんな風に気持ちが悪いとは思わない。
とくんとくんと少し早めに響く心音を幸せな思いで聞きながら、私とヒロくんは時間の許す限りそのまま抱きあっていた。
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