上 下
18 / 75
第一章

気にしないでよ

しおりを挟む
 椎名君もそのまま合流し三人になって、私たちはそのまま教室へと向かった。案の定というか何と言うか、秋永君と二人の時よりももっと驚いたような表情で、皆が私たちを振り返って行く。

「いやー、すごいなあ。有名人にでもなったような気分だ」

 ケラケラと楽しそうに笑う椎名君に、呆れたように秋永君が小突く。じゃれるように応酬しあう彼らを見ていると、ムッとする自分がなんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
 すごいなあ。気持ちの持ちよう一つで、同じことでも違うように感じられるんだな……。

「おはよう、秋永君、椎名君。……あ、糸魚川さんも……?」

 教室に着くと、近くにいた芝塚さんが秋永君達に気づき挨拶をした。だけど同時に私が一緒にいることに気が付き驚いたように目を丸くする。

「おはよう」

 苦笑して返事をする私に、秋永君も笑って答えた。

「おはよう。未花ちゃんとは一緒に登下校することにしたんだ」
「ボディガードだってさ、こいつ」

 椎名君は揶揄うように秋永君の肩に手を回して、相変わらずケラケラと楽しそうに笑っている。その彼らの言葉に、近くにいたみんなは一斉に驚いたような表情になった。

 秋永君たちから離れて自分の席に着いても、皆の驚きは変わらないようで、いつもよりじろじろと見られているような気がしてならない。
 そりゃね、私は男嫌いだよ。なのにその男の秋永君にボディガードを頼んでるって確かに変かもしれないけどさ。でもそんなふうにあからさまに変な目で見なくてもよくない?

 ほんのちょっと前に、椎名君たちのおかげで気を取り直し始めていたのに、なんだかまたモヤモヤし始めてしまった。席に着いてため息を吐く。

「未花、おはよ!」
「雅乃! あー、良かった。おはよ~」
「何? どうしたの?」

 私の一番の理解者、雅乃の顔を見てやっと平常心に戻ることが出来た。彼女は私の今までの不幸を身近で知る機会が多かったせいもあり、私の過剰な男嫌いを心底理解してくれているから。

「うん。……まあ、大したことじゃないんだけどね。例の如く色々モヤモヤしちゃって」
「ふうん? でも今日は痴漢には遭ってないんでしょ? 秋永君と一緒だったよね?」
「うん、まあ、ね」

 微妙に歪んだ私の表情を見て雅乃は教室内を見回した。それで私の気持ちに気づいたのか、「ああ、なるほどね」と小さくつぶやいた。

「らしくないな。気にしない、気にしない」
「分かってる。……でも、私のことなんか一々気にしないで欲しいんだよね。ウザいったらありゃしない」

 イライラしながらそう言うと、雅乃は笑って私の肩をポンポンと叩く。先生が教室に入ってくるのに気が付いて、雅乃は自分の席へと歩いて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...