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第四章

見ててね、翔

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 あ~、緊張する。今日これから、バレーボール部に入部しに行くのだ。ドキドキしてるよ。

「中山さん、いよいよだね」
「小川君……。うん」
「緊張してるの?」
「してるよ……。目いっぱい頑張りたいって思うものに挑戦するなんて久し振りだし」
「……そっか。そうだよな」
「うれしそうだね小川君~」
 ニヤニヤしながら佳奈が近付いてきた。

「そりゃ、中山さんの楽しそうな姿を見たいってずっと思ってたからね」
 ……なぜドヤ顔。

「まあね。その点に関しては、小川君には感謝しているよ」
「うわっ、高橋さんに認められた!」
「もう! だから昨日謝ったでしょ」

 二人のふざけた会話で、私の緊張も少しほぐれてきた。……狙ってやってくれてるんだろうか。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
「そうだね」

 当たり前のように、教室を出る佳奈と私と一緒に小川君もついてきた。そして、いつもは佳奈と別れる場所で立ち止まる。

「じゃあ、頑張ってきてな。目いっぱい楽しんで」
「うん、ありがとう」

 バイバイと手を振って別れた。
 だけど別れてからも、小川君はしばらく私たちを見送ってくれていたようだった。振り返るとまた手を振ってくれる。

「いい奴だよねー、小川君」
「うん」

 最初はただのウザい奴だと思っていたけど、本当にいい人だった。

「運動神経いいと、もっといいんだけどなあ」
「なに言ってんのよ、佳奈」

 よく分からないけど、小川君の良さは、そういうものとは違うような気がするんだ。じゃあなんなのと聞かれても答えられないけど。

「ほら、着いたよ。部室」

 緊張する間もなく、佳奈が「こんにちはー」とドアを開けた。
 私は元気よく、「こんにちは、入部希望の中山楓です。よろしくお願いします」と頭を下げた。

 見ててね、翔。お姉ちゃん頑張るから!
 心の中でそう呟いて、私はパッと顔を上げた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

YK
2023.06.26 YK

はじめて、読ませていただきました。
続きを楽しみにしています!

らいち
2023.06.26 らいち

ありがとうございます。
よろしくお願いいたします。

解除

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