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第四章
頑張るから!
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「……泣いてるよ翔君」
「え……?」
「なんのために翔君が、神様に怒られながらも勝手に中山さんに会いに来てると思ってるの? 大好きなお姉ちゃんに、幸せになってもらいたいって思ってるからじゃないか……!」
小川君が泣いていた。自分のことでもないのに、ポロポロポロポロ大粒の涙をこぼして涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら。
「翔……」
こんなときなのに、小川君のことが羨ましくて妬ましかった。今の私には、翔の姿は見えないし声も聞こえない。
「翔……。お願い、もう一度声を聞かせて? 顔も見たいよ……」
抱きしめている姿勢をとっていても、感触はおぼつかない。一生懸命、ここに翔がいると思い込んでいるからそう感じられるだけで、本当はここにはいないんじゃないかと思ってしまいそうになるくらい、私には現実味がなかった。
空気を抱いているような腕も疲れてくるし、さっきかすかに見えた翔の姿や声がなかったら、小川君が今私に話している内容だって信じられるかどうかも分からない。
「……ちゃ、……だけに……って」
――え?
今、小さく途切れ途切れにかすれた声が聞こえた。
「翔? 翔だよね! もう一度話して! ねえ、今! 翔、私に話しかけてくれたよね!」
小川君は、あいかわらず涙でぐちゃぐちゃの顔で笑顔をつくり頷いた。佳奈も隣で、ハンカチを顔に押し当てて嗚咽をあげている。
「お願い翔。一生懸命聞くから、もう一回話して」
姿は見えないけれどそこに翔がいると信じて、一点を真剣に見つめた。
すぐには何も聞こえなかった。だけど、諦めない思いで根気強く待った。
「ちゃ……くとの思……出を……らいことだ……にしないで」
「……!」
―― 中山さんも後悔したことばかり思い出さないで、翔君との楽しかったこととかも思い出してあげたらいいんじゃないかな。その方が翔君もうれしいと思うよ。
「……ちゃん、楽し……こと……っぱいして。ぼく……分も……あわせになって」
「翔……」
ぶわっと涙が溢れ出た。
本心なの? 翔の願いはそれなの?
私……それを、受け入れて……いいの?
涙が止まらなくて、顔を上げることができなかった。
信じられない思いと後悔で、心の中がぐちゃぐちゃだ。償い続けるしかないと、それが唯一のことだと信じていた私のその気持ちのなにもかもが、翔に心配をかけて悲しませていただなんて。
「おね……ちゃ……」
翔に呼ばれて顔を上げた。小さな丸い球体が、白く光って浮いている。
「翔?」
嫌な予感がした。もしかしたらもう、戻らないといけない時間なの?
「待って、翔!」
――ごめんね、おねえちゃん。神様がもうダメだって。もう時間だって。
耳で聞こえる声じゃなかった。直接、頭に響く声だった。
「翔!」
―― 最後に……ぼくに伝えたいことある?
あっ……。
「ある、あるよ。今まで翔の気持ち分かってなくてごめん。一緒に遊んだことや楽しかったことを思い出せてなくてごめん。私も……頑張るから、だから……翔も向こうに戻っても幸せでいて!」
「おね……ちゃ……」
ぱあっと白く光り輝くその中で、翔が一瞬笑顔を見せてくれたような気がした。
「あ……翔!」
気配がスッと消えた。姿が見えていたわけではなかったけれど、ぼんやりと感じていた気配も最後に見せてくれた光も、そのなにもかもが全く消えてしまったのだ。
涙が止まらない。後から後から溢れ出てきて、視界がにじんで何も見えない。
そんな私を、佳奈が優しく抱きしめてくれた。
翔、ごめんね。自分のことしか見えていなくて、ごめん。翔のこと、本当に思ってあげられてなくてごめん。
「私……間違ってた」
「いいんだよ、そんなの! 楓はただ償いたかっただけじゃん。楓だって傷ついていたし。きっと翔君だって、分かってくれてるよ」
「そう……かな」
佳奈に抱きしめられたまま涙をぬぐった。その気配に気が付いたのか、佳奈がゆっくりと腕を離した。
「そうだよ、絶対そう! ねっ、小川君?」
「うん。翔君は、ただ中山さんのことが心配だっただけなんだ。だって、大好きなお姉ちゃんが好きなことをするのを怖がるだなんて、見ていたくなんてないだろう?」
「小川君……。うん、ありがとう」
心から素直にお礼が言えた。それと同時に、翔が小川君に姿を見せてくれたことを、本当にありがたいと思った。
「あー、あのさ……。ごめんね小川君」
佳奈が気まずそうに小川君に謝った。
「えっ?」
「いや、ほらさ。私小川君に、ずいぶんひどいこと言ったじゃない。だからさ……」
「ああ、いや。俺が翔君のこと見えてるって分かってたわけじゃないからさ、しょうがないよ」
「うん、でもさ……」
「いいから、いいから。それより女子のドッジボール見にいこうよ。応援しなきゃ」
「あっ、そうだった!」
「忘れてたね!」
「行こう、楓」
「うん」
佳奈が私の腕を取って走りだす。走りながら振り返ったけれど、やっぱり翔がいたあの気配はなにも残ってはいなかった。
「え……?」
「なんのために翔君が、神様に怒られながらも勝手に中山さんに会いに来てると思ってるの? 大好きなお姉ちゃんに、幸せになってもらいたいって思ってるからじゃないか……!」
小川君が泣いていた。自分のことでもないのに、ポロポロポロポロ大粒の涙をこぼして涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら。
「翔……」
こんなときなのに、小川君のことが羨ましくて妬ましかった。今の私には、翔の姿は見えないし声も聞こえない。
「翔……。お願い、もう一度声を聞かせて? 顔も見たいよ……」
抱きしめている姿勢をとっていても、感触はおぼつかない。一生懸命、ここに翔がいると思い込んでいるからそう感じられるだけで、本当はここにはいないんじゃないかと思ってしまいそうになるくらい、私には現実味がなかった。
空気を抱いているような腕も疲れてくるし、さっきかすかに見えた翔の姿や声がなかったら、小川君が今私に話している内容だって信じられるかどうかも分からない。
「……ちゃ、……だけに……って」
――え?
今、小さく途切れ途切れにかすれた声が聞こえた。
「翔? 翔だよね! もう一度話して! ねえ、今! 翔、私に話しかけてくれたよね!」
小川君は、あいかわらず涙でぐちゃぐちゃの顔で笑顔をつくり頷いた。佳奈も隣で、ハンカチを顔に押し当てて嗚咽をあげている。
「お願い翔。一生懸命聞くから、もう一回話して」
姿は見えないけれどそこに翔がいると信じて、一点を真剣に見つめた。
すぐには何も聞こえなかった。だけど、諦めない思いで根気強く待った。
「ちゃ……くとの思……出を……らいことだ……にしないで」
「……!」
―― 中山さんも後悔したことばかり思い出さないで、翔君との楽しかったこととかも思い出してあげたらいいんじゃないかな。その方が翔君もうれしいと思うよ。
「……ちゃん、楽し……こと……っぱいして。ぼく……分も……あわせになって」
「翔……」
ぶわっと涙が溢れ出た。
本心なの? 翔の願いはそれなの?
私……それを、受け入れて……いいの?
涙が止まらなくて、顔を上げることができなかった。
信じられない思いと後悔で、心の中がぐちゃぐちゃだ。償い続けるしかないと、それが唯一のことだと信じていた私のその気持ちのなにもかもが、翔に心配をかけて悲しませていただなんて。
「おね……ちゃ……」
翔に呼ばれて顔を上げた。小さな丸い球体が、白く光って浮いている。
「翔?」
嫌な予感がした。もしかしたらもう、戻らないといけない時間なの?
「待って、翔!」
――ごめんね、おねえちゃん。神様がもうダメだって。もう時間だって。
耳で聞こえる声じゃなかった。直接、頭に響く声だった。
「翔!」
―― 最後に……ぼくに伝えたいことある?
あっ……。
「ある、あるよ。今まで翔の気持ち分かってなくてごめん。一緒に遊んだことや楽しかったことを思い出せてなくてごめん。私も……頑張るから、だから……翔も向こうに戻っても幸せでいて!」
「おね……ちゃ……」
ぱあっと白く光り輝くその中で、翔が一瞬笑顔を見せてくれたような気がした。
「あ……翔!」
気配がスッと消えた。姿が見えていたわけではなかったけれど、ぼんやりと感じていた気配も最後に見せてくれた光も、そのなにもかもが全く消えてしまったのだ。
涙が止まらない。後から後から溢れ出てきて、視界がにじんで何も見えない。
そんな私を、佳奈が優しく抱きしめてくれた。
翔、ごめんね。自分のことしか見えていなくて、ごめん。翔のこと、本当に思ってあげられてなくてごめん。
「私……間違ってた」
「いいんだよ、そんなの! 楓はただ償いたかっただけじゃん。楓だって傷ついていたし。きっと翔君だって、分かってくれてるよ」
「そう……かな」
佳奈に抱きしめられたまま涙をぬぐった。その気配に気が付いたのか、佳奈がゆっくりと腕を離した。
「そうだよ、絶対そう! ねっ、小川君?」
「うん。翔君は、ただ中山さんのことが心配だっただけなんだ。だって、大好きなお姉ちゃんが好きなことをするのを怖がるだなんて、見ていたくなんてないだろう?」
「小川君……。うん、ありがとう」
心から素直にお礼が言えた。それと同時に、翔が小川君に姿を見せてくれたことを、本当にありがたいと思った。
「あー、あのさ……。ごめんね小川君」
佳奈が気まずそうに小川君に謝った。
「えっ?」
「いや、ほらさ。私小川君に、ずいぶんひどいこと言ったじゃない。だからさ……」
「ああ、いや。俺が翔君のこと見えてるって分かってたわけじゃないからさ、しょうがないよ」
「うん、でもさ……」
「いいから、いいから。それより女子のドッジボール見にいこうよ。応援しなきゃ」
「あっ、そうだった!」
「忘れてたね!」
「行こう、楓」
「うん」
佳奈が私の腕を取って走りだす。走りながら振り返ったけれど、やっぱり翔がいたあの気配はなにも残ってはいなかった。
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