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第四章

佳奈はすごいんだ

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 小川君たちともう少し勝利の余韻を楽しんでいたい気もしたけれど、バレーボールの試合が始まる時間が迫っていたので、私たちはすぐに移動した。

 女子バレーの対戦相手は同じ一年の一組。見たところ、そんなに強そうな人はいなさそうだ。先攻が私たち三組に決まり、佳奈の手にボールが移った。

 佳奈はボールの感触を確かめるように、ポンポンとバウンドさせている。その表情のなんて楽しそうなこと。
 相手チーム、緊張してそうだなあ。

「あっ!」
 私の隣で美穂さんが叫んだ。佳奈のサーブがさく裂し、相手側はビビッて手が出せなかったのだ。ボールがポンポンとコート外に転がっていく。

「すごい……」
「だね」

 笑いながら頷くと、美穂さんは盛大なため息をつく。

「世の中にはあーゆーすごい人がいるんだよね。不公平だよ」
 思いっきりの愚痴に、苦笑するしかなかった。だけど――
「好きだからってのもあるんだよ。だって佳奈、小学校の頃からバレーボール一筋で、泣きながらも頑張ってたから」
「えっ? 泣いて? あの佳奈さんが?」
「うん」

 美穂さんの信じられないという顔に、少し気持ちが解れた。

 ずっと忘れてたけど、そうだったんだよな。佳奈は小学生のとき監督に怒られたりチームメイトと些細なことで喧嘩したりで、しょっちゅう愚痴ってた。怒ったり泣いたり忙しかった。

 でも、それでも佳奈はやめずにバレーボールを続けたんだ。そのうちにどんどん上達して、みんなともうまくいくようになって。だからきっと、きっと不公平だなんて言えない。

「小学生のときから一筋って、どこかのチームに入っていたの?」
「うん、そうだよ」
「そっかー、すごいんだなあ」

 うん。……佳奈はすごいんだよ。

 私たちの目の前で、佳奈はサーブを一人で何本も決め、スパイクも何本も決めた。吉田さんとのコンビネーションも最高で、彼女もきれいなトスを何本も上げている。

 さっきの、インターハイ予選に出られるかもしれないって話を聞いた後でこんなキラキラしている佳奈を見ていると、正直どうしても心の底から喜べない、妬ましくて暗い嫌な気持ちが湧き上がってくる。そんな自分にとても戸惑う。
 でも、それでも……矛盾しているみたいだけれど、妬ましい気持ちと同時に、親友としてとても誇らしい気持ちになるのも事実なんだよ。

「うわあ、また決めたよ、佳奈さん! すごーい」
「一組萎縮してる。うちの勝ちだね」
「うんうん、これ勝ってさ、次もまた絶対いいとこまでいっちゃうよ」

 応援しているみんなの予想通り、結局佳奈を中心にしたうちのクラスは圧巻で、ストレートで勝ちを決めた。

「おめでとー、やったね!」
「すごかったよー」

 応援組に称えられてみんなうれしそうだ。

「次もきっと楽勝だよ!」
「ありがとう。でもたぶん次は厳しいかも」
「ええ~? あっ、もしかして、バレー部の人がいるの?」
「いないけど。五組は体育会系の部活の人が多いからね~。全体的に運動神経のいい人が多いんじゃないかな」
「あ~」
「でも私たち三組だって負けてないよ!」

 吉田さんが、グッと力強くこぶしをにぎった。
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