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第二章

練習

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「みんな張り切ってるよね……」
「……だね」

 体育の授業は前回に引き続きバレーボールだ。ただ球技大会のメンバーが決まり大会が近付いてきているということもあって、それぞれ自由に練習していいということになった。

「ドッジボールの人たちはのんびりムードだけど……」
「こっちのみんなは、マジモードだね」

 私と美穂さんは一応補欠という立場になっているので、バレーボールに出る人たちに呼ばれて一緒に練習をするはめに陥っている。
 とは言ってもそこは補欠なので、参加してはいても見学と似たようなものだ。大きめの円を組んだ輪の中で、ボールを目で追っている。

「いくよ、美穂さん!」
「うわわっ、はいぃ~」

 こないと思っていたところでの突然の指名に、美穂さんは慌ててボールを追った。うまい具合にレシーブが決まり、ボールはきれいに弧を描く。

「美穂さん、ナーイス!」
「いいね、いいね! じゃあ次は中山さん!」
 名前を呼ばれれば拾うしかないので、私もしっかりとボールを返した。
「その調子、その調子!」

 運動音痴な私たちにも前向きになってもらいたいのだろう。みんな笑顔で私たちを励ましている。佳奈だけは複雑な表情で私を見ているけれど。

 チラリと横の美穂さんを窺うと目があった。

「自分の所にくるって分かっていれば、なんとか取れるんだよね……」

 ため息つきながら話す美穂さんのそれは本心なんだろう。きちんとしたくても出来ない彼女と、まじめに向き合うことをしてはいけない私とでは根本的にいろいろと違うようだ。

「ねえ、ウォーミングアップはそのくらいにして、ゲーム形式でやろうよ」
「だね。ドッジボールの人たちからも来てもらおうか」

 美穂さんが、私の袖をクイクイと引っ張った。
「私たちも出る前提かな?」
「……たぶん。補欠だからね」

 移動するみんなについていきながら、美穂さんは明らかに落胆していた。
 よっぽど苦手なんだろう。昔の私ならきっと、いろいろ構ってなんとかバレーボールを好きになってもらおうとするんだろうけど。

「…………」 
 私ってば、なに考えてるんだか。

 チーム分けは一斉にジャンケンをして、勝った人のグループと負けた人のグループというように、各々の強さとは関係なしに決めることになった。
 ……それはいいんだけど。おかげで強い佳奈と吉田さんが同じチームになっている。ついでに私も。

「中山さんと別れちゃった」
「そうだね。……まあ、頑張ろう」
「うん……」
 心細そうだけど、どうにもしてあげられないもんなあ。でもこのチームよりは、向こうのほうがまだマシだと思うげどね。

「じゃあ、いくよー」

 佳奈がボールを軽く上げ、勢いのあるサーブを放った。相手はうまく拾えず、また佳奈がサーブを打つことになる。
 やっぱ、佳奈はすごいなあ。小学生のときからずっと、夢中で取り組んできただけのことはあるよ。

「中山さん、ボール!」

 うわわっ。
 佳奈に感心してよそ見をしていた。慌ててボールを拾おうとしたのだけど、それは運悪く出した手のはじっこに当たり、ボールは明後日の方向に飛んでいきアウトになった。

「もう、中山さんぼーっとしてないでよ」
 吉田さんがギロリと私を睨んだ。本当に嫌そうな顔だ。

「ごっ、ごめん」
「ドンマイ、ドンマイ! リラックスしていくよー」

 佳奈がパンパンと手を叩く。明るい顔と元気な笑顔で。
 こういうときの佳奈は救世主的ムードメーカーになる。雰囲気悪く固まりそうなみんなを、柔らかく解してくれるんだ。

「いくよー。ソーレ!」

 相手チームからのサーブを、細井ほそいさんが受ける。ジャンケンで決まったリベロ担当だ。
 とはいっても、細井さん自身は嫌がってるふうには見えなかった。なんだか楽しそうだし、バレーボールが好きなのかもしれない。

 でも私はできるだけ参加したくなんてなかった。だから近くにボールが飛んできたときは上手に避けて、なるべく隣の子にさせるように気を付けていた。そんな私の様子を吉田さんが冷たい目で見ていることに気が付いてはいたけれど、素知らぬふりで通した。
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