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第一章
部活なんてしない
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私にはどんなに後悔してもしきれないことがある。それにどう償えばいいのかと考え続け、気が付いたら五年と五カ月が過ぎていた。高校生になった今も、ずっとそのことばかりを考えている。
「ねえ楓、やっぱり入部しないの? もうそろそろ、いいんじゃないかなあって思うんだけど」
帰り支度をしている私に話しかけているのは、小学校時代からの親友、高橋佳奈だ。彼女はバレーボールに打ち込んでいて、夢はオリンピック選手。
「入らないよ。高校でも、部活する気なんてないから」
私がきっぱりそう言うと、佳奈は困ったように笑って、「そっか」と頷いた。
「佳奈はこれから部活でしょう?」
「うん。そこまで一緒に、」
「ちょっと待って、中山さんバレーとかバスケとか入んないの?」
私と佳奈との会話に突然、小川君が割り込んできた。眉をしかめた私に、小川君はバツが悪そうに頭を掻いている。
「だってさ、中山さん小学生の時スッゲー運動神経良かったじゃない。それなのにどこの部にも入らないなんてもったいないよ!」
「……それは昔の話。小川君には関係ないでしょ」
「そりゃ、ないかもしれないけど。俺スポーツ関係まったくダメだからさ、うまい人に憧れるんだよね。中山さんに久し振りに再会してうれしかったし……」
「だったら幻滅するよ。もう今は違うもん。てことで、いこっか佳奈」
「うん」
小川君の言葉をさえぎって、私は佳奈と教室を出た。態度悪過ぎたかなと少し反省したのだけど、性懲りもなく後ろから小川君がついてくるのに気が付いて、もっとしっかり冷たくすればよかったと思った。
「楓、小川君ついてきてる」
佳奈も気持ち悪いと思ったのか、嫌そうな顔をしながら小声で私に報告した。
「だね」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。適当にいなすから。部活、頑張ってきて」
「うん、分かった。じゃあ、また明日ね」
「バイバイ」
部活に向かう佳奈と別れて校門を出た。小川君がまだついてきているのは分かっていたけど、こちらには用事がないので無視してさっさと歩く。
「なあ」
「…………」
「なあってば」
「…………」
「中山さん、高橋さんと友達だろう? もし人見知りとかで入部するのに躊躇してるなら、高橋さんと同じ部に入れば――」
「はあ? なにわけ分かんないこと言ってんのよ。んなわけないでしょ」
「だったら!」
迷惑だって態度でしっかり示しているのに、しつこく食い下がる小川君にキレた。
「うるさいわね、なんなのあんた!」
「だって本当にもったいな……」
「なにも知らないくせに余計な口出ししないで。ほっといてよ!」
のんきな顔で、のんきに良いことを言ってあげてる気になっている小川君に腹が立った。
なんにも知らないくせに! 私がどんな気持ちでいるか分からないくせに!
小川君がまだなにか言っているような気がしたけれど、構わないで全速力で家まで走った。
きっとすごい形相だったに違いない。だって、通りすぎて行く人たちの中には、ギョッとしたような表情で私を振り返っていく人たちが何人かいたから。
「あ~、だるっ」
全力疾走は思った以上に長くは続かなかった。すぐに脚が重くなってきて、ハアハアと荒い息を吐きながらのノロノロ歩きになっている。
今の私はかなりの運動不足で、家に着いたころには思わず玄関に座り込むほどの情けない状態だった。
「ねえ楓、やっぱり入部しないの? もうそろそろ、いいんじゃないかなあって思うんだけど」
帰り支度をしている私に話しかけているのは、小学校時代からの親友、高橋佳奈だ。彼女はバレーボールに打ち込んでいて、夢はオリンピック選手。
「入らないよ。高校でも、部活する気なんてないから」
私がきっぱりそう言うと、佳奈は困ったように笑って、「そっか」と頷いた。
「佳奈はこれから部活でしょう?」
「うん。そこまで一緒に、」
「ちょっと待って、中山さんバレーとかバスケとか入んないの?」
私と佳奈との会話に突然、小川君が割り込んできた。眉をしかめた私に、小川君はバツが悪そうに頭を掻いている。
「だってさ、中山さん小学生の時スッゲー運動神経良かったじゃない。それなのにどこの部にも入らないなんてもったいないよ!」
「……それは昔の話。小川君には関係ないでしょ」
「そりゃ、ないかもしれないけど。俺スポーツ関係まったくダメだからさ、うまい人に憧れるんだよね。中山さんに久し振りに再会してうれしかったし……」
「だったら幻滅するよ。もう今は違うもん。てことで、いこっか佳奈」
「うん」
小川君の言葉をさえぎって、私は佳奈と教室を出た。態度悪過ぎたかなと少し反省したのだけど、性懲りもなく後ろから小川君がついてくるのに気が付いて、もっとしっかり冷たくすればよかったと思った。
「楓、小川君ついてきてる」
佳奈も気持ち悪いと思ったのか、嫌そうな顔をしながら小声で私に報告した。
「だね」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。適当にいなすから。部活、頑張ってきて」
「うん、分かった。じゃあ、また明日ね」
「バイバイ」
部活に向かう佳奈と別れて校門を出た。小川君がまだついてきているのは分かっていたけど、こちらには用事がないので無視してさっさと歩く。
「なあ」
「…………」
「なあってば」
「…………」
「中山さん、高橋さんと友達だろう? もし人見知りとかで入部するのに躊躇してるなら、高橋さんと同じ部に入れば――」
「はあ? なにわけ分かんないこと言ってんのよ。んなわけないでしょ」
「だったら!」
迷惑だって態度でしっかり示しているのに、しつこく食い下がる小川君にキレた。
「うるさいわね、なんなのあんた!」
「だって本当にもったいな……」
「なにも知らないくせに余計な口出ししないで。ほっといてよ!」
のんきな顔で、のんきに良いことを言ってあげてる気になっている小川君に腹が立った。
なんにも知らないくせに! 私がどんな気持ちでいるか分からないくせに!
小川君がまだなにか言っているような気がしたけれど、構わないで全速力で家まで走った。
きっとすごい形相だったに違いない。だって、通りすぎて行く人たちの中には、ギョッとしたような表情で私を振り返っていく人たちが何人かいたから。
「あ~、だるっ」
全力疾走は思った以上に長くは続かなかった。すぐに脚が重くなってきて、ハアハアと荒い息を吐きながらのノロノロ歩きになっている。
今の私はかなりの運動不足で、家に着いたころには思わず玄関に座り込むほどの情けない状態だった。
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