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第三章

予定変更だけど仕方ないか

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「本当に神君は、モデルにも芸能界にも興味がないの?」
「はい」
「でも桜は可愛いと思うでしょう?」
「思いますね」
「じゃあもう少し、桜のことを知ってから判断してくれない?」
「……どういうことですか?」

「桜はものすごく可愛いし才能のある子なの。だから神君も、もっと桜のことを知れば協力したいと思ってくれると思うのよ」

「それは無いかと……」

「そんなこと言わずにお願い、神君! あっ、そうだ。冴子から聞いたんだけど、近々学園祭があるそうじゃない? その時桜に休みを与えるから、この子と一緒に回ってあげてくれない? それで桜のことをもっと知って欲しいのよ」

「ええっ?」

 突然話が飛んで、学園祭に一緒に回れだなんて言われて戸惑った。だって僕なりに一応、その日のプランを考えていたりしたから。

「あら、もしかして彼女とかいたりするの?」
「……いいえ、そういうわけじゃないですけど」
「なら、いいじゃないの。ねえ、桜?」
「うん。……それに私、自分の学校の学園祭には仕事で参加できなかったから、神君と学園祭回れたらうれしいな」

 ポツンと小さく呟くように吐露した桜の言葉に、正直僕の心は揺れ動いた。

「桜ちゃん……」

 そうだよな。仕事に夢にと頑張っていても、彼女も僕らと同じ高校生なんだ。……学祭、行きたいよな。

「わかりました。モデルになることは約束できませんけど、彼女と一緒に学園祭を回ってもいいです」
「ありがとう、ありがとう神君! よかったわね桜。ほら、神君にもお礼言わなきゃ」
「ありがとう、神君。無理言ってごめんね?」

 上目遣いに僕を見ながら、桜が本当に嬉しそうに微笑みながら礼を言った。心なしかちょっぴりはにかんだような表情で。
  ああもうこれは、男女共に人気なのがわかるよな。

「どういたしまして。楽しもうな」
「うん!」

 本当は学園祭では、加代子の機嫌を取って安心させてやろうと考えていたんだけど……。仕方がないか。

 それから僕と桜は互いに連絡先を交換し合って、結局僕は家までそのまま車で送ってもらった。


 部屋に入り着替えをしている最中に、メッセージを着信した音が鳴る。加代子からだ。

『あの人と知り合いなの?』

 単刀直入にたった一言。拗ねてる加代子の姿が浮かび、口角が上がる。
 あまりに可愛いから、桜のことを尋ねていることくらいわかっていたけど、敢えて知らないふりをして返信してみた。

『あの人って?』

「…………」

 てっきりすぐに噛みつくような返信が来ると思っていたけど違った。なかなか返ってこない画面を睨み、諦めかけた頃、ポツンとメッセージが入る。

『帰りに神が乗った車に乗ってた人』

 イラついているような返信だ。もしかしたら今頃、頬っぺた膨らませているのかもしれないな。
 想像しただけで、テンションが上がる。だけどそれを悟られるような真似はしない。しれっと短いメッセージで済ませた。

『ああ、モデルの桜か』
『どういう知り合いよ?』
『母さんの友達が桜のプロモーションに係る仕事をしているみたいなんだ。そういう知り合い』

「…………」

 あれ? また返信が途絶えた。じっと画面を見つめて、待つこと数十秒。

『ふうん』

 今度は拗ねたような短い一言だけが返ってきた。
 何だよ、それだけかよ。

「ふっ、ふふっ」

 思わず笑いが込み上げた。まったく、可愛いんだよなあ加代子ってば。

 こんな可愛い加代子が見られるから、他の子と遊ぶのも本当、悪くないんだよ。
 僕はメッセージが途切れて暗くなった携帯電話をしばらく眺めた後、ポンとベッドに放った。
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