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ワタシノクチゾエ
しおりを挟む例えば一人で部屋に居るとする。
その状態で「今している事を説明してみよ。」と問われるとする。
当人は「寝そべりながらスマホをいじってます。」と答えたが、
他人から見たら「テレビをつけたままスマホをいじってる」と言われるかもしれない。
どちらも噓はついていない。
簡単に話したが、見ている観点が違うと言うことだ。
だから、これも私なりの観点と解釈を踏まえて書いていこうと思う。
出来るだけ客観的に書こうとは思うが。
この前置きを踏まえて言わせて頂く。
これはただの作り話のはずだ・・・きっと。
私はこの事件を朝のニュースで知った。
結婚して早十年。
朝の六時半に目が覚め、寝室から居間に向かう。慌ただしそうな妻の隣。台所の換気扇の下でタバコを吹かし、遠くのテレビを見る。
頭が覚める頃には会社のデスクに座って仕事をしている。
この日は少し違った。
いつも通り換気扇で少し聞こえづらい音声とテロップを頼りにテレビの内容を把握していた。
ニュースを読む女性アナウンサーがお気に入りで見ているようなもんだが
「お前もコレくらい可愛かったらな・・・」
と、ボソッこぼして以来、女性アナウンサーが映る度に私の足をギューッと無言で踏んで行く。
もはや抵抗もせず踏まれるままだ。逆に踏まれない日はこの行為に気がまわらないくらい機嫌が悪いか、具合が悪いかだ。
ここまではいつも通りだった。
いや、妻は上機嫌で久しぶりに私の足はゴリッと音を立てて痛みを訴えていたが。
その瞬間テレビでは私が生まれ育った地域の名前と画像が映し出された。
高校を卒業と同時に田舎から上京して就職した身としては、つい地元が全国ニュースに出ると見てしまう。
地元愛と言う程のものは無かったが、地方へ移り住んだ事がある人なら大抵そんなものだと思う。
ただ残念な事にそれは殺人事件のニュースだった。
「昨日夕方五時ごろ。××県△△市の住宅街で◯◯さんの妻と子供が遺体となって発見されました。夫の◯◯さんが勤め先である親族の会社の方が出社しないと事を不審におもい訪ねた結果、発覚した模様です。
インターホンをならしても応答がなかったため、玄関を開けたところ鍵が掛かってなかったそうです。おびただしい血の跡があったため110番したと見られています。
遺体となって発見されたのは
◯◯さんの妻◯◯子さん 四十一歳。◯◯さんの長男◯◯君 十二歳。次男の◯◯君 八歳。夫の◯◯さんの行方が掴めないため、何か事情を知っていると見られています。現在捜査中との事です。」
ニュースに釘付けだった私に向かって妻が喋った。
「ここあなたのお父さんとお母さん住んでる場所と近いんじゃない?大丈夫なの?」
「っていっても車で三十分くらいの距離だからな・・・一応連絡しとくよ。この行方不明の夫って・・・」
「ん?えっ??もしかして知ってるの?」
「いや、知らないけど。そろそろ出勤しないとな。」
「変なの。」
通勤にこんなに目が覚めてるのは久しぶりだ・・・
朝からあんなニュースを見たせいだ。午後になっても仕事に集中出来なかった。
間接的とはいえ、同姓同名で同じ地域に住んでいる可能性はゼロではないが・・・私はあの男を知っている。
私が知っているあの男ならサイコキラーと呼ばれる類のものだと思う。誇張しているかもしれないが、私の中ではそれくらいの印象だ。
今から私が知っているあの男の話をしよう。あの男は・・・いやまだ彼と言うべきか・・・。当時いろんな所で話題になった。ニュースや新聞にのった記事を思い出しながら事実だけ述べようと思う。
私が地元から離れたかった理由の一つでもある・・・。
彼は友人の家に居た。ただそこに友人はいなく彼は黙って忍びこんでいた。
そして、火遊びをしたあげく三軒を全焼させることになる。
彼はまだ小学三年生だった。死傷者が出ずに済んだのかニュースで詳しく話していたはずだが、私はそこまで覚えていない。
これが彼が起こした一つ目の事件だ。
そして、二年後。彼は再び事件を犯す。
小学生五年生、当時彼は十一歳だった。
・・・アパートの二階に住む叔母の家の玄関の前に彼は居た。遊びに行ったが留守だったらしい。昭和の後半、携帯電話が一般的になる前。今みたいに小学生が持てる時代ではない。
留守だったので彼は帰ろうとした。ところが隣の部屋のドアがちゃんとしまってないのに気付いた。
そして彼はそのドアを開ける。開けたら住人は居なかったので部屋を漁って金を奪ってしまおうと彼は考えたらしい。
そこにタイミング悪く住人の女性が帰ってきてしまう。勝手に部屋に入った小学生を懲らしめよと思ったのだろう。
彼女は彼を捕まえようとした。
追い詰められた彼は、台所の包丁を持ち数十カ所刺し逃げた。
虫の息だった彼女は彼を追おうとして玄関のドアを開けてしまう。
気付いた彼は戻ってきて首を包丁で刺し死んだことを確認してその場を去った。
そして事件を起こした彼は自宅に戻った所を保護された。
これが私の知っている話だ。小学生が殺人を犯したという衝撃で新聞を何回も読んだので覚えている。
子供が虫を潰してしまうようなその時期ならではの残虐性ではない。金を盗み殺人を犯したのだ、小学生の彼は。
テレビか何かで話していたが性の目覚めが遅い人は死への興味に目覚めてしまうらしい。
彼はもう少しで来るはずの性の目覚より、とっくに死への魅力を感じていたのだろうか・・・。
その後の事は分からないが、少年刑務所に入ったのだろうと思う。
それからまた数年後。これは余談かもしれないが、彼に関わる記事がもう一つある。
高校生三人がアパートの一室で麻雀をしていた。
窓の真下に四角のテーブルをくっつけて配置してある。
ルールもそこそこにしか分からなかったが楽しい空間だったと思う。
夕日に照らされ窓の外で誰がが踊っている様な影が部屋に入ってきた。
そして、三人の内の誰かが最初に叫んだ
「わ、うわ~~~~!!!!」
ベタな話かもしれないが、そこは二階だった。
その誰かは踊り狂うようにしてドンッと音をたてて窓にぶつかった。ジロッとコッチを見ている。近くに来たせいで血まみれの服と真っ赤に染まる首がハッキリと見えた。
パニックになった三人の叫び声があまりにうるさかったのだろう。隣の住人が怒鳴って入ってきた。
それと同時に真っ赤に染まった誰かはテーブルの上に居たのだ。
三人の内の二人はパニックのあまり二階の窓から飛び降り、その誰かと向かい合った残りの一人は恐怖のあまりその場から動けなかった。
隣の住人さえも玄関で腰を抜かして座り込んでいた。
その後、飛び降りた高校生が警察に110番した事で新聞に載ることになる。
その場に残ることになってしまった高校生と隣の住人は、その誰かがフッと消えるまで身動きとれぶ眺めていたらしい。
その誰かは彼が起こした事件の被害者だと思う。後日、私が調べた時、間違いなくあのアパートは事件のアパートだったからだ。
ここまでが私の知っている彼に関わる事件だ。
話を今に戻そう。
今日はもう定時で帰るか。いろいろ思い出してどっと疲れてしまった・・・。
といっても残業があるほど景気の良い会社でもブラックな会社でも無いのだが。
「ただいま・・・」
ため息をついて締め付けのきつい靴を脱いだ。
「おかえりー。疲れてるみたいね、忙しかった?」
「仕事は相変らず忙しくもなく暇でもなく・・・今日はなんか憂鬱なんだよ・・・」
朝の時とは違い余裕がある妻の隣を陣取って、換気扇に向かって煙を吐いた。
「あっ、あの事件の続報あるみたいよ!ほら!」
朝と同じくこの場所でタバコを吹かし、夕方のニュースを見るまでが今の私の仕事みたいなものだ。
「◯◯県◯◯市、◯◯家惨殺事件について行方不明になっていた夫◯◯さんが発見されました。
◯◯県◯◯市にて車に乗っていた◯◯さんを警官が職務質問した所、首を切って自殺したと見られています。
妻の◯◯子さん、長男の◯◯君、次男の◯◯君は◯◯さんが殺したとして警察は捜査している模様です。」
テーブルに晩ご飯を並べながら妻が話しだした。
「・・・一家心中だったって事?夫が妻と子供殺して自分はその場で死にきれなかったって事?借金でもあったのかな??」
彼は・・・あのサイコキラーは家庭に飽きたのでは無いのだろうか。だから・・・
いや違う。私にはもっと確信的な理由を知っている。
自殺した夫が当時起こした事件の被害者の三十三回忌の呪い。
彼女はあのアパートで恐怖のあまり動けなかった私にこう言ったのだ。
「お前じゃない」と
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