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第1章

意外な訪問者

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  テレビで、居酒屋メニュー人気ベスト10って、あったなぁ。なにが入ってたっけ?
  ポテトフライは定番だった。えっと、他には…。確か、焼き鳥とか唐揚げとか…。
 そうだ、唐揚げだ!唐揚げにしよう!

 この「川の夕暮れ亭」の利用者は、冒険者や警護団の人の利用が多い。
 食べる量も多いんだよ!だから、”がっつり系”がいいよね。
 唐揚げなら、おつまみによし、食事にもよし、になる。うん、これに決めた!

 お店で扱う肉の中に、鶏肉みたいな味のハレラビットという魔物の肉があった。今回は、その肉を使ってみよう。

 一口大に切ったハレラビットの肉に、塩と香草を揉みこみ、小麦粉みたいな粉をつけ、油で揚げてみる。

「今度はなにを作ってるんだ?」

 おじさんが手元を覗きこむ。おじさん、油跳ねるよ。危ないよ。

「唐揚げを作ってるの」

「からあげ?」

 そろそろいいかな?油から、肉を取り出す。

「どれ、早速試してみるか」

「おじさん、熱いから気を」
「熱っ!」

 私が注意しようとするが、すでに肉を口に入れ、熱くて慌てるおじさん。

「大丈夫?」

 あわてて、水を差し出す。
 ごくごく。おじさんは一気に水を飲む。

「あー、熱かった。どれ、今度はゆっくりと食べて…。お、旨い!」

「大丈夫?味も口も…」

「うん、旨かった。もう1つ」

 今度は始めから、フーフーと息を吹きかけ、食べている。
 私も食べてみる。うん、唐揚げ。ちゃんと唐揚げですよ!

「ちょいと、あんたたちだけ食べて、ずるいじゃないか。私にもおくれ」

 おばさんも参加して、皆で味見。

「よし、これも客に出してみよう」


「こっちに、ポテト大盛りで一皿追加ね」

「ハーイ」

「唐揚げ、ちょうだい」

「ハイよ、待っておくれ」

「ハンバーグ、2皿お待ち」

 お陰様で、お店繁盛してます。
 皆、料理が目新しいんだろうけど、美味しいって食べてくれると嬉しいです。


「あの―」

「いらっしゃいませ」

 一人のおじさんがおそるおそるといった感じで、お店の中に入ってきた。

「どうぞ中へ」
 今はお昼の忙しい時間を過ぎ、一段落といった頃だった。

「お好きな席へどうぞ」

 なかなか席に座らないお客さんに、椅子を勧める。

「俺、客じゃないんです」

「お客じゃない?」

 まさか、クレームじゃないよね?

「俺は、ドード村のゲッツって言います」

「ちょっとお待ちください」

 おじさんを呼びにいく。おじさんたちの知り合いかな?クレームじゃ、ありませんように…。
 おじさんの知り合いではなかった。おじさん達も不思議そうな顔をしながら、厨房から出てきた。

「なにか、用事ですか?」

 おじさんが声をかける。

「あの、俺、ドード村のゲッツって言います」

 ゲッツさんは先ほどと同じ自己紹介をする。

「俺は、この店の主のトムスです」

「俺は、村でモイトを作ってます」

「モイト…。あぁ勝負の実ですな」

 勝負の実(ジャガイモ)は通称で、こちらでの本当の名前は「モイト」っていうんだね。

「はい、そう呼ばれています。今までは、いくら大丈夫だと言っても、あまり売れませんで、困っとりました。俺の村は、他に取れるものもなくて…」

「そうですか…」

「それが、今日売りにきたら、もっとあれば持ってこいって、言われたんです」

「ほおー」

「モイトが最近よく売れるからって、言うんで…。理由を聞いてみたら、こちらのお店でモイトを出すようになったら、売れるようになったって…」

 そう。ポテトフライを出した後、「ポテトフライ=勝負の実をあげたもの」とわかったら、最初はみんなビックリしてたよ。いや、青くなる人もいたよ。でも、食べたら美味しいし、具合も悪くならないってわかってもらえて、どんどん出るようになったんだよね。
 市場でも、粉ふきいも作って売ったり、食べる注意点とか言ってくれたりして、ジャガイモの消費が多くなったらしいんだ。
 ゲッツさんによると、「芽を取るのは当たり前と思っていたから」注意点を言わなかったそうだ。
 いやいや、それは重要なことだから、言っておかないと。

「ありがたいことで、すぐに村に帰って、また売りに来ようと思ってますが、一言お礼をと思って…」

 ゲッツさんがお礼を言ってくれるけど…。ただ私が食べたくて、作っただけだし…。お客さんに出したら、喜んで食べてくれるだけだし…。

「このアリサが作ってくれたから、俺たちも食べるようになったんで。アリサに言ってください」

 いや、おじさん、私のことは言わなくていいから。

「そうなんですか。ありがとう、お嬢さん。おかげで、村の皆も喜びます」

 本当恥ずかしいから、やめてください。

「ゲッツさん、時間があるなら、ポテトフライ食べていっておくれよ」

 おばさんがゲッツさんに話しかける。

「あんたが食べて、村の皆に教えてあげなくちゃ」

 教えるっていっても、ただ油で揚げるだけなんだけどね。

「ありがとうございます」

 おじさんは早速料理を作りだす。ポテトフライを、ハンバーグ付きで。

「これはなんですか?」

「ハンバーグっていうんです」

 ゲッツさんは珍しい料理に驚きながら、「おいしい、おいしい」と食べてた。



 その後ゲッツさんは、町へ来る時はいつもジャガイモを持ってきてくれる。売れるようになったお礼だって。最初はお金も受け取らなかった。だけど、おじさんに言われ、市場に卸す値段で、買うことに決まった。
 でも、後でコイルさんに聞いたんだけど、ジャガイモが売れるようになったから、市場へ卸す売り値を、ゲッツさんは値上げしたんだって。それなのに、食堂には前の値段で持ってきてくれるんだよ。
 ありがとう、ゲッツさん!



~~~~~~~~~~~~~~~


 食堂も忙しくなってきたみたい。
 お手伝いが必要かな…。

 
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