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本編・入学前

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 周りは少しざわついていた。殿下が直接話しかけた名誉ある子どもは誰なのだろうと、注目が集まった。


「…目立たせてすまない。場所をかえよう」

「いえ、お気になさらず。弟もまだ食事をしておりますので、もし不都合でなければここでお話を」

「弟…」

「はい。私の弟のマーティでございます」


 ほら、見なよ!僕の可愛い弟!なんかすごい膨れてるけど、ピンクブロンドでうるうるの瞳が庇護欲をそそるでしょ?どうですか!!


「弟にしては距離が近すぎないか?俺も下に何人かいるが、こんなにべたべたしていない」


 ぴしゃりと雷が落ちた。まさか僕との仲の良さが裏目に出てしまうとは。しかも殿下、まあまあ言葉選ばないんだね。子どもらしくていいね!


「す、すみません。実はこういった場は私共々初めてでして、少し緊張しているのかと…ね!マーティ」

「家でもこんなかんじですけど」

「んんんん…!」

「家でも?まさか四六時中一緒ではあるまい」

「勉強時間以外、もちろん夜も一緒です。だって僕とお兄様のベッドは同じなので!」


 そんな自慢げに言うことじゃないんだよマーティ…!殿下もびっくりして…ああもう…!


「あの、この子は実の両親を亡くしていまして、寂しい思いをしないようにとしばらくの間はベッドを共にしていましたが決してそれ以上のことは何も」

「おやすみのキスもしていますもんね♡」

「マーティごめん、ちょっとシーね」

「んぷ」


 今日だめかも。周りもフリーズしちゃってるし…そら5歳くらいなら分かるけど日本で言えば小学校中学年?てところの年齢の2人が一緒の布団で寝てるなんて微妙だもんね…。顔がいいとか、関係ないもんね…。


「マーティといったか」

「なんでしょう殿下?」

「兄の…ニコラにも、自分の時間があるんだ」

「だからなんですか」

「君が独り占めしていい時期はとうに過ぎている。いい加減開放してやれ」

「それ、殿下に関係ありますか?僕はお兄様が好きなんです。僕はお兄様と兄弟なので、ずっと一緒にしてもおかしくないのです!」

「ニコラにはニコラの交友関係があって…」


 よく晴れた日だというのに、この部屋だけ氷点下になってしまった。冷や汗が止まらない。なぜ殿下と弟がこんなしょうもないことでバトルをしていて、その間に僕が挟まれなければならないんだ。君たち将来結婚するかもしれないんだから仲良くしてください!




「陛下、申し訳ございません。私の息子が失礼なことを」

「良い、あいつも大人の顔色ばかり伺って同年代の子どもとの接し方を知らぬ。良い勉強になる。むしろあのまま様子を見させてはくれぬか?モーガス卿」

「…息子にはよく言っておきます」

「気にするな!子どもはこうでなくてはな」



 二人をどうにかなだめ、殿下が僕に話しかけてくれた理由を聞くと、本日参加している子に同い年の子はほとんどおらず、多くは年上で緩い参加条件にかこつけて将来のお嫁さん候補になろうとする子ばかりが話しかけてくるせいで退屈なんだそうだ。


「ニコラはプルメリア学園にいくのだろう?」

「はい、その予定です」

「俺もだ。そのころには勉強すべきことはあらかた終わっているはずだが、お父様は何故か行かせたがるから仕方なく通うことになってな。少しくらいは知り合いがいたほうがいいと、こういった場を設けさせてもらった」

「なるほど、そういったことが…」

「…お前はどうだ?」

「?」

「学園に通うのは、楽しみなのか?」

「…楽しみです。殿下がいてくださるなら、尚更」

「…そうか」


 僕は院内の学校にしか通ったことがないから、物語の学園生活に憧れていた。例えそれがニコラぼくの断罪の舞台だとしても…。


「僕もいきますけど!!!!!」


 ふっくらした頬には全く怒りに説得力がなかったが、どうやらマーティは怒っている。
 もっとお食べよと皿を引き寄せるがそれどころではないようだ。


「君も学園に?」

「そーです!お兄様を悪いやつから守るんです!」

「それは出来ないな。何故なら君はニコラより年下なのだから、一緒に入学はできない」

「んな…っ!?」

「学園は全寮制だ。いくつ離れているのか知らないが、年の差だけ離れて暮らし、卒業を眺め、兄のいない学園で過ごすことになるだろうな」


 ふはは!と心底楽しそうに笑う殿下に我慢ならない面持ちのマーティ。中身が大人の僕だからちょっと可愛いやりとりだなって思うけど、今は選択肢を間違うと僕のトゥルーエンドが遠のくから後でにしてくれないかな…。
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