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第3章 ウィルトシャー

かわいい訪問者2

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 チリンチリンチリンチリンチリーン。
扉が開くと、女の子が2人入って来た。1人は小柄なロングヘアーの女の子。ウエストラインまである亜麻色の髪は彼女の華奢な身体を余計に際立たせていた。もう1人はとても育ちの良さそうなまさにお嬢様と言う言葉がぴったりの女の子だった。

珍しく笑顔を浮かべた九条はすぐに入り口へと歩いて行った。

「いらっしゃい遙加、そちらがお友達かい」

「そう、この前話した軽音楽部部長の如月さん」

控室で聞き耳を立てていた蒼井はまだ厨房に戻らない鳥居にポツリと話しかけた。

「どうやらお客人の名前は遙加さんと言うらしいよ。一緒に来たのはお友達の如月さんだって」

それだけ言うと蒼井は人差し指を立てて口の前に置いてシーッと言って神妙な顔になった。店内ではそのまま会話が続いていた。

「蒼井くん、そんなことしなくても店内の声聞こえるのに。変なのー」

蒼井に鳥居の言葉は聞こえていないようだ。

すると突然、九条が爆弾発言をかました。遙加と九条は従兄妹同士で且つ許嫁でありそれに彼女が高校を卒業したら結婚すると言うのだ。蒼井が倒れそうになったので鳥居は物音がしないように彼を支えた。

「蒼井くん大丈夫ー? 」

「うん、何とか大丈夫。支えてくれてありがとう、今一瞬目の前が真っ白になったよ……。九条さんと結婚があまりにも結び付かなくて……」

「そう? 九条さんかっこいいから別におかしくないと思うよー」

「鳥居くんにはそう見えるんだ……」

2人が話している間に九条は遙加さんの薬指に指輪を嵌めたらしい。実はその指輪の製作者は鳥居だった。ここにお世話になって少し経った頃、九条にお願いされたのだ。こんな風に。

「鳥居くんは魔法でお守りを作ることってできるかな」

「どうしたんですかー? いきなり」

「実は私にも大切な人がいるんだけれど、霊力が強くて色々引き寄せちゃうんだよね。今まではあまり大ごとにはならなかったんだけど、この前どうやら覚醒しちゃったらしくてね。近い内にお守りを持たせたいと思って。それで、どうだろうか」

「一応これでも由緒正しい魔法使いなので白魔術的なお守りならできますよ。ネックレスとかイヤリングより指輪の方が効果も高いんですけどー。どうしますかー」

「サイズはわかるから指輪でお願いできるかな」

「そうしたら、今度の休みの時に一度イギリスの実家に帰って素材を分けてもらってきますねー」

彼は空間移動ができるので飛行機に乗らなくても一瞬で往復できてしまうので諸々の手続きがなくてとても便利なのだ。

「代価は如何程だろうか」

「今回のはここに置いてもらってることが代価ということで。次に作る時には代価をいただきますねー」

「ありがとう。きっとすぐに次をお願いすることになると思うから、よろしく頼むよ」

「そうなんですか? わかりました~」


などという会話を少し前にしたことを鳥居は思い出していた。指輪のことを蒼井に話すとまた面倒くさいことになりそうだと思った鳥居は何も知らないふりをした。

これまでの蒼井なら人の心の声を聞いていたのだが、最近では緊急モードや危険モード以外は敢えて聞かないことにしていた。主に蒼井本人の心の平静のために。


 その後店内では何やらバタバタと音がしていたが、少しすると落ち着いたようだった。漸く鳥居の作った木苺のムースとザッハトルテはみんなの胃袋に収まったのだった。女の子は2人ともスィーツを気に入ってくれたようで特に本格的なザッハトルテは好評だった。

蒼井の企みは失敗してしまったが、鳥居は指輪がどれほどの効果を生むのか興味が湧いたのだった。そしてつい言葉が口に出てしまった。

「でも九条さん、あれ絶対虫除けにするつもりだよねー」

「鳥居くん何か言った?」

「ううん、何も言ってないよー。蒼井くんの気のせいだよきっとー」

鳥居の小さな呟きは蒼井の耳には届かなかったようだ。


そして九条から静かになった店内への入室許可が出た2人は、後片付けをしにテーブルへと向かった。初め3人しかいなかった店内にいつの間にかもう1人加わっていたのを知ったのは後片付けしている時のことだった。



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