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第1章 高校編
電車の老婆1
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新学期が始まる前のある晴れた日、新3年生になる軽音楽部の部員達は引き渡し前の部室を掃除しに学校へ来ていた。今年の軽音楽部の3年生は通年よりも少し早めに引退することになった。ブルーローズのメンバーが他の新3年生にそれを伝えると他のメンバーまでもが何故か一緒に引退することになってしまったからだ。
これまで軽音楽部の先輩達は模試だけではなく学内での成績も良いはずなのに誰1人として推薦入学をしていない。何か深い闇がありそうだが軽音楽部の連中は誰1人として深くは追及せず自力で大学に行くことにしているのだ。だからと言って軽音楽部に入ったことを後悔している部員はいない。何故なら自分を表現する場を失うことの方が怖いからだ。
久し振りに部室に訪れた遙加と如月は一番乗りかと思っていたらギーターの岩館秋彦が先に掃除を始めていた。
「お疲れさま、岩館くん。もしかして殆ど掃除終わっている感じかしら」
「如月部長、九条もお疲れさま。そうだな、あとは個人の私物を片して、ゴミ捨てすれば大丈夫じゃないかな」
「他の人たちは?」
「俺1人だけど、どうして?」
「いや、やけに綺麗に掃除してあるから……」
「びっくりした? まあ男1人で掃除するなんて普通ありえないもんな」
岩館は少々潔癖症のところがあり、自分に関係する場所が汚れているのは許せないタチだった。いつも部室が綺麗なのはこの男のお陰だと知る者は少なくない。
「いえ、そう言うつもりで言ったのではないんだけど……その、いつもありがとう」
「どういたしまして。あとはゴミ捨てだけだから2人とも一緒に行こうぜ」
「そうだね、3人で持てば1回で終わるもんね」
どこから出てきたゴミなのか、ゴミ袋は3つあった。3人はそれぞれひとつずつ持ってゴミ置き場へと向かった。
ゴミ捨ても終わり新学期の引き渡し日を待つばかりになり3人は帰宅することにした。
「他の人たちは今日は来ないみたいだから帰ろうか」
如月がそう言った時、ブルーローズのリーダー大平が部室に到着した。
「あれ、もうみんな終わった感じなのか?」
「そうね、今日はもう帰るところよ」
「悪い、ちょっと待っててくれ一緒に帰るから」
「大平くんちょっと」
有無を言わさずに部室に入った大平はガタガタと音をさせると直ぐに部室から出てきた。
「悪い、もう用事は済んだから帰ろうぜ。岩館いつも悪いな綺麗にしてくれて」
「いや、いいさ。その代わりまた一緒に練習しようぜ」
「そんなことでいいなら、いつでも付き合うぜ」
「何、あなた達一緒に練習って」
如月が怪訝な顔をして大平と岩館を見た。
「悪い、話してなかったな。こいつのギターエゲツなく上手いんだわ。歴代軽音楽部のギターリスとで1、2を争うほどにはな」
「大平君、そんな大切なことなんで教えてくれなかったのよ」
「いや、如月だったら知ってると思ってたんだが。まさか知らなかったのか?」
「知らないわよ、知っていたらスカウトしてるに決まってるでしょ! 練習の時はそんな凄技とか見せたことないじゃない」
「部長ー、何言ってんのー。ブルーローズにはギターいるよー」
「遙加、あなた本当に鈍いわね。ところで岩館くん、確かピアノ弾けたわよね」
「??????」
遙加はどうして如月がこんなに興奮しているのか分からなかった。
そんな遙加をスルーした如月は岩館の前に移動して真剣な目で会話を続けた。
「ああ、ピアノは3歳からずっと弾いてるよ。大学も音大のピアノ課にしようかと思ってるんだ」
「バンドはもう組まないの」
「うーん、今のバンドの連中とは今後のことは考えてないよ。一旦終了って感じかな、みんな趣味でやってたようなもんだし」
「音大に行くってことは音楽で食べていきたいと考えているって事?」
「できればそうしたいかな。狭き門だけどね」
「岩館くん、私達が本気でプロを目指しているって言ったら信じてくれる」
「へえーそうなんだ、信じるよ」
岩館からは驚いた様子は微塵も感じられない。
「そこでなんだけど、もしよかったらうちのバンドに入ってくれないかしら。活動は大学合格後になるけれど……考えてくれないかしら」
すると大平も話に加わった。
「岩館がいてくれたらツインギターで音に厚みも出るし、キーボードとかピアノも入れたら音の響きが全然違ってくると思うんだ。音の広がりも全然違うし。だから俺からも頼む、一緒にやらないか」
岩館はあっけに取られていた。
「俺はいいけど、あの2人はどうなの? 烏星とか嫌がるんじゃないのか」
すると遙加まで会話に加わってきた。
「烏星くんがどうだかは知らないけど、私も岩館くんと一緒にできたら嬉しいな。岩館くんのピアノで歌ってみたい」
「だそうだ。どうだ岩館、九条がこう言ってるんだ。あいつらが反対したら俺が説得する。まあ、大丈夫だと思うけどな。それに今直ぐに決めろとは言わないから考えてみてくれないか」
岩館はほんの少し考える素振りを見せたかと思うと直ぐに答えを出した。
「そうだな……でもいいぜ面白そうだから。大学が決まったら一緒にやろうぜ」
「よし、じゃあ決まりだな。あいつらには俺から話しておくよ」
「楽しみだね!」
「そうね、ありがとう岩館くん、そしてこれからよろしくね。それから九条さんにも伝えないとね。と言うわけで帰るわよ」
1人で完結して号令をかける如月だった。
これまで軽音楽部の先輩達は模試だけではなく学内での成績も良いはずなのに誰1人として推薦入学をしていない。何か深い闇がありそうだが軽音楽部の連中は誰1人として深くは追及せず自力で大学に行くことにしているのだ。だからと言って軽音楽部に入ったことを後悔している部員はいない。何故なら自分を表現する場を失うことの方が怖いからだ。
久し振りに部室に訪れた遙加と如月は一番乗りかと思っていたらギーターの岩館秋彦が先に掃除を始めていた。
「お疲れさま、岩館くん。もしかして殆ど掃除終わっている感じかしら」
「如月部長、九条もお疲れさま。そうだな、あとは個人の私物を片して、ゴミ捨てすれば大丈夫じゃないかな」
「他の人たちは?」
「俺1人だけど、どうして?」
「いや、やけに綺麗に掃除してあるから……」
「びっくりした? まあ男1人で掃除するなんて普通ありえないもんな」
岩館は少々潔癖症のところがあり、自分に関係する場所が汚れているのは許せないタチだった。いつも部室が綺麗なのはこの男のお陰だと知る者は少なくない。
「いえ、そう言うつもりで言ったのではないんだけど……その、いつもありがとう」
「どういたしまして。あとはゴミ捨てだけだから2人とも一緒に行こうぜ」
「そうだね、3人で持てば1回で終わるもんね」
どこから出てきたゴミなのか、ゴミ袋は3つあった。3人はそれぞれひとつずつ持ってゴミ置き場へと向かった。
ゴミ捨ても終わり新学期の引き渡し日を待つばかりになり3人は帰宅することにした。
「他の人たちは今日は来ないみたいだから帰ろうか」
如月がそう言った時、ブルーローズのリーダー大平が部室に到着した。
「あれ、もうみんな終わった感じなのか?」
「そうね、今日はもう帰るところよ」
「悪い、ちょっと待っててくれ一緒に帰るから」
「大平くんちょっと」
有無を言わさずに部室に入った大平はガタガタと音をさせると直ぐに部室から出てきた。
「悪い、もう用事は済んだから帰ろうぜ。岩館いつも悪いな綺麗にしてくれて」
「いや、いいさ。その代わりまた一緒に練習しようぜ」
「そんなことでいいなら、いつでも付き合うぜ」
「何、あなた達一緒に練習って」
如月が怪訝な顔をして大平と岩館を見た。
「悪い、話してなかったな。こいつのギターエゲツなく上手いんだわ。歴代軽音楽部のギターリスとで1、2を争うほどにはな」
「大平君、そんな大切なことなんで教えてくれなかったのよ」
「いや、如月だったら知ってると思ってたんだが。まさか知らなかったのか?」
「知らないわよ、知っていたらスカウトしてるに決まってるでしょ! 練習の時はそんな凄技とか見せたことないじゃない」
「部長ー、何言ってんのー。ブルーローズにはギターいるよー」
「遙加、あなた本当に鈍いわね。ところで岩館くん、確かピアノ弾けたわよね」
「??????」
遙加はどうして如月がこんなに興奮しているのか分からなかった。
そんな遙加をスルーした如月は岩館の前に移動して真剣な目で会話を続けた。
「ああ、ピアノは3歳からずっと弾いてるよ。大学も音大のピアノ課にしようかと思ってるんだ」
「バンドはもう組まないの」
「うーん、今のバンドの連中とは今後のことは考えてないよ。一旦終了って感じかな、みんな趣味でやってたようなもんだし」
「音大に行くってことは音楽で食べていきたいと考えているって事?」
「できればそうしたいかな。狭き門だけどね」
「岩館くん、私達が本気でプロを目指しているって言ったら信じてくれる」
「へえーそうなんだ、信じるよ」
岩館からは驚いた様子は微塵も感じられない。
「そこでなんだけど、もしよかったらうちのバンドに入ってくれないかしら。活動は大学合格後になるけれど……考えてくれないかしら」
すると大平も話に加わった。
「岩館がいてくれたらツインギターで音に厚みも出るし、キーボードとかピアノも入れたら音の響きが全然違ってくると思うんだ。音の広がりも全然違うし。だから俺からも頼む、一緒にやらないか」
岩館はあっけに取られていた。
「俺はいいけど、あの2人はどうなの? 烏星とか嫌がるんじゃないのか」
すると遙加まで会話に加わってきた。
「烏星くんがどうだかは知らないけど、私も岩館くんと一緒にできたら嬉しいな。岩館くんのピアノで歌ってみたい」
「だそうだ。どうだ岩館、九条がこう言ってるんだ。あいつらが反対したら俺が説得する。まあ、大丈夫だと思うけどな。それに今直ぐに決めろとは言わないから考えてみてくれないか」
岩館はほんの少し考える素振りを見せたかと思うと直ぐに答えを出した。
「そうだな……でもいいぜ面白そうだから。大学が決まったら一緒にやろうぜ」
「よし、じゃあ決まりだな。あいつらには俺から話しておくよ」
「楽しみだね!」
「そうね、ありがとう岩館くん、そしてこれからよろしくね。それから九条さんにも伝えないとね。と言うわけで帰るわよ」
1人で完結して号令をかける如月だった。
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