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さよなら世界、こんにちは異世界

31.意識が戻った世界で

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 あれから、僕の状態はあまり芳しくなかった。後で聞いたらICU 集中治療室に1週間入院していたみたい。ほとんど意識がなくて、時間はただ何もせずに過ぎていった。

 少しずつ酸素マスクが外れる時間が、だんだんと長くなってきた。身体の方は相変わらずで、まだ頭は重くて難しいことを考えようとしても、すぐに煙のようにふらりと消えてしまう。

 ぼんやりとしている頭で思ったのは、僕は死ななかったんだなと、あとどれくらい生きれるのだろう?だった。

 別に僕は、今を悲観しているわけじゃなくて事実をそのままに受け止めているだけ。それは自分の細い腕と薄い胸板から生命の強さをまったく感じなかったからだ。

 そのことについて、もう悲しみや怒り悔しさは一切なかった。ただひとつ、思うのはまた母さんと父さんを悲しませてしまうなとそれだけだった。

 あとは僕は薄情で、酷いよなって自分の事を思う。だって、心の大半を占めていたのは「精霊と勇者と滅びの国」の事ばかりだったから。

 そして意識がない間に、僕が見る夢も「精霊と勇者と滅びの国」の世界の夢だった。

パルシオン帝国 

第二王子 ライデン・フォン・ディルエンデール・パルシオン 

アンディスール公爵家 

ばあやと2人のにいちゃんのガディにいちゃんとサウにいちゃん 

勇者ダンバード・スタンフィール 僕を助けてくれたダン!

 それからエディの夢を何回も見た。箱の中から出られないエディ。小さな光に変わって空に消えていくエディ。

 僕になにかを伝えようとしてくるけど、何を言ってるのかわからない。何回もなにかを訴えかけてくるから、ある時にエディの口の動きをつぶさに見てみた。「終、ごめん。ごめんね」ずつと、僕に謝っていた。

 そんなに、謝らないでエディは何も悪くない。こうなったのは、誰のせいじゃない。大丈夫だから!僕、エディが笑った顔が好きなんだ。
 
 酸素マスクがほぼ1日中取れるようになって、やっと1日30分の面会の許可が出た。

 早速、母さんが面会にきてくれた。母さん、少しやつれたかな。憔悴した様子を見て、申しわけないと思う。

「ごめんね、母さん」と言うと、黙って僕の頭を撫でてくれた。やさしいな。

「母さん……、頼みがあるの。僕の部屋のベッド側にある本棚の中に「精霊と勇者と滅びの国」とタイトルの本があるんだ。持ってきてほしい」

 思い切って言ってしまった!母さんは直ぐに探して、明日持ってきてくれると約束をした。本を読めば、ばあやに会えるかな?

 翌日、母さんが持ってきてくれた本を、そわそわしながらⅠ人になるのを待っていた。

 静かな病室は、コポコポと酸素がポンプから流れている音だけが響いていた。

 僕は寝ながらゆっくり本を開けて、Ⅰページ目をめくった。何ページか読んでみて、すぐに異変に気が付いた。

 エディがひんぱんに現れていた。序盤ですぐにいなくなるキャラクターだったのに読み進めると「ばあやとミートパイを作った回」「兄ちゃんと僕」など、追体験をしているようなタイトル名ばかりになっていた。おかしい、話が変わっているよ。この本はファンタジーで、勇者ダンが主役なのに冒険ばかりしているし。これって、あの世界で僕のやっていたことじゃない?こんな話だったかな?僕は急いで先のページをめくった。

 半ばまでめくると、手が止まった。

「精霊と勇者と滅びの国」の本の半ばから、真っ白なページになっていた。その先はすべて真っ白で何もない。

 ばあや、にいちゃん、ダン、エディがいる世界の未来が消えていた。何が起きているんんだ?
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