上 下
1 / 49
さよなら世界、こんにちは異世界

1.Hello 異世界

しおりを挟む
 僕の胸の真ん中には、幼い頃から与えられた幾つもの線がある。これは、僕が生きてきた証で、僕と父さんと母さんがもがいてきた証拠だ。

 でも、どうやらこれで最後みたいだ。眼下に父さんと母さんが泣いている姿が見えた。親不孝しちゃって、ごめんね。僕、病院にばかりいたけれど、それなりに楽しかったよ。母さんが与えてくれた本が心のよすがとなって、いつも支えてくれていた。だから、「私が健康に産んであげられなくてごめんなさい」なんて謝らないで。
 
 僕は父さんと母さんの子どもに産まれてきて、初川終として生きてきて良かったと思ってる。だから、母さん泣かないで。僕こそ、長く生きれなくてごめんなさい。

 もう、僕は、行かなくちゃいけないみたい。聞こえないと思うけど、父さん母さんありがとう。先生も看護師さんもありがとう。

 もし、生まれ変わりがあるならば、全力で走ってみたい。ただ、それだけでいいです。

━━愛し子よ、我が愛し子よ。聞き届けよう━━

 どこからか、厳かな声が聞こえてきた。意識がドロップアウトをしていく僕には、ところどころしか聞こえなかった……。何かとても大事なことを言われているのは分かったけど、眠くて眠くてとてもじゃないけど起きてられなかった。あと後、なんでちゃんと聞かなかったのか激しく後悔する事になるのだけどね。


♢♢♢♢♢♢


 で、どうしてこうなった?
 目覚めたベッドはふわふわのお布団で、人生の大半を病院のベッドの上で過ごしてきた僕には戸惑いしかなかった。
 幾重にも重ねた薄絹のレースが、ベッドの天蓋から垂れ下がっている。その天蓋には、妖精や花が色鮮やかに描かれていた。

 絶対に、ここは病院じゃないよね。
 薄絹のレースから周りを窺うと、ほのかに明るみが感じられた。時間は早朝?朝になろうとしているのかな。

 日が高くなれば、きっと誰かが来るはず。ここがどこで、今日がいつなのか全く分からないけれど、もしかしたら夢かも知れないし。
 
 それに、ものすごくお布団がふわふわで、肌触りも寝心地も最高過ぎて、二度寝の誘惑に勝てなかった。
 暢気に寝ている場合じゃなかったと思い知るのは、ずいぶん陽が高くなってからの事だった。初川終という名前じゃなくて、エンディ様と呼び掛けられた時の事だった。



 「エンディ様、そろそろ起きて下さいませ。もう陽は上陽(昼)に差し掛かりました。さすがに御母堂様も訝しみます。昨日の晩餐もお召し上がりになられなかったと聞きました。エンディ様の好物ばかりをご用意致しました。お身体に障りますので、どうかひと匙でもお召し上がり下さいませ。お顔をお見せ下さいませ」

 そう言うと、ばあや薄絹のレースカーテンを捲り上げた。うん?ばあやって、僕なに言ってんだ。ばあやって何だっけ?

 「エンディ様、いい加減に良く寝てよく食べて規則正しい生活をしないと大きくなれませんよ。もう、10才になられるのですから」
「ええっ、10才?」
「エンディ様、ばあやにふざけてもダメですよ。驚いた振りをしてもバレてしまいます」

 僕は、自分の声に驚いていた。この甲高い声は何なんだ。それに、10才って!

「すみません!鏡はありますか?お願いです。急いで貸して下さい」

 エンディって名前は、すごく聞き覚えがある。僕が小学生の時に毎日読んでいたファンタジー小説の中の……。

「こちらをどうぞ、エンディ様」

 ばあやから、手鏡を借りて顔を見た。そこには、少し窶れても見目麗しい、絶世の美少年がいた。

 誰これ?髪は金を溶かして糸にしたような豪奢な色の金色で肩より長く、しなやかな手触りだった。瞳は蜂蜜色で、どこか遠くを見ているかのように蕩けそうな視線だった。肌は抜けるように白く、頬は薄っすらとピンク色だ。鼻筋はスッと通り小鼻は形良く、唇はふっくらとして艶やかだった。唇の左下には、ほくろがあった。

 この特徴的なほくろと、このめちゃくちゃ美少年の顔は!「精霊と勇者と滅びの国」の悪役、エンディ・アンディスール・デュトワじゃないか!
 どうして、僕がエディなの?しかも、ばあやは10才と言っていた。本の中では、僕と同じ16才だったのに。もう一度、手鏡で見てみる。

 10才のエディ。か、かわいい。こんなに可愛いのに、悪役なんて嘘だぁー。いやまて、初川終がエディってどうなっているの?僕の頭では、理解が出来ずにばあやには申し訳ないけど、クラッとして意識を失っていた。ばあやの心配で泣きそうな叫び声を聞きながら……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!

京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優 初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。 そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。 さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。 しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。

さむいよ、さみしいよ、

moka
BL
僕は誰にも愛されない、、、 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 人を信じることをやめた奏が学園で色々な人と出会い信じること、愛を知る物語です。

攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。

BL
───…ログインしました。 無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。 そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど… ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・ 『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』 「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」 本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!! 『……また、お一人なんですか?』 なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!? 『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』 なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ! 「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」 ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ… 「僕、モブなんだけど」 ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!! ───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

処理中です...