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さよなら世界、こんにちは異世界
1.Hello 異世界
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僕の胸の真ん中には、幼い頃から与えられた幾つもの線がある。これは、僕が生きてきた証で、僕と父さんと母さんがもがいてきた証拠だ。
でも、どうやらこれで最後みたいだ。眼下に父さんと母さんが泣いている姿が見えた。親不孝しちゃって、ごめんね。僕、病院にばかりいたけれど、それなりに楽しかったよ。母さんが与えてくれた本が心のよすがとなって、いつも支えてくれていた。だから、「私が健康に産んであげられなくてごめんなさい」なんて謝らないで。
僕は父さんと母さんの子どもに産まれてきて、初川終として生きてきて良かったと思ってる。だから、母さん泣かないで。僕こそ、長く生きれなくてごめんなさい。
もう、僕は、行かなくちゃいけないみたい。聞こえないと思うけど、父さん母さんありがとう。先生も看護師さんもありがとう。
もし、生まれ変わりがあるならば、全力で走ってみたい。ただ、それだけでいいです。
━━愛し子よ、我が愛し子よ。聞き届けよう━━
どこからか、厳かな声が聞こえてきた。意識がドロップアウトをしていく僕には、ところどころしか聞こえなかった……。何かとても大事なことを言われているのは分かったけど、眠くて眠くてとてもじゃないけど起きてられなかった。あと後、なんでちゃんと聞かなかったのか激しく後悔する事になるのだけどね。
♢♢♢♢♢♢
で、どうしてこうなった?
目覚めたベッドはふわふわのお布団で、人生の大半を病院のベッドの上で過ごしてきた僕には戸惑いしかなかった。
幾重にも重ねた薄絹のレースが、ベッドの天蓋から垂れ下がっている。その天蓋には、妖精や花が色鮮やかに描かれていた。
絶対に、ここは病院じゃないよね。
薄絹のレースから周りを窺うと、ほのかに明るみが感じられた。時間は早朝?朝になろうとしているのかな。
日が高くなれば、きっと誰かが来るはず。ここがどこで、今日がいつなのか全く分からないけれど、もしかしたら夢かも知れないし。
それに、ものすごくお布団がふわふわで、肌触りも寝心地も最高過ぎて、二度寝の誘惑に勝てなかった。
暢気に寝ている場合じゃなかったと思い知るのは、ずいぶん陽が高くなってからの事だった。初川終という名前じゃなくて、エンディ様と呼び掛けられた時の事だった。
「エンディ様、そろそろ起きて下さいませ。もう陽は上陽(昼)に差し掛かりました。さすがに御母堂様も訝しみます。昨日の晩餐もお召し上がりになられなかったと聞きました。エンディ様の好物ばかりをご用意致しました。お身体に障りますので、どうかひと匙でもお召し上がり下さいませ。お顔をお見せ下さいませ」
そう言うと、ばあや薄絹のレースカーテンを捲り上げた。うん?ばあやって、僕なに言ってんだ。ばあやって何だっけ?
「エンディ様、いい加減に良く寝てよく食べて規則正しい生活をしないと大きくなれませんよ。もう、10才になられるのですから」
「ええっ、10才?」
「エンディ様、ばあやにふざけてもダメですよ。驚いた振りをしてもバレてしまいます」
僕は、自分の声に驚いていた。この甲高い声は何なんだ。それに、10才って!
「すみません!鏡はありますか?お願いです。急いで貸して下さい」
エンディって名前は、すごく聞き覚えがある。僕が小学生の時に毎日読んでいたファンタジー小説の中の……。
「こちらをどうぞ、エンディ様」
ばあやから、手鏡を借りて顔を見た。そこには、少し窶れても見目麗しい、絶世の美少年がいた。
誰これ?髪は金を溶かして糸にしたような豪奢な色の金色で肩より長く、しなやかな手触りだった。瞳は蜂蜜色で、どこか遠くを見ているかのように蕩けそうな視線だった。肌は抜けるように白く、頬は薄っすらとピンク色だ。鼻筋はスッと通り小鼻は形良く、唇はふっくらとして艶やかだった。唇の左下には、ほくろがあった。
この特徴的なほくろと、このめちゃくちゃ美少年の顔は!「精霊と勇者と滅びの国」の悪役、エンディ・アンディスール・デュトワじゃないか!
どうして、僕がエディなの?しかも、ばあやは10才と言っていた。本の中では、僕と同じ16才だったのに。もう一度、手鏡で見てみる。
10才のエディ。か、かわいい。こんなに可愛いのに、悪役なんて嘘だぁー。いやまて、初川終がエディってどうなっているの?僕の頭では、理解が出来ずにばあやには申し訳ないけど、クラッとして意識を失っていた。ばあやの心配で泣きそうな叫び声を聞きながら……。
でも、どうやらこれで最後みたいだ。眼下に父さんと母さんが泣いている姿が見えた。親不孝しちゃって、ごめんね。僕、病院にばかりいたけれど、それなりに楽しかったよ。母さんが与えてくれた本が心のよすがとなって、いつも支えてくれていた。だから、「私が健康に産んであげられなくてごめんなさい」なんて謝らないで。
僕は父さんと母さんの子どもに産まれてきて、初川終として生きてきて良かったと思ってる。だから、母さん泣かないで。僕こそ、長く生きれなくてごめんなさい。
もう、僕は、行かなくちゃいけないみたい。聞こえないと思うけど、父さん母さんありがとう。先生も看護師さんもありがとう。
もし、生まれ変わりがあるならば、全力で走ってみたい。ただ、それだけでいいです。
━━愛し子よ、我が愛し子よ。聞き届けよう━━
どこからか、厳かな声が聞こえてきた。意識がドロップアウトをしていく僕には、ところどころしか聞こえなかった……。何かとても大事なことを言われているのは分かったけど、眠くて眠くてとてもじゃないけど起きてられなかった。あと後、なんでちゃんと聞かなかったのか激しく後悔する事になるのだけどね。
♢♢♢♢♢♢
で、どうしてこうなった?
目覚めたベッドはふわふわのお布団で、人生の大半を病院のベッドの上で過ごしてきた僕には戸惑いしかなかった。
幾重にも重ねた薄絹のレースが、ベッドの天蓋から垂れ下がっている。その天蓋には、妖精や花が色鮮やかに描かれていた。
絶対に、ここは病院じゃないよね。
薄絹のレースから周りを窺うと、ほのかに明るみが感じられた。時間は早朝?朝になろうとしているのかな。
日が高くなれば、きっと誰かが来るはず。ここがどこで、今日がいつなのか全く分からないけれど、もしかしたら夢かも知れないし。
それに、ものすごくお布団がふわふわで、肌触りも寝心地も最高過ぎて、二度寝の誘惑に勝てなかった。
暢気に寝ている場合じゃなかったと思い知るのは、ずいぶん陽が高くなってからの事だった。初川終という名前じゃなくて、エンディ様と呼び掛けられた時の事だった。
「エンディ様、そろそろ起きて下さいませ。もう陽は上陽(昼)に差し掛かりました。さすがに御母堂様も訝しみます。昨日の晩餐もお召し上がりになられなかったと聞きました。エンディ様の好物ばかりをご用意致しました。お身体に障りますので、どうかひと匙でもお召し上がり下さいませ。お顔をお見せ下さいませ」
そう言うと、ばあや薄絹のレースカーテンを捲り上げた。うん?ばあやって、僕なに言ってんだ。ばあやって何だっけ?
「エンディ様、いい加減に良く寝てよく食べて規則正しい生活をしないと大きくなれませんよ。もう、10才になられるのですから」
「ええっ、10才?」
「エンディ様、ばあやにふざけてもダメですよ。驚いた振りをしてもバレてしまいます」
僕は、自分の声に驚いていた。この甲高い声は何なんだ。それに、10才って!
「すみません!鏡はありますか?お願いです。急いで貸して下さい」
エンディって名前は、すごく聞き覚えがある。僕が小学生の時に毎日読んでいたファンタジー小説の中の……。
「こちらをどうぞ、エンディ様」
ばあやから、手鏡を借りて顔を見た。そこには、少し窶れても見目麗しい、絶世の美少年がいた。
誰これ?髪は金を溶かして糸にしたような豪奢な色の金色で肩より長く、しなやかな手触りだった。瞳は蜂蜜色で、どこか遠くを見ているかのように蕩けそうな視線だった。肌は抜けるように白く、頬は薄っすらとピンク色だ。鼻筋はスッと通り小鼻は形良く、唇はふっくらとして艶やかだった。唇の左下には、ほくろがあった。
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