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11月 5

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「モミジちゃんボタンちゃん教えてよ!」
「あははっ!」「うふふっ!」
モミジとボタンは顔を見合わせてから笑う。豪快に笑うモミジとおしとやかに笑うボタン。笑い方は違うが、この時のツボはぴったり同じだった。



本番の一週間前。モミジが楽しそうに更衣室前に呼び出してきた。
「衣装出来たわよ!全員分ね!!!」
ルピナスもカスミも拍手する。
「さすがモミジちゃん!!」
「もうきてもいいの~?」
「もちろん!調節するから試着して!」

ルピナスはワクワクドキドキしながら着替えた。
モミジがオーダーした通りの出来だ。
頭にはボンネットでなく、フリルの着いたカチューシャ。
柔らかい生地の鮮やかな水色のワンピースは膝小僧を隠すぐらいの丈でルピナスの好みだ。
真っ白なエプロンも肩に繊細なフリルとレースがあり、胸元に付ける大きめのリボンはカチューシャと同じ赤。
白いソックスには能力の色の濃いピンクのハートがワンポイントで付いており、ストラップ付きの黒いエナメルのクツが光る。
「可愛い~!!」
とても気に入ったルピナスはくるくる回りながらはしゃいだ。スカートがふわふわと広がり、やる気メーターは爆上がりだ。



「おー、いいじゃん!」
「あ、アスター君・・・って 何そのカッコ!」
更衣室から出てきたアスターは、フリンジたっぷりのブラウスにボンテージがカット されたズボン。あの時の衣装のリメイクだ。
他にも丈の長い赤いジャケットにロングブーツとパイレーツハット。おまけに右手にはかぎ瓜と黒い眼帯にはドクロマーク
「ひひっ!ベニバナさんに頼んで作ってもらった!フック船長みたいだろ!?」
「うん・・・よく似合っててかっこいい ・・・」
「え・・・?」
固まったアスターにルピナスは不思議に思う。アスターの顔がだんだん赤くなっていく。
「ん・・・?」
「あ、ありがとな」
恥ずかしくなったルピナスはアスター以上に赤くなり、アスターを更衣室に押し込んだ。
「・・・・・・っ!な、何を遊んでるの! 早くウサギの衣装に着替えて!」
「わわわ、わかってるって!」


数分後
「ちゃんとウサギ着たぞ。うん、動きやすくていいな!」
「・・・・・・」
「どうした?」
白いシャツに赤いベスト。黒いジャージ風のズボン。くりくりした癖毛頭には野球帽のようなキャップ。そのキャップにウサ耳と後ろには尻尾が着いている。
「可愛い・・・!アスター君ってケモ耳似合うよね・・・。あっ!ご、ごめん嫌だったよね!」
言ってしまってから慌てて口を塞ぐ。ついハロウィンの事を思い出してしまう・・・。
「へ?いや、何でお前が赤くなってんだ?」
「あ、男の子には可愛いってあんまり言っちゃいけないって言ってたから・・・」
「確かにいい気分にはならないけど・・・。・・・!ちょっと待て!は、ハロウィンパーティーの時かそれ!?」
アスターは不思議そうにしていたが、だんだんルピナス以上に赤くなる。ルピナスはようやく思い出したと言わんばかりに腕を組んで軽く睨む。
「誰かさん、お酒入りのチョコレート食べて、私、動けなかったんだよ!ダ、レ、カ、さんが離してくれなかったから!」
「夢じゃ、ない・・・?」
「うん!」
「わ、悪ぃ。嫌だったか?」
「・・・・・・」
「ルピナス?」
ルピナスは迷惑かけられたとは思っていない。嫌だった訳でも無い事に気づいて赤くなる。照れを隠そうとして嫌だった事をあげる。
「き、傷ついたなぁ~翌日には忘れられてるし!」
アスターはなんとか弁明する。
「わ、悪かったって!いい夢だと思ってたんだよ!」
「い、言い訳禁止!」
い、いい夢!?膝枕してたんだよ!?ルピナスは茹でダコだ。アスターから顔を反らす。怒りよりも照れの感情の方が大きくなってしまった。
「マジでごめん!!・・・オレもそんなに酒に弱いなんて知らなかった・・・」
「と、とりあえずアスター君は今後お酒に注意する事!」
「・・・はい」
「ラムレーズンとかもダメだからね!」
「・・・はい」
ルピナスは真っ赤な顔を下に向けつつ聞いてみた。
「で、ど、どんな夢?」
「ん?ちっせぇ頃に父さんの膝の上で甘え・・・いや、なんでもない!」
ばっちり聞こえてしまった。事情を知ってしまっているからこそ、そんなのもう、何も言えないじゃない・・・
「ん、もういい。赦してあげる」
「ん、ゴメンな。オマエにそっぽ向かれると寂しい・・・」
「寂しくて死なないでねウサギさん」
「・・・・・・おぅ」
そう言ってルピナスはにっこり笑った。アスターはもう11月で秋なのに熱さを感じた。




劇当日
ルピナスは1人でいた。劇の前にお手洗いに急いで行ってきた帰りだ。知っている顔を見つけて声をかけた。
「あ、体育祭の時のおじさん!」
「やぁ!覚えていてくれたの?嬉しい!ね、ウチの子にならない?」
「いや、息子さんいるんでしょ?今日こそ会っていけばいいのに」
相変わらずだ。素直じゃないというか、意地の張り合いみたいだ。
「いやね、最初はこっそり見てて、段々気づかれないのにイライラしてきて、次に悲しくなってきて、今では楽しくなってきちゃったんだ。アイツ本当に鈍いんだよ!あははっ!」
「あははっ!って・・・なら、手紙書いたらどうですか?」
ルピナスは頭を抱えてしまう。ポンとでも音がしそうにおじさんは手を叩いて納得する。
「その手があったか!!」
「いや、気づいてくださいよ!」
ため息をついてからおじさんは癖毛頭をかいた。
「確かに、このままだと卒業まで気づかれないかも・・・。そうだね・・・年末年始に帰って来いって書こうかな?」
「それが良いです!」
「底抜けに明るくて話題の中心なのは良いけど、ヤンチャ坊主で無茶ばっかりするし、喧嘩すぐ買うし。なんか・・・構いたくなるんだよね。アイツって」
「・・・ん?」
そういう人知ってるような・・・
「あ、知ってるよね?名前は
「ルピナス!もうすぐ出番よ!」
「モミジちゃん!」
「じゃあ、お芝居楽しみにしてるね」
「あ、はい!」
おじさんはにっこり笑って席へ向かう。カバンからはカメラが見えていた。
「誰?あの人。ルピナスのお父さんじゃないわよね?」
モミジは不信がっている。
「・・・んと、知り合い?」
ルピナス関係を考えてみたが、友達というには年の差を感じるし、兄という訳でも無い。親戚の叔父さんのような、隣の家の叔父さんのような存在だ。
「ふ~ん、気をつけなさいよ?」
「うん。そんなに悪い人じゃないよ」
危険な発言はあるが、良くないものは感じない。
・・・なんだろう?フィルターをかけて私を見てるみたいなんだよね。息子さんとか、昔の恋人とか・・・
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