上 下
36 / 64

8月 3

しおりを挟む
先生の説得が終わりカスミを残して廊下に出る面々、誰か女性とすれ違い、そこでルピナスが気づく。
「あれ?ヤマブキ君は?」
「そういえばいないね」
ヒイラギも気づき、アスターが呼んでみる。
「ヤマブキ~どこだ~?」
「あ、終わった?」
ヤマブキが保健室から出てきた。カエデが聞く。
「ヤマブキ、保健室にいたのか?」
「ん、ちょって寝てる友達に逢いにいってた」
ヤマブキが頷くとアスターが思い出しながら口を開く。
「あーあの噂のか?」
「そう、保健室の眠り姫」
「何だそれ?」
またしてもヤマブキは頷くが、カエデは知らないようだ。カエデはウワサ話には全く興味を持たないからだろう。
「俺様も聞いた事はあるな。元々うちの生徒だったんだろ?」
ポトスもあまり興味を持たないタイプだ。アスターも頷く。
「あぁ、ウワサにされる方も気の毒だよな」
「あの七不思議的なのでしょ?空中庭園の少女、音楽室のピアノ。で、保健室の眠り姫」
モミジは好奇心旺盛で情報通だ。 
「数年前から見かけない生徒を巡ってそんなウワサが飛び交うようになったんですよね」
ボタンはウワサ話には興味無いが、怖い話が好きなので、興味を持っている。
ルピナスはボタンの話を聞いて怯える。
「えっと・・・怖い話はちょっと・・・」
「話聴いてた!?友達なの!!」
ヤマブキは少し怒っているようだ。
「友達?どういう事だ?」
仲の良いカエデが尋ねても
「もういいよ。行こう」
もうヤマブキは教えてくれなかった。完全にヘソを曲げてしまった。
他のクラスのみんなはもう何も言えなかった。
『・・・・・・』




数日後。寮のダイニングでお昼のざるそばを食べた後、ルピナスは談話室で夏休みの宿題をしていた。そこへモミジが来て、楽しそうに口を開いた。
「ルピナス!今日お祭り行かない!?」
「お祭り・・・え?今日!?」
「そうよ。毎年お盆を過ぎた頃にやってるお祭りなの!」
「近くのショッピングセンターが主催で。駅近くの河川敷で花火を上げたり、盆踊りもやるんです!」
「やたいもいっぱいでるよ!」
ボタンとカスミも集まってきた。
「浴衣で行くと、かなりオマケしてくれるわよ?」
「へ~!この時期にやってるなんて珍しいね」
大抵7月の終わりか8月の頭に集中しているからだ。地元の小学校も中学校も同じような時期にお祭りがあり、電車に乗っているといくつかの駅付近で同じ日に祭り囃子を聞いた事がある。
「元々、お盆で帰って来てるご先祖様をおもてなしするのが起源なんです」
「おてもとし?」 
ボタンの説明にカスミが首を傾げた。
「お、も、て、な、し、ですよ?」
ボタンはあのフレーズを完璧に再現した。ボタンも浮かれているのだ。
「お祭りか・・・で、でも浴衣持ってきてないよ・・・?着付けもできないし」
「・・・うふふっ!そういう理由なら、ボタン!」
モミジがパンパンと手をたたくとボタンが何処から出したのかハンガーに掛けた浴衣のラックを取り出した。
「はい!着付けなら任せて下さい!ウチもスポンサーなので、お父様にたくさん借りました!」
「アタシに任せて!ブルベ冬のルピナスにぴったりの浴衣を選んであげるわ!」
あ、海の時と同じ流れだ!今度こそ色の意味を知りたい!!
「真っ青がピッタリよ!」
「紫がお似合いです!!」
「あ、じゃあこれは?紫と青の浴衣」
ルピナスは間を取り、近くにあった浴衣をあてる。本当に良いとは思っていない。2人の反応が見たいのだ。
「ん~、悪くないけど、ルピナスはやっぱり暖色系が一番似合うわね・・・」
「悔しいです・・・」
やはり、かなり強い意味合いがある。能力の色を相手が着る意味が・・・
「なら、小物で青と紫を入れるのは?」
「ルピナス・・・」
「ルピナスさん・・・」
『好き・好きです!!』
モミジとボタンがルピナスに抱きついた。
「カスミもすき~!」
カスミも膝にぎゅうと引っ付いてきた。とても嬉しいけど・・・
「あははっ!私も3人の事大好きだよ。でも、ちょっと暑い・・・」

「・・・何してんの?」
「おしくらまんじゅうか!?」
カエデが引きながら、ポトスは楽しそうに談話室に入って来た。
「カエデ、ポトス?夏祭りの浴衣の話よ~」
「あ~そんな時期か・・・」
「またお土産買って来てあげるわね」
モミジはいつものように言ったが、カエデはそっぽを向いて、少し考えてからポツリと溢した。
「・・・いや、今回は行こうかな」
「・・・カエデ?大丈夫なの?」
「・・・うん、行きたい」
「・・・・・・そう」
モミジはカエデの視線をそっと追った。
「凄い量の浴衣だね。ボタンとこの?」
「はい!皆さんも着ませんか?」
ボタンが今来たヤマブキにも勧めた
「おっ!ルピナス、これ着ろよ!!」
いつの間にかいたアスターは一着の浴衣を手に取り見せてきた。
「アスター君?あ、可愛い!花火柄」
「うん、それ黒地に青も紫もあるし、ピンクが多いし、似合うわ!!」
「はい!とても素敵です!!」
モミジもボタンも賛成した。
「あ、オレこれがいい!」
アスターが選んだのは柔らかい青地に金色の花火柄。赤がポイントで使われていて、アスターに似合いそうだが、金色の花火柄はピンクゴールドのようで、全く違うメーカーだが、2人で着たらお揃いとしか思えない揃いようだ。
「る、ルピナス、蝶々はどう!?」
「麻の葉模様も素敵ですよ!?」
「宝づくし模様と鶴を見つけたぞ!」
「矢の柄、素敵だよ」
「・・・チェック柄どう?」
モミジもボタンもポトスもカエデもヤマブキも柄をプッシュしてきた。
あ、やっぱりデジャブ・・・
「ん?このひまわりの髪飾り可愛い!赤い紐と鈴が着いてる!これ着けたい!」
ボタンの持ってきた物には小物もあり、ルピナスは一目で気に入った。動かすとチリンチリンと音が鳴る。
「夏だし、花火とひまわりは合うんじゃないか?」
アスターが提案したらルピナスはにっこりと笑った。
「うん!やっぱりその花火の浴衣がいい!!」
『・・・・・・・・・・・・!!!!!』
ヒイラギとカスミ以外のみんながガッカリしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

転生したら王道乙女ゲームのモブ!?

萌凛珠
恋愛
私はサーレイト。事故でこの世界、王道乙女ゲームの世界に転生してしまったの!イケメンなお兄様や婚約者はまさかの攻略対象!?けど、私はモブ。 そんな転生侯爵令嬢のお話 R15は一応のため。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...