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7月海1

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7月の教室でのホームルーム
フクジュ先生は眼鏡を光らせる。
「さて、夏休みが近い。皆で戦を始める!」
「い、戦!?先生ちょっと待って下さい!そんな戦いなんて!」
「止めるなルピナス!さぁ、いくぞ!」
「あの!ちょっとま
「体育祭でもらった券。夏休みの旅行先は海と山。あなたの気分は、どっち!!」
あ、その話ね・・・。全く料理ショーじゃないんだから。先生ノリノリじゃないの・・・
「山だろ!山1択!」
「お前カナズチだもんな」
いつものようにアスターが真っ先に手を上げて立ちながら発言し、今日はカエデが冷静に突っ込む。
「う、うるさい!泳ぐ機会が無いだけだ!」
「・・・火が消えちゃうみたいな感じかな?」
ルピナスが首をかしげると、アスター本人がボソッと答える。
「・・・暴走した時、水が全部蒸発したらしい」
「・・・え?」
「が、ガキの時に聞いた話だぞ?・・・大泣きして、風呂のお湯が無くなったって」
「・・・・・・ホント?」
「た、多分ウソだと思うぞ!うん!」
「能力って大変だね・・・」
「他人事みたいに・・・お前だって体育祭大変だったろ?」
「うん、確かに借り物競争はちょっと思った。気をつける・・・」
「・・・ぼくも山がいいな」
ヤマブキはこれまたいつものように眠そうにしながらも賛成してきた。
「おぉ、ヤマブキ!やっぱりお前もそう思うか!」
アスターがヤマブキにズイッと近づくと、ヤマブキはシッシと追い払う。
「暑苦しい!別にそんなんじゃない!電子機器は水に弱いの。それに山での磁場を確認したいだけ。ぼくは能力を試したいだけだから!」
・・・理由が長いほど言い訳みたいに聞こえてくるよね。微笑ましい
「わ、わたくしも山がいいです!キノコ狩りしたいです!」
ボタンもおどおどしながら賛成する。賛成の時にしかみんなの前で発言しない事が多いが、最初に比べたらかなりの進歩だ。
「でも、山って虫が多いわよ?」
「・・・っ!」
モミジの声にボタンがぴくっと反応する。
モミジは山のパンフレットを広げて大きな独り言のようにこちらを見ずに続ける。
「それに、山の近くには有名な心霊スポットがあるらしいじゃない?磁場で電波って異常な症状作るのよね?大変じゃないのかしら?どうボタンここ、本物?」
モミジがにっこりとボタンに視線をやり、パンフレットを渡す。ボタンは能力の影響で霊感が強い。本物かガセくらいなら写真でもわかってしまう。
「えっと・・・は、はい・・・本物です」
「・・・!!」
ボタンが首を縦に振り、ヤマブキが青ざめる。
「モミジ、新しく買った水着を早く着たいだけでしょ?2人をいじめないの!」
「何よ!?カエデも山がいいの?」
「・・・いや、そんな事ない。俺も、海がいいな・・・。バーベキューなら楽しそうだしカンタンだしね」
「カンタン・・・?」
モミジは思わず小さく呟いた。
「僕もどちらかといえば海かな?」
ヒイラギは少し考えてから答えた。
「ヒイラギもそう思う?そうよね!やっぱり海よね!!!」
モミジはいつになくテンションが高い。
「ヤマブキ君、そういうのダメなの?」
ルピナスは不思議そうに聞いた。
「ん、ダメっていうか、影響でぼくがパソコン触ると通りが良いんだよ」
「よく通るの?」
「そう。ネットとか繋がりやすいの。そういう機械に小さい頃から触れてたしね。調整も上手くなった」
「システムエンジニアとか?」
「ん。・・・・・・ハッカーとか」
「え?」
「そういうの」
ヤマブキは事も無げに答えた。
「あ、ソウナンダ・・・」
この学校、本当に凄い人の集まりなの!?
そういう学校です。

「山と海か・・・。山なら登山。海なら遠泳。俺様はトレーニングが出来ればどっちでも良いな!」
ポトスは中立派だ。
「出たよ脳筋」
「何だ?羨ましいのか?なら一緒に筋トレを
「しないから!呆れてるの!!」
ヤマブキの呟きをポトスは好意的に解釈する。俺様な性格だが、漢気と頼りがいがあるのでトゲを抜かれやすい為だ。

「ルピナスはどうだ?」
先生が私にも意見を求めてきた。最初はどっちでも良かったけど、でも・・・
「わ、私、そういう場所なら海がイイナ・・・」
「何だ怖いの
「当たり前でしょ!?」
「そ、そうか・・・」
アスターがからかい気味にニヤリとするが食い気味に言われて驚く。これはからかってはいけない。

「多数決なら綺麗に別れるか・・・」
先生は集計をとろうとしている。
ひいぃぃぃ!!有名な心霊スポットなんてムリ無理ムリ無理!!!肝試しとか絶対にイヤだよ!?!?
『・・・・・・・・・・・・』
冷戦状態の静まった教室に幼い声が響く。
「ねぇねぇ、うみって?」
「え!?カスミちゃん海見たことないの?」
ルピナスは驚く。確かに学校の近くに海は無い。自然に囲まれて、周辺の地域は四方を山が囲っていて、海は車を使わないと行けないが・・・
「テレビとか絵本では見るけど、大きな水溜まりなの?池や川とどう違うの?」
「先生・・・?」
ルピナスはジト目でフクジュを見る。
「そういえば、連れてった事無いな・・・海」
「・・・ね、海にしない?」
最年少のクラスメイトに貴重な経験をさせてあげたくて、ルピナスは皆を見ながら小首を傾げる。個人的希望もかなり含んでいる。
『異論無し!!』
「カスミちゃん!海に行こう!」
クラスメイトが全員参加してくれた。ルピナスは笑顔でカスミと両手の手のひらを合わせた。
「うん!」
「あ、なら水着買いに行かなきゃ」
「わ、わたくしもです」
ルピナスとボタンが言う中、モミジはキラリと眼を光らせた。
「・・・!!ね、なら今度の日曜、ショッピングモールに水着買いに行きましょ!」
「・・・モミジ、水着もう買ったでしょ?」
「違う!みんなの水着を選びたいの!!」
「・・・そう」
カエデは小さく微笑んだ。
「ね、カスミちゃんも一緒に行かない?」
「え?カスミも!?」
「可愛い水着、モミジお姉さんが選んであげたいの!」
「カワイイみずぎ・・・!」
カスミは瞳を輝かせた。
「ね、先生良いでしょ?」
「あ、あぁ。あ、でも露出控えめなワンピースタイプにしろよ!?カスミはまだ子供なんだからな!」
「あらあらパパは過保護ね」
「かうまえに写真おくる!」
「・・・わかった。OKしてから買えよ?ダメなのは本当に返品するからな!!」
「本当に過保護・・・!」
モミジは吐き捨てるように言った。

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