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6月体育祭5

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ヤマブキはニヤリと笑った。
どうしても勝ちたいから、ぼくはぼくの得意分野で戦わせてもらうね

「あの、いいですか?アセビさん」
ヤマブキはCクラスの対戦相手にそっと声をかける。
彼の能力は電気。痺れさせる麻痺だ。ヤマブキの能力は電波を使うので乱され、打ち消し合うから苦手な相手だ。
アセビは砂漠のようなベージュの髪に辛子色の瞳だ。
忠義に熱い熱血漢。頭は悪くはない、いじめは絶対ゆるさない正義感の強いタイプだ。ただし単純。
みんな何故彼が火系じゃないのか不思議に思う人が多いけど、根に持ち、熱しにくく冷めにくいタイプだからだ。
なら・・・

「何だ?」
「きみの後輩、昔走らされてたんですって!主犯この人ですよ」
と、ヤマブキはSクラスの人をそっと指差す。
「何だとっ!?赦せん!」
ヤマブキは眼を盗み、そっとハンカチをアセビのポケットに仕舞った。


ヤマブキはそっと移動して、Sクラスの対戦相手にまたそっと声をかけた。
「ね、ジシバリ君・・・」
こっちの彼は蔓の能力だ。地面に触れれば蔓が生える。いつでも地面に触れているグラウンドでは厄介だ。
丸眼鏡をかけていて、抹茶色の髪に青が入った緑色の瞳だ。草属性だとわかりやすい癒し系な見た目で性格もおとなしいが、かなり嫉妬深い。
「な、何!?」
ジシバリはさきほどヤマブキが指差していた人だ。
「あのさ、昨日の夜きみ、彼女と連絡出来なかったんでしょ?」
「何でそれを!?」
「ぼくの能力は盗聴だよ?彼女、この人と会ってたんだよ。ほら、ポケットから見えてるハンカチ。彼女の能力の色でしょ?」
ヤマブキは自分が入れたハンカチを指差す。
「本当だ!」
「知ってるでしょ?自分の能力の色の物を、誰かに渡すのがどういう意味か」
「・・・・・・!」
ジシバリの血の気が引く。



「よーいスタート!?」
ブァッ
合図を待たずにアセビとジシバリは取っ組み合いの喧嘩をはじめてしまう。
何とか鳴った理事長のブブゼラの合図の後、ヤマブキはてってってと軽く走り、自分のレーンにあるホットドッグを咥えてとる。そして、あろう事か手を使い、そのまま食べはじめた!
「ん、美味しい!肉汁が冷めてるのに感じる!流石カエデだ」
半分ほど食べる。次はチリ。別のレーンのホットドッグを咥えてとり、またその場で食べる。
「ん~!!スパイシーだね!コショウ効いてる!」
あ、辛さで口がちょっとヒリヒリしてきた・・・最後何だろう?甘い香りがするや
最後に残ったホットドッグも咥えてとる。
「あ、やっぱり甘い。これはカエデのオリジナルだ。蜂蜜とチーズ?美味しい・・・」
3つ全て抱えたヤマブキはまるで食べ歩きでもしているように歩いてゴールへと向かい歩き、ゴールテープを切った。
テープを持っていた人も、周囲の人も、司会をしている理事長も呆気にとられている。

「や、ヤマブキ!!」
フクジュ先生が何とか声を上げる
「あ、へんへい、何?」
「何?じゃない!!お前、何してる!!」
「えっと・・・パン食い競争?」
ヤマブキは小首を傾げる
「お前のそれは食べ歩きの食レポだ!」
「・・・ぼくは運動得意じゃないから、能力を使ってぼくのやり方で戦っただけ」
「それにしても、3つ全てその場で食べるのはやりすぎだ!せめて齧るだけにしろ!」
いや、それはもっとダメでしょ・・・
ヤマブキは心の中で突っ込みを入れた。
「いや、モグモグ、3種類もあうからへんぶ食べはくて・・・モグモグ」
「食いながら喋るな・・・。でも、食レポは美味そうだった」
「ん・・・。ありがと」

フクジュ先生はスタート地点に行き2人を止めた。
「お前たちも、いつまで揉み合ってる!ウソに決まっているだろ?」
「へ!嘘なのか!?」
「ご、ごめん早とちりしたんだな」
アセビがいち早く止まり、ジシバリが謝る。
「いや、僕も悪
「本当に嘘かなぁ~?」
アセビも謝ろうとした時、ヤマブキはニヤリと笑った。
『な!?』
「ヤマブキ!!」
フクジュ先生に再度叱られたヤマブキはニヤニヤと笑う。
「疑いがあるんなら、怪しくない?なら、確かめてみれば?」

数分後
「一緒にご飯食べてたって彼女のお兄さんじゃないか!」
「ただ後輩が遅刻してキャプテンとして叱っただけじゃないか!」
ジシバリもアセビも怒る。
『ホットドッグ返せ!』
ごくん。ヤマブキは最後の一口を呑み込んだ。
「ごめん、もう食べちゃった。・・・アセビさんはいい加減2人を認めて、ジシバリ君はもっと彼女の事信じなよ」
「そう、だな。ありがとう・・・ってなるか!!」
「いい話で誤魔化すな!」
「え?ぼく、嘘はついて無いけ
「ヤマブキ・・・」
カエデはみかねてヤマブキを回収しに来たようだ。
「あ、カエデ!ありがとう美味しかった」
先ほどと変わり口元をぬぐいながら笑うヤマブキにカエデはため息をつくしかなく、気合いを入れすぎた事を反省した。
「あ、そう・・・。もう怒る気力も失せたよ」
「そう?ごちそうさまでした!」
ヤマブキはニッコリと笑った。

理事長は笑いながら「Zクラスの1位だけで良いんじゃない?」と話していたが、フクジュ先生が反対。ローズ先生やオリーブ先生。他の職員とも話し合い、結果ヤマブキはさすがにやりすぎだと失格になり、この試合は無効となった。

パン食い競争
無効で得点は動かない
Zクラス1位3点合計4点
Sクラス2位2点合計4点
Cクラス3位1点合計4点


アセビ
能力は電気
痺れさせる麻痺。ヤマブキの能力は電波を使うので乱されるから苦手な相手。
同族は打ち消してしまう。
忠義に熱い熱血漢で直情型。頭は悪くはない、いじめは絶対ゆるさない正義感が強い
根に持ち、熱しにくく冷めにくいタイプ。
Cクラスの高校3年生。
砂漠のようなベージュの髪に辛子色の瞳。


ジシバリ
能力は蔓。地面に触れれば蔓が生える。普段は強くないけど、いつでも地面に触れるグラウンドでは厄介。
Sクラスの男の子。中学2年生。
普段はおどおどしてる優しい少年だけど、嫉妬深くてヤンデレ気質。執着が強く、思い込みが激しい。加えて騙されやすくどんくさい。
幼なじみの彼女は包容力高いけど、そろそろ信用してほしいと不満。彼女はダメンズホイホイ。入学式でイベリスに声をかけ、玉入れに出てた女の子。
丸眼鏡をかけていて、抹茶色の髪に青が入った緑色の瞳。
草属性だとわかりやすい癒し系な見た目
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