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負けるはずがない
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ユージュアルに夕食後に呼ばれた。
拒否権あるかと聞いてみたが、これも仕事だとポークスのおやっさんに言われて渋々足を動かす。
てっきり夕食時に呼ばれると思ったが、どうやらリーシュには聞かせない話となると、俺の想像した人物像は間違っていないらしい。
ドアをノックすると、どうぞと声がかかったので開けた。奴はソファに腰を下ろしていて、緩やかに手招きした。
近づいていくと、手で制した。近づきすぎるなと言う目だ。笑っているのに、怒っているような目だ。やはり仮面も間違っていない。
人の醜さに触れすぎたせいで、敵意を感じやすくなってしまった。先輩の野良猫という指摘に改めて図星を覚えた。
「この辺りでよろしいで
「発言を許可した覚えは無いよ?」
向かい合った第一声がそれかよ。やっぱりやな奴。
「単刀直入に言う。この屋敷から出て行ってくれないか?」
「はあ?」
「発言は許可していないよ?加えて、口の聞き方も知らないと見える。一体どんな教育を、っと。そうだったね。キミは生まれて直ぐ親に捨てられたんだったね。施設に入り、一度ある家庭に引き取られたけど、1年もしない内にその家の者達が亡くなったんだろ?キミは施設に戻ったが、誰も引き取り手が現れることは無かった。ま、当然だよね。引き取られた家の人間全員が死んでるんだし。随分とウワサされたみたいだね。犯人はキミだって?」
「・・・よく喋る口だなぁ、人の過去探ってそんなに楽しいか?」
ロジーにも俺の事を調べられていたが、その理由は根本的にはどんな人物か。という確認で、リーシュにとって危険が無いように。という物だった。
初対面の人間の、恐らく触れない方が良いと思われるような過去に土足で踏み込んできた。疑問と皮肉が多い話し方もそうだが喧嘩売ってんのか?
「発言は許可していないよ?少年院に入るかと思われたけど、証拠が何も無いから、施設に戻るだけで済んだ」
「そうだったな」
でも、もう過ぎた事だ。気持ちの整理はついている。今はもう過去の出来事だ。
「キミは引き取られるのを嫌がっていたそうだね?友達や仲間はみんな施設の中や周りにいるからって?」
「そりゃそうだろ。ガキなんだ。別れが辛くないわけねーよ。みんな仲良かったし。で、発言許可したのか?」
気持ちの整理はついているし、こういう奴にもたくさん関わってきた。でも、言われっぱなしは性に合わない。売られた喧嘩は買う主義だ。
「・・・僕は君が嫌いだ」
「奇遇だな、俺もお前が嫌いだよ」
「君はリーシュの側に居ていい人間じゃない!」
「へー、お前は良いんだ」
「僕は婚約者だ!!家柄も、身分も良い!」
「俺、唯の料理人だけど、家柄や身分高くないとダメなのか?」
皮肉には皮肉で返す。
「君はリーシュにとって唯の料理人じゃないだろう!?」
「あー、専属?あと、学校の先輩?」
ユージュアルは下を向いて、頭を抱えて、少ししてから指の隙間から睨んできた。呆れているように。
「・・・キミだろ?リーシュを助けたのは」
「拒食症からか?」
「・・・入学式の時だ!!」
ユージュアルは立ち上がって叫んだ。取り乱してはいない。
わけわからん。はっきりと言え。
「入学式?」
「この春、学校で彼女を助けただろ!?」
「とある奴に助けられたことはあるけど・・・」
季節は半巡りしている。今年は印象的な出来事が多くてほとんど覚えていない。
「迷っていた一年生に道案内したろ?忘れたのか?」
ユージュアルは疲れたように椅子に座り込んだ。
「・・・・・・あー、1人ウロウロしてた奴に体育館ならアッチだって言ったくらいか?」
頭の片隅に僅かに残っていた記憶をなんとか引っ張り出す事に成功した。
「それが彼女、リーシュだ」
「あー、そうなの」
「あー、そうなの!?彼女が迷っていたところを道案内して先生に報告し、帰りにお菓子を与えるまでが流れだろ?彼女がどれだけ感謝していると思って!!」
よく覚えてるなぁ。俺はすっかり忘れてた。
「・・・はぁ、だから庶民は嫌いだ」
ユージュアルは顔を上に上げた。疲れているみたいに。
「あー、その日に助けられた奴がいるっつったろ?そっちの方が強く残ってんだよ」
助けた事よりも助けられた方が覚えてる。助けている感覚は人それぞれだ。
「まさか、遅刻してこっそり忍び込み、先生に見つかりそうになっていたところを庇った一年生の事か?」
「お前、見てたの?いや~助かったな!ぁ、アレは!元気にしてるかな?結局礼も言えなかったし。次の日に教室行っても居なかったんだよなぁ」
「それも彼女だ!迷っているところにキミが降ってきたらしいが、大方遅刻して木に登って降りたところに彼女がいたんだろう」
「あー、思い出したわ」
詳細な絵が脳裏に蘇る。
「そして、入学式の翌日、彼女は体調を崩して休んでいる!そして彼女もキミを探した!何処にいた!」
「アイツの事報告した後にセンコーに謹慎喰らったんだよ!」
嫌な事思い出させるなよ
「ふふふっ、自業自得だね。その謹慎中に彼女は一週間探して、人に聞き諦めた。そして、キミの謹慎はちょうど一週間か?面白いくらいにすれ違っているね?」
なるほどな。ドラマみたいなすれ違いだ。
「君だと何人かの人間は理解したかもしれないが、何せあのリーシュだ。近づけない方が良いと判断されてもおかしくないな」
「・・・確かに。それも調べたのか?お前ヒマなの?」
「リーシュとはずっと文通しているんだ!」
「あーはいはい筆マメなのな」
どーでも良くなってきた。何がしたいんだ?
「そうやって!キミたちは出会い、すれ違ってしまった為に会えず、そしてお互いが知らずに再会して、今は距離を置いている?まるで本の世界だ。キミたちの前世はロミオとジュリエットかい?」
「疑問と皮肉の多い奴だなぁ。結局何が言いたいんだよ」
段々イライラしてきた。
「さっきから言ってるんだけど?キミはリーシュの側に居ていい人間じゃない。この屋敷から出て行ってくれ。食事ならいつでも届けられるだろう?」
俺は口喧嘩も得意だ。相手と同じ方向で勝負する。目に目を。皮肉には皮肉をだ。
「俺、料理人だぜ?俺が前に住んでたボロアパートで作った飯をアイツに食わせていいのかよ?」
「・・・!通えばいいだけだろ!?」
「なるほど、小腹がすいた度に呼び出されるわけか。おやつ、も!」
「・・・・・・!用意しておけばいいだけだろ!?」
「出来立てを食えないのか~。あ、汁物は大変だなぁ?」
「・・・・・・・・・!き、キミなら出来るだろ?」
「俺の腕そんなに信頼してくれんのは嬉しいけど、ここの料理人達にも教えられねーなぁ。俺休めねーじゃーん!」
「もういい!!」
いくら腹黒で策士の奴でも、こんなおぼっちゃまが俺に口で叶うわけない。
ユージュアルはリーシュが大切で仕方ないらしい。なら俺はリーシュに必要とされて、ロジーに依頼されてここにいるのだから、俺だけに言うのはおかしな話だ。
ユージュアルは無言で俺を睨む。その時だ!
拒否権あるかと聞いてみたが、これも仕事だとポークスのおやっさんに言われて渋々足を動かす。
てっきり夕食時に呼ばれると思ったが、どうやらリーシュには聞かせない話となると、俺の想像した人物像は間違っていないらしい。
ドアをノックすると、どうぞと声がかかったので開けた。奴はソファに腰を下ろしていて、緩やかに手招きした。
近づいていくと、手で制した。近づきすぎるなと言う目だ。笑っているのに、怒っているような目だ。やはり仮面も間違っていない。
人の醜さに触れすぎたせいで、敵意を感じやすくなってしまった。先輩の野良猫という指摘に改めて図星を覚えた。
「この辺りでよろしいで
「発言を許可した覚えは無いよ?」
向かい合った第一声がそれかよ。やっぱりやな奴。
「単刀直入に言う。この屋敷から出て行ってくれないか?」
「はあ?」
「発言は許可していないよ?加えて、口の聞き方も知らないと見える。一体どんな教育を、っと。そうだったね。キミは生まれて直ぐ親に捨てられたんだったね。施設に入り、一度ある家庭に引き取られたけど、1年もしない内にその家の者達が亡くなったんだろ?キミは施設に戻ったが、誰も引き取り手が現れることは無かった。ま、当然だよね。引き取られた家の人間全員が死んでるんだし。随分とウワサされたみたいだね。犯人はキミだって?」
「・・・よく喋る口だなぁ、人の過去探ってそんなに楽しいか?」
ロジーにも俺の事を調べられていたが、その理由は根本的にはどんな人物か。という確認で、リーシュにとって危険が無いように。という物だった。
初対面の人間の、恐らく触れない方が良いと思われるような過去に土足で踏み込んできた。疑問と皮肉が多い話し方もそうだが喧嘩売ってんのか?
「発言は許可していないよ?少年院に入るかと思われたけど、証拠が何も無いから、施設に戻るだけで済んだ」
「そうだったな」
でも、もう過ぎた事だ。気持ちの整理はついている。今はもう過去の出来事だ。
「キミは引き取られるのを嫌がっていたそうだね?友達や仲間はみんな施設の中や周りにいるからって?」
「そりゃそうだろ。ガキなんだ。別れが辛くないわけねーよ。みんな仲良かったし。で、発言許可したのか?」
気持ちの整理はついているし、こういう奴にもたくさん関わってきた。でも、言われっぱなしは性に合わない。売られた喧嘩は買う主義だ。
「・・・僕は君が嫌いだ」
「奇遇だな、俺もお前が嫌いだよ」
「君はリーシュの側に居ていい人間じゃない!」
「へー、お前は良いんだ」
「僕は婚約者だ!!家柄も、身分も良い!」
「俺、唯の料理人だけど、家柄や身分高くないとダメなのか?」
皮肉には皮肉で返す。
「君はリーシュにとって唯の料理人じゃないだろう!?」
「あー、専属?あと、学校の先輩?」
ユージュアルは下を向いて、頭を抱えて、少ししてから指の隙間から睨んできた。呆れているように。
「・・・キミだろ?リーシュを助けたのは」
「拒食症からか?」
「・・・入学式の時だ!!」
ユージュアルは立ち上がって叫んだ。取り乱してはいない。
わけわからん。はっきりと言え。
「入学式?」
「この春、学校で彼女を助けただろ!?」
「とある奴に助けられたことはあるけど・・・」
季節は半巡りしている。今年は印象的な出来事が多くてほとんど覚えていない。
「迷っていた一年生に道案内したろ?忘れたのか?」
ユージュアルは疲れたように椅子に座り込んだ。
「・・・・・・あー、1人ウロウロしてた奴に体育館ならアッチだって言ったくらいか?」
頭の片隅に僅かに残っていた記憶をなんとか引っ張り出す事に成功した。
「それが彼女、リーシュだ」
「あー、そうなの」
「あー、そうなの!?彼女が迷っていたところを道案内して先生に報告し、帰りにお菓子を与えるまでが流れだろ?彼女がどれだけ感謝していると思って!!」
よく覚えてるなぁ。俺はすっかり忘れてた。
「・・・はぁ、だから庶民は嫌いだ」
ユージュアルは顔を上に上げた。疲れているみたいに。
「あー、その日に助けられた奴がいるっつったろ?そっちの方が強く残ってんだよ」
助けた事よりも助けられた方が覚えてる。助けている感覚は人それぞれだ。
「まさか、遅刻してこっそり忍び込み、先生に見つかりそうになっていたところを庇った一年生の事か?」
「お前、見てたの?いや~助かったな!ぁ、アレは!元気にしてるかな?結局礼も言えなかったし。次の日に教室行っても居なかったんだよなぁ」
「それも彼女だ!迷っているところにキミが降ってきたらしいが、大方遅刻して木に登って降りたところに彼女がいたんだろう」
「あー、思い出したわ」
詳細な絵が脳裏に蘇る。
「そして、入学式の翌日、彼女は体調を崩して休んでいる!そして彼女もキミを探した!何処にいた!」
「アイツの事報告した後にセンコーに謹慎喰らったんだよ!」
嫌な事思い出させるなよ
「ふふふっ、自業自得だね。その謹慎中に彼女は一週間探して、人に聞き諦めた。そして、キミの謹慎はちょうど一週間か?面白いくらいにすれ違っているね?」
なるほどな。ドラマみたいなすれ違いだ。
「君だと何人かの人間は理解したかもしれないが、何せあのリーシュだ。近づけない方が良いと判断されてもおかしくないな」
「・・・確かに。それも調べたのか?お前ヒマなの?」
「リーシュとはずっと文通しているんだ!」
「あーはいはい筆マメなのな」
どーでも良くなってきた。何がしたいんだ?
「そうやって!キミたちは出会い、すれ違ってしまった為に会えず、そしてお互いが知らずに再会して、今は距離を置いている?まるで本の世界だ。キミたちの前世はロミオとジュリエットかい?」
「疑問と皮肉の多い奴だなぁ。結局何が言いたいんだよ」
段々イライラしてきた。
「さっきから言ってるんだけど?キミはリーシュの側に居ていい人間じゃない。この屋敷から出て行ってくれ。食事ならいつでも届けられるだろう?」
俺は口喧嘩も得意だ。相手と同じ方向で勝負する。目に目を。皮肉には皮肉をだ。
「俺、料理人だぜ?俺が前に住んでたボロアパートで作った飯をアイツに食わせていいのかよ?」
「・・・!通えばいいだけだろ!?」
「なるほど、小腹がすいた度に呼び出されるわけか。おやつ、も!」
「・・・・・・!用意しておけばいいだけだろ!?」
「出来立てを食えないのか~。あ、汁物は大変だなぁ?」
「・・・・・・・・・!き、キミなら出来るだろ?」
「俺の腕そんなに信頼してくれんのは嬉しいけど、ここの料理人達にも教えられねーなぁ。俺休めねーじゃーん!」
「もういい!!」
いくら腹黒で策士の奴でも、こんなおぼっちゃまが俺に口で叶うわけない。
ユージュアルはリーシュが大切で仕方ないらしい。なら俺はリーシュに必要とされて、ロジーに依頼されてここにいるのだから、俺だけに言うのはおかしな話だ。
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