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第四出動 月花の心の扉を壊せ! ③
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「それが学院に来ない理由?」
「七割くらいはな」
銀次が力なく返答すると、鉄平は普段見せない鋭い視線を銀次にぶつけた。
「そんなの銀ちゃんらしくないぞ! オレなんか毎日恥ずかしいことしてるけど、この通りピンピンしてるだろ? 学院だって無遅刻無欠席だ! 今日まではな!」
自分が恥を晒している自覚があった事実に銀次は驚いた。
「おおう、いいぞ少年! もっと言ってやれ!」
「銀ちゃんよ。戦隊で絶対的エースはいらんのだよ。全員が同じ能力で、誰かが不調でも別の誰かが補えば済む話だ。全てを一人で抱え込む必要などないんだよ! 属人化は悪だ、悪!」
「いいぞお嬢ちゃん! もっともっと言ってやれ!」
北道がジャブを繰り出して場を盛り立てている。
「橋本。君は喧嘩と度胸だけが持ち味だと思っていたが、ついに度胸すらも失ったか。もはや吠えるだけの負け犬に成り下がった君は哀れだ。あぁ実に哀れで虚しいろくでなしのドクズだ」
「えぇ……さすがに辛辣だろ……」
イケイケテンションだった北道も、優の激励とは思えぬ罵詈雑言の嵐に血の気が引いている。ジャブもしぼんでしまった。
「市原テメェはある意味ブレねぇな」
毎度の優の辛辣な物言いにイラっとはしたが、同時に一人くらいは別の視点から否定してくれる人材も必要悪だと感じた。全員がイエスマンでストッパー役がいない組織は危険だ。
「銀ちゃんの長所は!?」
鉄平に問われた銀次は、以前放課後に皆で話し合った日でのことを思い出した。
「喧嘩が強いこと、だったよな」
「あれは曖昧な言い回しだったけど、喧嘩ができるのは勇気や度胸、男気があるからだ。昭和時代ならいざ知らず、今の時代にそれらを持つ人間ってのはそうそういるもんじゃない」
「ま、僕はそのスタイルには賛同できないがな。足がつきやすいし、スマートじゃない」
鉄平が熱弁していると、優が割って入ってきた。
「確かにスマートじゃねぇよな」
銀次も頷く他なかった。自分でも分かっている。
「それだけじゃないぞ。面倒見がよくて、優しいんだ!」
「だからそれは――」
「時雨さんの件だって、話し方とか目線とか、色々教えてあげてたじゃん。告白だって、長期的には時雨さんのためになると考えて彼女自身の口でさせたんでしょ?」
最後の表現が卑猥な気もしたが、鉄平なりに銀次を慮って話してくれていることに感謝だ。
「面倒見いいじゃん。優しいじゃん」
鉄平は銀次の背中に手を添える。
「だから自分ばかり攻めないでくれよ。それを言ったらオレたちだって立川小沢の仲をロクに調べもしないで告白のお膳立てをしてしまったんだからさ。連帯責任よ」
だから一人で気を病む必要は一切ないんだと鉄平は言う。
「時雨さんもだけど、銀ちゃんは完璧主義すぎるんだよ。失敗しない人間なんていない。まだ学生なんだからさ、失敗したっていいじゃないの。むしろ、失敗から学ぶことで失敗しない奴が持ってない価値観や感性が得られることだってザラにあるでしょ」
「村野……」
「だからさ、俺はいない方がいいだなんて、言わないでよ」
鉄平はそこまで話すと、けらけら笑っていつも通りの軽い口調で続ける。
「強いて言うなら、立川が付き合ってた件はオレらには相談してほしかったなー」
鉄平の不満に真紀も頷いた。
「そうだぞ。我らは戦隊だぞ!」
謎のポーズを決めるが、誰もツッコめる雰囲気ではない。
「それに、銀ちゃんは月花を侮りすぎだ。アイツは挫折を味わう度に起き上がってくる。パワーアップした状態でな!」
「そう、なのか……?」
説得力があるようなないような、何ともいえない感情が銀次を襲った。
(銀次、いいダチを持ったな)
ワーストレンジャーの会話を聞いている北道は優しく微笑んで目を閉じた。
「この際だ、銀次。お前が学院をサボる根本原因もみんなに教えてやったらどうだ?」
「それは――」
銀次は躊躇した。
学院を辞めたい、それは即ちワーストレンジャーもいずれ脱退すると表明することと同義だからだ。面々のこれまでの厚意を全否定することになる。
「腹を割って話して、はじめて見える世界もあるぞ」
「話してくれよ、銀ちゃん!」
「我々がしかと受け止めよう。なんなら魔法で無理矢理吐かせてもいいぞ」
北道を皮切りに、鉄平と真紀も促してきたので押し負けた銀次は腹を決めた。
「そう、っすね。ちと長くなるが――」
銀次は語った。
ガラス職人の夢を。
一刻も早く学院を辞めたいがために自暴自棄になってしまったことを。
ガラス職人の夢について両親から猛反対を受けていることを。
皆の前で吐き出すと、不思議と気持ちがすっと軽くなってきた。
話を聞き終わった優は後頭部を掻いて銀次を見つめた。
「なら辞めりゃいい話じゃん。両親に反対されるなら、金を貯めて独立すればいい。必ずしも承諾を得る必要はないだろう」
「わたしも市原と同意見だ。本気で追い求める夢なら、その覚悟だってあるだろ? なぜそうしない? つまりは、まだ銀ちゃんは本気になれてないんじゃないのか?」
優と真紀は銀次の覚悟はその程度で、夢への想いも大した大きさではないと述べた。
「いやいや! まずは今しかできない経験を積んだ上で職人を目指すべきだ!」
鉄平は両手をぶんぶん広げて学院生活の大切さを説いてくる。
「人生経験は多い方が、ガラス細工を作る上でも創造の幅が広がるだろ!」
見聞を広める意味では、鉄平の言い分も一理ある。
「経験は実戦で積むのが最も手早い手段だ」
「ガラス細工の実践はいつでも積めるでしょ。学院生活は今だけなんだぞ!?」
「ガラス職人に学院生活の経験は必須じゃないと言ってるんだよ」
鉄平と優が火花を散らして口論を繰り広げるが、銀次は大きく嘆息して、
「……分からねぇんだ。どっちがいいかなんてよ」
二択なのは分かっているのだ。学院を辞めるか、それとも続けるのか。
どちらを選べばいいか決断できずにいる。
以前の銀次ならば、迷わず優や真紀と同じ考えで動いていた。
しかし、ワーストレンジャーで月花の頑張りを見て、自分はこのままでいいのか? と板挟みの気持ちがせめぎ合っている。
若干ピリピリした雰囲気になっていると――
「はいはいはーい。雪奈お姉ちゃんのご帰還ですよーっと」
場に不相応な気の抜けた声に一同が振り向くと、銀次の姉の雪奈がにこやかな表情でリビングの入り口に立っていた。
学院が終わり、真っ直ぐ帰宅してきたようだ。
「銀ちゃん、今日サボったね? 悪い子めぇ」
「おいっ!? みんなの前でじゃれつくんじゃねぇ!」
雪奈は銀次の脇腹をくすぐる。
銀次は笑いながら振り払おうとするが、雪奈もしぶとい。
「……いいなぁ、羨ましい」
じゃれつく姉弟を見て舌なめずりしている鉄平を見た北道と優は鳥肌が立った。
雪奈は銀次から手を離すと、こほんとわざと咳をして一同に向き直った。
「話はこっそり聞かせてもらったよ。みんな、銀次のためにありがとね」
雪奈は一同に折り目正しく頭を下げると、自分用にジュースをコップに入れてソファに座る。
「私は、銀ちゃんがしたいようにしてほしいと思ってる。けど話を聞いた感じだと、まずは学院に通った方がいいね」
オレンジジュースを一口飲むと、雪奈は私見を述べた。
「早期に学院を辞めるべきと言った二人の意見も分かるけど、銀ちゃんは学院を辞めて絶対に後悔しないと言い切れる? 辞めてから後悔したって、もう絶対に取り返せないんだよ。ガラス細工の技術は卒業後に頑張ればいくらでも向上できるでしょ」
銀次が普段見る機会が少ない、雪奈にしては険しい表情で諭すように告げてきた。
「だからさ。本当に嫌になるまではまずは頑張って通ってみてほしい。私もできる範囲でサポートするし、ワーストレンジャーだっけ? お友達を、大切にしてほしい」
雪奈はワーストレンジャーの面々を優しい瞳で一瞥してから、
「学院でしか作れない友達や思い出もあるからね」
最後に銀次に微笑みかけた。
「……姉貴」
「学院を続ける。辞める。どちらがいいか分からないなら、ひとまずは答えが見つかるまでは通ってみたら?」
「――そうだな」
銀次は何度も首を縦に振って頷いた。
頷くと、ふーっと大きく息を吐き出した。
「俺も弱くなっちまったもんだ……」
以前の銀次なら退学上等、嫌われ者上等でストッパーが外れて暴れることもあったが、今はそれができなくなってしまった。
「弱いから優しくなれる。でも、優しい人は強い人だ」
鉄平は銀次の肩に手を回して、晴れ晴れとした笑みを作った。
「オレだって、変態とか言われて学業成績も悪い短所まみれの男だけど、これからもワーストレンジャーのみんなと――もちろん銀ちゃんとも仲良くやっていきたい」
鉄平は満面の笑みで歯を見せる。その笑顔に銀次は救われた気がした。
「改めてよろしくな、ワーストレンジャーのリーダー、レッド!」
「リーダーの上に色まで決まってたのかよ」
「銀ちゃんがレッド、優がブルー、時雨さんがグリーン、真紀はピンク、オレはイエローだ」
「イエローはお似合いだな」
「色物キャラなのは自覚してるからあまり触れないであげてっ!」
鉄平は胸を隠すポーズをして左右に身体を揺らす。
「――ったく、お前ら揃いも揃ってバカばっかかよ」
「僕をその一団に加えるんじゃない」
バカ扱いをされて不服な優がぼやくが、銀次はふっと笑みを零す。
「結局は、俺が一番の大バカ野郎なんだけどな」
再び大きく息を吐いた銀次は優、真紀、鉄平に不敵な笑みを浮かべる。
「燻る俺を叩き起こして、どうなっても知らねぇからな」
銀次の目にいつもの強気な色が戻ってきた。
その瞳には奥底から熱く燃え上がる覚悟が秘められている。
もう迷うのはやめだ。これからは自分に用意された道を、まずは歩んでいこう。
月花はこの場にいないが、四人全員が笑っている。普段冷淡な優ですら、目を閉じて微笑をたたえていた。
その光景を見守る雪奈と北道はお互いを見合わせて微笑み合ったのだった。
「時雨さんにも早く会いたいよな!」
「だが住所すら分からないとなると――ん?」
優はスマホを見て眉を押し上げた。
「優、どうした?」
「時雨は今、公園にいるかもしれないぞ」
スマホを見ながら月花の居場所を面々に伝えた。
「なら善は急げだ! 公園に行くぞ!」
「「おーっ!」」
銀次の鶴の一声に、真紀と鉄平は雄叫びを上げた。
「若いっていいですねぇ」
「お姉さんもあいつらと変わらない年齢では?」
まるで人生を達観した者のような物言いの雪奈に、北道は真面目にツッコんだ。
「七割くらいはな」
銀次が力なく返答すると、鉄平は普段見せない鋭い視線を銀次にぶつけた。
「そんなの銀ちゃんらしくないぞ! オレなんか毎日恥ずかしいことしてるけど、この通りピンピンしてるだろ? 学院だって無遅刻無欠席だ! 今日まではな!」
自分が恥を晒している自覚があった事実に銀次は驚いた。
「おおう、いいぞ少年! もっと言ってやれ!」
「銀ちゃんよ。戦隊で絶対的エースはいらんのだよ。全員が同じ能力で、誰かが不調でも別の誰かが補えば済む話だ。全てを一人で抱え込む必要などないんだよ! 属人化は悪だ、悪!」
「いいぞお嬢ちゃん! もっともっと言ってやれ!」
北道がジャブを繰り出して場を盛り立てている。
「橋本。君は喧嘩と度胸だけが持ち味だと思っていたが、ついに度胸すらも失ったか。もはや吠えるだけの負け犬に成り下がった君は哀れだ。あぁ実に哀れで虚しいろくでなしのドクズだ」
「えぇ……さすがに辛辣だろ……」
イケイケテンションだった北道も、優の激励とは思えぬ罵詈雑言の嵐に血の気が引いている。ジャブもしぼんでしまった。
「市原テメェはある意味ブレねぇな」
毎度の優の辛辣な物言いにイラっとはしたが、同時に一人くらいは別の視点から否定してくれる人材も必要悪だと感じた。全員がイエスマンでストッパー役がいない組織は危険だ。
「銀ちゃんの長所は!?」
鉄平に問われた銀次は、以前放課後に皆で話し合った日でのことを思い出した。
「喧嘩が強いこと、だったよな」
「あれは曖昧な言い回しだったけど、喧嘩ができるのは勇気や度胸、男気があるからだ。昭和時代ならいざ知らず、今の時代にそれらを持つ人間ってのはそうそういるもんじゃない」
「ま、僕はそのスタイルには賛同できないがな。足がつきやすいし、スマートじゃない」
鉄平が熱弁していると、優が割って入ってきた。
「確かにスマートじゃねぇよな」
銀次も頷く他なかった。自分でも分かっている。
「それだけじゃないぞ。面倒見がよくて、優しいんだ!」
「だからそれは――」
「時雨さんの件だって、話し方とか目線とか、色々教えてあげてたじゃん。告白だって、長期的には時雨さんのためになると考えて彼女自身の口でさせたんでしょ?」
最後の表現が卑猥な気もしたが、鉄平なりに銀次を慮って話してくれていることに感謝だ。
「面倒見いいじゃん。優しいじゃん」
鉄平は銀次の背中に手を添える。
「だから自分ばかり攻めないでくれよ。それを言ったらオレたちだって立川小沢の仲をロクに調べもしないで告白のお膳立てをしてしまったんだからさ。連帯責任よ」
だから一人で気を病む必要は一切ないんだと鉄平は言う。
「時雨さんもだけど、銀ちゃんは完璧主義すぎるんだよ。失敗しない人間なんていない。まだ学生なんだからさ、失敗したっていいじゃないの。むしろ、失敗から学ぶことで失敗しない奴が持ってない価値観や感性が得られることだってザラにあるでしょ」
「村野……」
「だからさ、俺はいない方がいいだなんて、言わないでよ」
鉄平はそこまで話すと、けらけら笑っていつも通りの軽い口調で続ける。
「強いて言うなら、立川が付き合ってた件はオレらには相談してほしかったなー」
鉄平の不満に真紀も頷いた。
「そうだぞ。我らは戦隊だぞ!」
謎のポーズを決めるが、誰もツッコめる雰囲気ではない。
「それに、銀ちゃんは月花を侮りすぎだ。アイツは挫折を味わう度に起き上がってくる。パワーアップした状態でな!」
「そう、なのか……?」
説得力があるようなないような、何ともいえない感情が銀次を襲った。
(銀次、いいダチを持ったな)
ワーストレンジャーの会話を聞いている北道は優しく微笑んで目を閉じた。
「この際だ、銀次。お前が学院をサボる根本原因もみんなに教えてやったらどうだ?」
「それは――」
銀次は躊躇した。
学院を辞めたい、それは即ちワーストレンジャーもいずれ脱退すると表明することと同義だからだ。面々のこれまでの厚意を全否定することになる。
「腹を割って話して、はじめて見える世界もあるぞ」
「話してくれよ、銀ちゃん!」
「我々がしかと受け止めよう。なんなら魔法で無理矢理吐かせてもいいぞ」
北道を皮切りに、鉄平と真紀も促してきたので押し負けた銀次は腹を決めた。
「そう、っすね。ちと長くなるが――」
銀次は語った。
ガラス職人の夢を。
一刻も早く学院を辞めたいがために自暴自棄になってしまったことを。
ガラス職人の夢について両親から猛反対を受けていることを。
皆の前で吐き出すと、不思議と気持ちがすっと軽くなってきた。
話を聞き終わった優は後頭部を掻いて銀次を見つめた。
「なら辞めりゃいい話じゃん。両親に反対されるなら、金を貯めて独立すればいい。必ずしも承諾を得る必要はないだろう」
「わたしも市原と同意見だ。本気で追い求める夢なら、その覚悟だってあるだろ? なぜそうしない? つまりは、まだ銀ちゃんは本気になれてないんじゃないのか?」
優と真紀は銀次の覚悟はその程度で、夢への想いも大した大きさではないと述べた。
「いやいや! まずは今しかできない経験を積んだ上で職人を目指すべきだ!」
鉄平は両手をぶんぶん広げて学院生活の大切さを説いてくる。
「人生経験は多い方が、ガラス細工を作る上でも創造の幅が広がるだろ!」
見聞を広める意味では、鉄平の言い分も一理ある。
「経験は実戦で積むのが最も手早い手段だ」
「ガラス細工の実践はいつでも積めるでしょ。学院生活は今だけなんだぞ!?」
「ガラス職人に学院生活の経験は必須じゃないと言ってるんだよ」
鉄平と優が火花を散らして口論を繰り広げるが、銀次は大きく嘆息して、
「……分からねぇんだ。どっちがいいかなんてよ」
二択なのは分かっているのだ。学院を辞めるか、それとも続けるのか。
どちらを選べばいいか決断できずにいる。
以前の銀次ならば、迷わず優や真紀と同じ考えで動いていた。
しかし、ワーストレンジャーで月花の頑張りを見て、自分はこのままでいいのか? と板挟みの気持ちがせめぎ合っている。
若干ピリピリした雰囲気になっていると――
「はいはいはーい。雪奈お姉ちゃんのご帰還ですよーっと」
場に不相応な気の抜けた声に一同が振り向くと、銀次の姉の雪奈がにこやかな表情でリビングの入り口に立っていた。
学院が終わり、真っ直ぐ帰宅してきたようだ。
「銀ちゃん、今日サボったね? 悪い子めぇ」
「おいっ!? みんなの前でじゃれつくんじゃねぇ!」
雪奈は銀次の脇腹をくすぐる。
銀次は笑いながら振り払おうとするが、雪奈もしぶとい。
「……いいなぁ、羨ましい」
じゃれつく姉弟を見て舌なめずりしている鉄平を見た北道と優は鳥肌が立った。
雪奈は銀次から手を離すと、こほんとわざと咳をして一同に向き直った。
「話はこっそり聞かせてもらったよ。みんな、銀次のためにありがとね」
雪奈は一同に折り目正しく頭を下げると、自分用にジュースをコップに入れてソファに座る。
「私は、銀ちゃんがしたいようにしてほしいと思ってる。けど話を聞いた感じだと、まずは学院に通った方がいいね」
オレンジジュースを一口飲むと、雪奈は私見を述べた。
「早期に学院を辞めるべきと言った二人の意見も分かるけど、銀ちゃんは学院を辞めて絶対に後悔しないと言い切れる? 辞めてから後悔したって、もう絶対に取り返せないんだよ。ガラス細工の技術は卒業後に頑張ればいくらでも向上できるでしょ」
銀次が普段見る機会が少ない、雪奈にしては険しい表情で諭すように告げてきた。
「だからさ。本当に嫌になるまではまずは頑張って通ってみてほしい。私もできる範囲でサポートするし、ワーストレンジャーだっけ? お友達を、大切にしてほしい」
雪奈はワーストレンジャーの面々を優しい瞳で一瞥してから、
「学院でしか作れない友達や思い出もあるからね」
最後に銀次に微笑みかけた。
「……姉貴」
「学院を続ける。辞める。どちらがいいか分からないなら、ひとまずは答えが見つかるまでは通ってみたら?」
「――そうだな」
銀次は何度も首を縦に振って頷いた。
頷くと、ふーっと大きく息を吐き出した。
「俺も弱くなっちまったもんだ……」
以前の銀次なら退学上等、嫌われ者上等でストッパーが外れて暴れることもあったが、今はそれができなくなってしまった。
「弱いから優しくなれる。でも、優しい人は強い人だ」
鉄平は銀次の肩に手を回して、晴れ晴れとした笑みを作った。
「オレだって、変態とか言われて学業成績も悪い短所まみれの男だけど、これからもワーストレンジャーのみんなと――もちろん銀ちゃんとも仲良くやっていきたい」
鉄平は満面の笑みで歯を見せる。その笑顔に銀次は救われた気がした。
「改めてよろしくな、ワーストレンジャーのリーダー、レッド!」
「リーダーの上に色まで決まってたのかよ」
「銀ちゃんがレッド、優がブルー、時雨さんがグリーン、真紀はピンク、オレはイエローだ」
「イエローはお似合いだな」
「色物キャラなのは自覚してるからあまり触れないであげてっ!」
鉄平は胸を隠すポーズをして左右に身体を揺らす。
「――ったく、お前ら揃いも揃ってバカばっかかよ」
「僕をその一団に加えるんじゃない」
バカ扱いをされて不服な優がぼやくが、銀次はふっと笑みを零す。
「結局は、俺が一番の大バカ野郎なんだけどな」
再び大きく息を吐いた銀次は優、真紀、鉄平に不敵な笑みを浮かべる。
「燻る俺を叩き起こして、どうなっても知らねぇからな」
銀次の目にいつもの強気な色が戻ってきた。
その瞳には奥底から熱く燃え上がる覚悟が秘められている。
もう迷うのはやめだ。これからは自分に用意された道を、まずは歩んでいこう。
月花はこの場にいないが、四人全員が笑っている。普段冷淡な優ですら、目を閉じて微笑をたたえていた。
その光景を見守る雪奈と北道はお互いを見合わせて微笑み合ったのだった。
「時雨さんにも早く会いたいよな!」
「だが住所すら分からないとなると――ん?」
優はスマホを見て眉を押し上げた。
「優、どうした?」
「時雨は今、公園にいるかもしれないぞ」
スマホを見ながら月花の居場所を面々に伝えた。
「なら善は急げだ! 公園に行くぞ!」
「「おーっ!」」
銀次の鶴の一声に、真紀と鉄平は雄叫びを上げた。
「若いっていいですねぇ」
「お姉さんもあいつらと変わらない年齢では?」
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