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第二出動 月花プロデュース大作戦! ⑤
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一方その頃、クリフィア学院は昼休み。
「今日の昼もいっちょ時雨さんターイム!」
「イェーイ!」
鉄平と真紀は腕を振り上げて雄叫びを上げた。
「ほら、時雨さんも!」
「イ、イェーイ……?」
「なぜ疑問系なのだ? レンジャーのメンバーたるもの、恥の概念は捨てよ!」
「真紀は恥の概念を多少は持とうな」
「貴様もな」
二人欠けてはいるが、今日も月花を囲んだトークショーが開催された。
――というところで、一人の女子生徒が月花の席までやってきた。
「時雨さん、聞いてもいい?」
「えっ……あ、うん」
月花に話しかけてきたのは、クラスメイトの大平智美だった。
真紀以上に小柄で身長は140センチ台後半くらい。肉付きのよい体型で、豊満な果実を二つ備えている。
髪を茶色に染め、爪にはマニキュアがついているが、これでも剣道部に所属している。
「大平さん、何の用?」
「は? 時雨さんっつってんでしょ。アンタに用はないのよ」
大平は水を差してきた鉄平を氷よりも冷たい視線で一蹴する。
「可愛い顔して辛辣ゥ」
「キモイから黙っててくんない!?」
「……サーセン」
さすがの鉄平も大平の問答無用の圧力にたじたじだ。
大平はもったいぶるようにゆっくりと口を開き、
「単刀直入に聞くけど――時雨さんってA組の立川くんに恋、してるよね?」
「――――ええっ!?」
はっきりと問いかけてきた。
渦中の月花はもちろん、教室にいる生徒たちからもざわめきが起きている。
よく言えば高嶺の花である月花の恋愛事情だ。誰しもが興味を抱くのは当然だ。
「時雨さん、立川が好きなの!?」
鉄平も驚きを隠せないでいた。
「そ、それは……」
「そうか。だからあの時――」
真紀は一昨日の銀次と森川の会話の途中で感じた月花の違和感の正体を理解した。
『時雨さんにも好きな人いたんだ』
『立川って誰だよ! コンチクショウめ!』
『けど、時雨さんって何考えてるか分からないからなぁ……付き合えたとしても続くかどうか』
『お高くとまってる感じだけど、ちゃんと恋もするのね』
『大平さんもあんな大きな声で聞くことなかったよなー』
教室内では様々な感情が交錯している。
驚愕、落胆、怨嗟、批判――
雑然と渦巻いている。
「…………――っ」
クラスメイトの注目を一身に浴びる月花は顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
「あっ、ごめんね! もうちょっと小さな声で聞けばよかったね」
大平は手を合わせて謝るが、時既に遅し。
「大平さん、空気読んでくれよ。時雨さんは恥ずかしがり屋さんで繊細なんだからさぁ」
「チッ。空気汚してるアンタに空気云々語られたくねーんだよ」
「エッ怖っ……空気汚染とか……」
苦言を呈してきた鉄平に対して、大平は忌々しそうに大きな舌打ちを繰り出した。
「時雨さんほどの魅力があれば、立川くんも余裕で落とせるでしょ。積極的に攻めちゃえ♪」
大平は焚きつけるような挑戦的な笑みを月花に向けてきた。
「おい大平さん。そもそも立川には――ひいっ!?」
大平は鉄平の言葉を待たずに鬼の形相で彼を睨みつけた。その瞳からは「余計なことを言うな」と恫喝にも似たメッセージが投げつけられていた。
「み、魅力なんて……」
月花の顔は真っ赤なままで瞳は揺らいでいる。
少しでもこの有様を隠したい一心で、俯いている。
クラスメイトほぼ全員が月花を取り巻く一団を凝視して耳を傾けていた。
その状況が続いたことで、
「……――っ!」
「お、おいっ! 月花っ!?」
「お願い、来ないで百瀬さん――!」
注がれる視線にいたたまれなくなった月花は椅子から立ち上がり、駆け足で教室から飛び出してしまった。
その後ろ姿をクラスメイトたちはただ見送ることしかできなかった。
「あっ、時雨さん――行っちゃった」
大平は月花が教室から出ていってしまったため自席へと戻った。
するとすかさず大平の友人数名が彼女の元までやってくる。
「サトミン、大胆なことしたねー」
「時雨さんが立川くんラブって、よく知ってたね」
「まーね」
大平が友人たちと談笑をはじめると、そこに、
「大平、いいか?」
「なによ、市原」
先ほどの寸劇の一部始終を自席から鑑賞していた優は大平の席まで赴いて、問うた。
「なぜ、時雨の好きな人を、皆の前で暴露した?」
当然の質問だ。さすがの優もクラスメイトのおおよその性格は把握している。
大平は天然を炸裂させるタイプの人間ではない。だからこそ、事故を装ってしれっと月花の恋愛事情を大っぴらにした理由が気にかかった。
「時雨さんの力になれるかもじゃん。みんなの協力もあるとより心強いでしょ?」
大平の笑みが作り物であることは優でも感づいた。
「嘘だな。そんな潔白な理由のはずがない」
優が大平の意見は建前だと否定すると、彼女は足を組み直して息を吐いた。
「市原を騙くらかすのは無理かぁ」
彼女は諦念の表情で呟くと、
「――一言で言うと、あの子が気に食わないから、よ」
目に力を込めて言い放った。
「奇遇だね。そこは僕も同意見だよ」
大平の心内を知った優はシニカルな笑みを漏らして頷く。
「アンタはどうせ何もかもが気に食わなくて批判したいだけでしょ。一緒にしないで」
「時雨への感情は同じだと思うけどね」
大平から質問の回答をもらって満足したのか、優は自席へと戻った。
二人の会話を静観していた大平の友人たちの表情は皆、戸惑いの色を隠せていなかった。
月花は図書室へと避難した。
昼休みの間までの一時しのぎにしかならないが、この空間で頭を冷やして平常心を取り戻したかった。
ここ数日はワーストレンジャーの活動で昼休みは来られていなかったが、普段は図書室に足を運ぶのが月花の日課となっている。
図書室に行く理由は二つある。
一つは教室の雑踏から逃れ、落ち着いた空間でゆったりと本を読むため。
もう一つは――
「あっ、時雨さん。今日は来てくれたんだ」
「う、うん……」
月花に優しい笑みを与える男子生徒こそ、月花の想い人、立川勇人だ。
一年A組の図書委員で大平と同じ剣道部所属。
痩せ型でビジネスマンのような髪型は丁寧に梳いてある。
「ゆっくりしていってよ――と、これ。来月の新刊のリストね」
「あ、ありがとう」
月花は席に着いて本を読む。座る位置はいつも立川の姿が見える場所を選ぶ。
内気な月花には立川に雑談を持ちかける勇気は持ち合わせていない。だからせめて、立川を傍目からでも見ていたいがために図書室に足しげく通っているのだ。
当然、そのルーティンを続けたところで進展もへったくれもないが、それでも月花は現状に満足していた。
しかしその考えが今、揺らぎつつある。
大平が放った言葉だ。
『時雨さんほどの魅力があれば、立川くんも余裕で落とせるでしょ。積極的に攻めちゃえ♪』
こんな自分だけど、アプローチをかければ一筋の希望が見えるかもしれない、と。淡い期待を抱いてしまう。
だが、月花には懸念すべき点があった。
それは――
「立川君、こっちは終わったよ」
「ありがとう、小沢さん」
立川に声をかけた女子生徒は一年C組の小沢千穂。吹奏楽部に所属している。
清楚な見た目で性格も優しくしっかり者のイメージが強い。
ほんのりウェーブがかかったセミロングの黒髪は艶がある。
月花から見ても小沢は立川とお似合いに見えるし、日頃の親密さからして付き合っているのではないかと勘ぐってしまう。
(けど――正式に付き合ってるって情報はまだないんだよね……)
だったら。
だったらこんな情けない自分ではあるけれど、押してみたら案外上手く行くかも?
月花は一度唇を引き結んでから、いそいそと開き直してたどたどしい声を出す。
「あ、あの。たち――」
しかし。
「どうしたの? 時雨さん」
「困ってんなら俺らが相談に乗るよ?」
立川に話しかけるよりも早く、男子生徒の二人組が月花に声をかけてきた。
二人とも笑顔ではあるけれど垢抜けた外見により、月花は無意識に恐怖心を抱いた。
「あ、私は……」
怖い。
二人からはギラギラした思惑が伝わってくる。
月花は恐怖心から後ずさり、二人組から顔ごと目を背ける。
「そんなに怖がらないでよー」
「そうそう、そんな露骨に避けられたらさすがに傷つくよ」
「――っ」
傷つく――その言葉を聞いて、自分はこれまでこうやって相手を傷つけて、不快な思いをさせていたのだろうか。そんな不安が脳裏をよぎる。
怖いけど、ここは二人に従うべきなのか。
一方その頃、クリフィア学院は昼休み。
「今日の昼もいっちょ時雨さんターイム!」
「イェーイ!」
鉄平と真紀は腕を振り上げて雄叫びを上げた。
「ほら、時雨さんも!」
「イ、イェーイ……?」
「なぜ疑問系なのだ? レンジャーのメンバーたるもの、恥の概念は捨てよ!」
「真紀は恥の概念を多少は持とうな」
「貴様もな」
二人欠けてはいるが、今日も月花を囲んだトークショーが開催された。
――というところで、一人の女子生徒が月花の席までやってきた。
「時雨さん、聞いてもいい?」
「えっ……あ、うん」
月花に話しかけてきたのは、クラスメイトの大平智美だった。
真紀以上に小柄で身長は140センチ台後半くらい。肉付きのよい体型で、豊満な果実を二つ備えている。
髪を茶色に染め、爪にはマニキュアがついているが、これでも剣道部に所属している。
「大平さん、何の用?」
「は? 時雨さんっつってんでしょ。アンタに用はないのよ」
大平は水を差してきた鉄平を氷よりも冷たい視線で一蹴する。
「可愛い顔して辛辣ゥ」
「キモイから黙っててくんない!?」
「……サーセン」
さすがの鉄平も大平の問答無用の圧力にたじたじだ。
大平はもったいぶるようにゆっくりと口を開き、
「単刀直入に聞くけど――時雨さんってA組の立川くんに恋、してるよね?」
「――――ええっ!?」
はっきりと問いかけてきた。
渦中の月花はもちろん、教室にいる生徒たちからもざわめきが起きている。
よく言えば高嶺の花である月花の恋愛事情だ。誰しもが興味を抱くのは当然だ。
「時雨さん、立川が好きなの!?」
鉄平も驚きを隠せないでいた。
「そ、それは……」
「そうか。だからあの時――」
真紀は一昨日の銀次と森川の会話の途中で感じた月花の違和感の正体を理解した。
『時雨さんにも好きな人いたんだ』
『立川って誰だよ! コンチクショウめ!』
『けど、時雨さんって何考えてるか分からないからなぁ……付き合えたとしても続くかどうか』
『お高くとまってる感じだけど、ちゃんと恋もするのね』
『大平さんもあんな大きな声で聞くことなかったよなー』
教室内では様々な感情が交錯している。
驚愕、落胆、怨嗟、批判――
雑然と渦巻いている。
「…………――っ」
クラスメイトの注目を一身に浴びる月花は顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
「あっ、ごめんね! もうちょっと小さな声で聞けばよかったね」
大平は手を合わせて謝るが、時既に遅し。
「大平さん、空気読んでくれよ。時雨さんは恥ずかしがり屋さんで繊細なんだからさぁ」
「チッ。空気汚してるアンタに空気云々語られたくねーんだよ」
「エッ怖っ……空気汚染とか……」
苦言を呈してきた鉄平に対して、大平は忌々しそうに大きな舌打ちを繰り出した。
「時雨さんほどの魅力があれば、立川くんも余裕で落とせるでしょ。積極的に攻めちゃえ♪」
大平は焚きつけるような挑戦的な笑みを月花に向けてきた。
「おい大平さん。そもそも立川には――ひいっ!?」
大平は鉄平の言葉を待たずに鬼の形相で彼を睨みつけた。その瞳からは「余計なことを言うな」と恫喝にも似たメッセージが投げつけられていた。
「み、魅力なんて……」
月花の顔は真っ赤なままで瞳は揺らいでいる。
少しでもこの有様を隠したい一心で、俯いている。
クラスメイトほぼ全員が月花を取り巻く一団を凝視して耳を傾けていた。
その状況が続いたことで、
「……――っ!」
「お、おいっ! 月花っ!?」
「お願い、来ないで百瀬さん――!」
注がれる視線にいたたまれなくなった月花は椅子から立ち上がり、駆け足で教室から飛び出してしまった。
その後ろ姿をクラスメイトたちはただ見送ることしかできなかった。
「あっ、時雨さん――行っちゃった」
大平は月花が教室から出ていってしまったため自席へと戻った。
するとすかさず大平の友人数名が彼女の元までやってくる。
「サトミン、大胆なことしたねー」
「時雨さんが立川くんラブって、よく知ってたね」
「まーね」
大平が友人たちと談笑をはじめると、そこに、
「大平、いいか?」
「なによ、市原」
先ほどの寸劇の一部始終を自席から鑑賞していた優は大平の席まで赴いて、問うた。
「なぜ、時雨の好きな人を、皆の前で暴露した?」
当然の質問だ。さすがの優もクラスメイトのおおよその性格は把握している。
大平は天然を炸裂させるタイプの人間ではない。だからこそ、事故を装ってしれっと月花の恋愛事情を大っぴらにした理由が気にかかった。
「時雨さんの力になれるかもじゃん。みんなの協力もあるとより心強いでしょ?」
大平の笑みが作り物であることは優でも感づいた。
「嘘だな。そんな潔白な理由のはずがない」
優が大平の意見は建前だと否定すると、彼女は足を組み直して息を吐いた。
「市原を騙くらかすのは無理かぁ」
彼女は諦念の表情で呟くと、
「――一言で言うと、あの子が気に食わないから、よ」
目に力を込めて言い放った。
「奇遇だね。そこは僕も同意見だよ」
大平の心内を知った優はシニカルな笑みを漏らして頷く。
「アンタはどうせ何もかもが気に食わなくて批判したいだけでしょ。一緒にしないで」
「時雨への感情は同じだと思うけどね」
大平から質問の回答をもらって満足したのか、優は自席へと戻った。
二人の会話を静観していた大平の友人たちの表情は皆、戸惑いの色を隠せていなかった。
月花は図書室へと避難した。
昼休みの間までの一時しのぎにしかならないが、この空間で頭を冷やして平常心を取り戻したかった。
ここ数日はワーストレンジャーの活動で昼休みは来られていなかったが、普段は図書室に足を運ぶのが月花の日課となっている。
図書室に行く理由は二つある。
一つは教室の雑踏から逃れ、落ち着いた空間でゆったりと本を読むため。
もう一つは――
「あっ、時雨さん。今日は来てくれたんだ」
「う、うん……」
月花に優しい笑みを与える男子生徒こそ、月花の想い人、立川勇人だ。
一年A組の図書委員で大平と同じ剣道部所属。
痩せ型でビジネスマンのような髪型は丁寧に梳いてある。
「ゆっくりしていってよ――と、これ。来月の新刊のリストね」
「あ、ありがとう」
月花は席に着いて本を読む。座る位置はいつも立川の姿が見える場所を選ぶ。
内気な月花には立川に雑談を持ちかける勇気は持ち合わせていない。だからせめて、立川を傍目からでも見ていたいがために図書室に足しげく通っているのだ。
当然、そのルーティンを続けたところで進展もへったくれもないが、それでも月花は現状に満足していた。
しかしその考えが今、揺らぎつつある。
大平が放った言葉だ。
『時雨さんほどの魅力があれば、立川くんも余裕で落とせるでしょ。積極的に攻めちゃえ♪』
こんな自分だけど、アプローチをかければ一筋の希望が見えるかもしれない、と。淡い期待を抱いてしまう。
だが、月花には懸念すべき点があった。
それは――
「立川君、こっちは終わったよ」
「ありがとう、小沢さん」
立川に声をかけた女子生徒は一年C組の小沢千穂。吹奏楽部に所属している。
清楚な見た目で性格も優しくしっかり者のイメージが強い。
ほんのりウェーブがかかったセミロングの黒髪は艶がある。
月花から見ても小沢は立川とお似合いに見えるし、日頃の親密さからして付き合っているのではないかと勘ぐってしまう。
(けど――正式に付き合ってるって情報はまだないんだよね……)
だったら。
だったらこんな情けない自分ではあるけれど、押してみたら案外上手く行くかも?
月花は一度唇を引き結んでから、いそいそと開き直してたどたどしい声を出す。
「あ、あの。たち――」
しかし。
「どうしたの? 時雨さん」
「困ってんなら俺らが相談に乗るよ?」
立川に話しかけるよりも早く、男子生徒の二人組が月花に声をかけてきた。
二人とも笑顔ではあるけれど垢抜けた外見により、月花は無意識に恐怖心を抱いた。
「あ、私は……」
怖い。
二人からはギラギラした思惑が伝わってくる。
月花は恐怖心から後ずさり、二人組から顔ごと目を背ける。
「そんなに怖がらないでよー」
「そうそう、そんな露骨に避けられたらさすがに傷つくよ」
「――っ」
傷つく――その言葉を聞いて、自分はこれまでこうやって相手を傷つけて、不快な思いをさせていたのだろうか。そんな不安が脳裏をよぎる。
怖いけど、ここは二人に従うべきなのか。
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