平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

9_外面よりも内面という言葉は決して名言ではない ④

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    ♪

 中間発表も終わり、ミスコンに向けてのアピールもいよいよ終盤に差しかかった。
「エー、我ハ平原圭。未来ノ内閣総理大臣ジャイ」
「平原圭、平原圭を何卒よろしくお願いしまーす――だるっ」
「オイ新山、ヲ前モット声張レヤ」
 俺は純白のジャケットとズボンのスーツスタイルで街を闊歩かっぽしている。
 それだけじゃない。更に存在を示すべく俺たちは揃ってメガホンを装備している。選挙演説の政治家も真っ青だぜ。
「その恰好、恥ずかしくないんですか?」
「バカメ。羞恥心ドコロカ日本ノ誇リデシカネーゼ」
 俺様特注スーツは胸部や背中部分に【我は平原圭なり】と金色で印字されている。
「今日はほこりっぽいよなー」
 新山が手でほこりを払う動作をしているが、そんなことしたってお前から発せられてる細菌は払えないぞ。てかむしろまき散らしてる。今すぐ中止しろや。
「そもそもなぜ街でアピール? 校内じゃないの?」
「視野ガ狭ェナ。ダカラ貴様ハ戸阿帆ニシカ入レナカッタンダヨ。町内ノ父兄ふけいニアピールスルコトデ、親ガ子ニ対シテ俺ニ投票スルヨウ説得スル流レヨ」
 外堀そとぼりから埋めてこそ勝利が見えてくるんだよな。
「邦改の生徒全員が全員学校近辺の街に住んでるわけがないんですけど突っ込むだけ無駄ですよね」
 男が細かいことをグチグチと。お前そんなんだとイチモツの成長もストップ安だぞ。危機感持てや。
「ハイハーイ、我ハ平原圭デアリンス。モウミンナ既ニ知ッテルヨナ? マサカ知ラナイ非国民ハオランヨナ?」
 道で出会った人々に手を振れば、皆がぽかんとした顔で俺を一瞥いちべつしてくる。これぞカリスマ性の男のパワーなんだよな。

「ママー、なにあれー?」
「しっ! 見ちゃいけません」
「近頃は変なのが増えて物騒だなぁ」
「警察に通報しとこーっと」

 ふはは、見たか俺の求心力! 皆が俺の話題で持ち切りだぜ。
「俺ノ存在デ皆ガ笑顔ニナル。コレホド満チ足リル瞬間ハソウソウナイ!」
 これぞ俺が夢見た状況だ。俺が日本国の長になって皆が笑顔になれる国を作る。その足がかりとなるのだ。感慨かんがい深いな。
「明らかに嘲笑ちょうしょうされてるよね? 誰の目にも明らかなんだけども? 平原には目と耳がついてないのかね?」
「揚げ句の果てにしれっと110番通報されましたね」
 だというのに二人は辛気しんき臭い顔だ。やれやれ、頼むから水を差さないでくれや。
「フン、勘違イ野郎ハ放ッテオケバヨイヨイヨヨイノヨイ」
 しがないミスコン活動に警察を呼ぶとは迷惑なり。奴らだって暇なりに仕事してるフリで忙しいんだぞ。俺を警察署まで連行する時だけは迅速じんそくな仕事をする連中よ。
「ンナコトヨリ俺等ハ更ニ能動的ニ行クゾ! 今カラ民家ヤ集合住宅ノ住民ニ手当タリ次第アプローチスル!!」
 先制攻撃は戦いの基礎の基礎! よって躊躇ためらわずに進むのみ!
「これまたたいそう迷惑な真似を……平原の脳内はマジでどうなってるんだ」
「アプローチじゃなくて殴り込みでは? それどころか相手のハートをぶん殴ってKOさせる所業ですよね? 傷害罪ですよ?」
 文句言ってないでお前らも手伝うんだよ。
「ポチットナァ!!」
 俺はインターホンのボタンをグーで思いっきり殴ってやった。
 ピンポーン
『……はい』
 主婦と思わしき女性の困惑した声がインターホンから聞こえてくる。
「我ハ平原圭ダ。直々ニ出向イテヤッタゾ」
『え、平原……? 存じ上げませんが……』
「ナヌッ!? ナント嘆カワシイ……!」
 この俺を知らぬと申すか。俺もまだまだみたいだな。
 しかしここでくじける俺様じゃあないぞ! ここらで有名になって、必ずや内閣総理大臣への糸口としてやる!
「近日邦改高校デミスコンガ開催サレル。ソコデコノ平原圭ニ一票ヲ投ジテイタダキタイ」
『は、はぁ』
「ソナタノ一票ガ私ノ力ニナリマス!」
『聞いたところ学校行事のようですけど私に投票権はあるんですか?』
「ソレハ自分デ問イ合ワセロ!」
『えぇー……』
 なんでもかんでも他力に任せようとするんじゃないよ。
「ンジャ、当日ハヨロシクナ!」
 最後にインターホンにグーパンチして民家から離れた。
「お前インターホン破壊する気かよ」
「ポチッなんて可愛い音じゃありませんでしたよ。ドーンと響きましたよ。インターホンが泣いてますよ」
 俺の営業活動を黙って見守っていた二人がいきなり俺のやり方に難癖なんくせをつけてきた。
「コノ俺様ガソンナ悪イコトスルワケネェダロ」
 俺が破壊するとしても新山を筆頭とした戸阿帆どもとクソバスケ部連中だけだぞ。
 あと高岩はインターホンが泣いてるなどとなぜ分かるんだ。モノに魂は宿ってないんだぞ。
「存在自体が悪の塊なんだよなぁ。極悪非道悪逆野郎……」
「ナニカ言ッタカ高岩?」
「なにも言ってませんよ? 空耳では?」
 俺をけなす言葉が羅列されたと思ったんだが気のせいだったようだ。
「ウッシ。次ハ隣町ダ。気張ッテ行クゾェ!」
「まだ飽きずに茶番続けるんですか。けったいですね」
「帰って寝たい」
 二人は気力あふれる俺と違って既にへばっていた。バイタリティがなくて頼りないったらありゃしないぜ。
「ハイハーイ、平原圭ヲ何卒ヨロシクオ願イ申シ上ゲマスルゥ~」
 先ほどと同様、近隣の街でもメガホン演説とインターホン訪問にいそしんだのだった。
 見えてくる。俺の勝利が、着実に見えてきてるぜ。

    ♪

 翌日。
 校門前に気色悪い軍団がいるので自転車を一時停止させて様子を伺うと。
「みんな、おはよう~。今日も授業頑張ろうねー」
 田村と腰巾着こしぎんちゃくどもが校門前に立って通り過ぎる生徒たちに手を振っている。
 声をかけられた生徒は手を振り返したり会釈えしゃくしたりと反応を見せている。
 ふっ、これまた地味なアピールだこと。コツコツやって報われるのはウサギと亀の世界だけだぞ。現実はそう甘くない。効率よくド派手なアピールで人々の記憶に永住した奴が笑う運命にあるんだよ。
 そんな俺は華のある男なので優雅に自転車で風を受けている。
「新山ァ!! モットスピード緩メロ!! 横断幕ガシワクチャニナッテルダロウガ!!」
「そりゃどうもすんませんね」
 お前のスピードが速いせいで俺らの距離が縮まり、横断幕も縮まっている。これじゃアピールしたい文言が見えないじゃねーか。
 俺と新山は自転車で【平原圭こそが人類史上最高傑作の逸材】と書かれた横断幕を広げて邦改高校までの道を走ってきた。
「「「………………」」」
 通行人たちは漏れなく俺たちと横断幕を交互に見て呆気あっけに取られていた。これが平原マジック、俺様の強烈なオーラよ!
「由生は上手いこと逃げたよなぁ……」
 高岩は担任と進路について早朝から面談があるそうで朝の活動は欠勤となった。うっし、アイツは平原査定マイナスな。ちなみに新山は存在自体がマイナス。お前らもっと平原ポイントを稼げよな。
「ようやく学校に着いたな。というわけで朝の活動はここまで――」
 自転車から降りてさっさと横断幕を取り外そうとする新山の首根っこを掴む。
「ナニホザイテル。マダ続クゾ」
 本番はこれからだってのになに寝言ほざいてんだこのアンポンタンモンキーは?
「続くって……自転車で校内に入るわけでもあるまいし」
「入ルノヨ!!」
 入るのが既定路線なのに入らないつもりでいたとは、はっ。だからお前は戸阿帆のアホなんだよ。
「えぇ……」
 愕然がくぜんとする新山をシカトして再びペダルを漕ぐ。
 校内を自転車で走行していると生徒たちがぽかんと口を開けてこちらを見てくる。

「アイツ、ミスコンの定義を理解してるのか?」
「選挙と勘違いしてね?」
「生徒会選挙でさえあんなアピールしないってのに」
「横断幕の字も汚くて読めないや」

 横断幕の文字は新山が書いたので全責任は新山にある。というわけで新山、お前責任取れや。
「ククッ、俺ノインパクトハ幾多いくたノ者ドモノハートニ着実ニ刻マレテルナ」
「インパクトはインパクトでも悪いインパクトでしょ……」
 新山はバカな妄言をほざいているが、見てみろよ廊下にいる面々の反応をよ。皆俺に対して尊敬の眼差しを向けてるじゃないか。これをリスペクトと呼ばずしてなんと呼ぶ!?

「危ないしすっげぇ迷惑なんだけど」
「先生に言っちゃおうぜ」

 どうやら俺が恐れ多すぎて照れ隠しを隠せていない様子だ。まだまだ青い青二才は反応がウブじゃのぉ。
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