平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

7_仁義や忠義も覚えがないと言われればそれまで ④

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 ――だがしかし!
「困難ニ立チ向カッテコソ人ハ成長スルンヤーーーーーーッ!!」
 分が悪い勝負なのは自覚してる。
 けどな、だからって挑戦すらしなきゃ自分がどこまで通用するかも分からないじゃねーか!
「ウォォオオオオオオオオォォーーーーッ!!」
 拳を握り、男の顔面めがけて飛ばす!
「……フン、やはり弱い。かゆみすら感じん」
「ウ、ウソダロ……」
 俺は密かにポケットに入れておいた石を掌に包んで殴ったのにそれすらも通用していない。
「さて、今度は俺の番だ――――」
「おい、いつまで騒いでる」
 玄関で一連のやりとりをしていた矢先、奥から新キャラが登場した。
「あっ、若頭わかがしら
 若頭とかいう男は長めの黒髪をパツンパツンにセットしており、ギラついたぶっとい金のネックレスをぶら下げている。いかにも反社会勢力のチンピラですって感じの風貌ふうぼうだ。
「こんなガキ連中相手にいつまで遊んでる」
「申し訳ないっす! 今すぐ始末しますから」
 男は背筋をピンと伸ばして若頭と対峙している。これが上下関係ってやつか。ふっ、下らないしきたりだ。こんな負の遺産が残ってるから日本からパワハラがなくならないんだよ。
「そいつらは恐らく高校生、殺すと面倒だ。ボコる程度にとどめておけ。ただし顔はやめとけよ」
「はっ!」
 男は大きく頭を下げる。デカイ図体のくせして滑稽こっけいなこった。
 って新山まで高校生扱いされてるのはどうなの? どんだけ見た目幼稚なんだよ。
「……あん? それ、ウチのドアノブじゃねぇか」
 奥に引っ込もうとした若頭が棚上に乗っかってるドアノブに反応を示した。
「イカニモ。我ガ破壊シタ。ドウダ、ビビッタカ?」
 俺は強いんだぞと若頭にアピールした。
 ――つもりだったんだが……。
「俺ぁよぉ。モノを粗末に扱う奴がでーきれーなんだわ」
 変わり果てた哀れなドアノブを見た途端、若頭の顔つきが明らかに変わった。
「オイガキィ。落とし前、つけてくれんだろうなぁ――?」
 若頭がすさまじい無言の迫力で俺たちを威圧してくる。
「プログラム変更だ。あの世へと送ってくれるわ」
 若頭はスーツの内ポケットから拳銃を取り出した!

「ノォウノォウアイムノゥーーーーーーッ!!」

 たかがドアノブ一つでキレすぎだろ! こいつどこにブチギレスイッチがあるか分からねぇ! 高校生は面倒とかのくだりはなんだったんだよ?
「お前奇声上げすぎ!」
 新山はこんな状況下でもツッコミを忘れない。ツッコミ芸人のかがみだな。
「おい、動いたら即座に撃つぞ」
「ドウゾ新山ノヤッスイ命ナラクレテヤリマスゥーーーーッ!!」
 新山の命を叩き売ってやる俺の心意気に免じて、俺だけは見逃せや!
「おい平原お前ふざけんなよ!?」
「大真面目ダワバカタレメ!」
「余計にタチ悪いわ!!」
 自らの生存権を守るための手段は選んじゃいられないんだよ。生存を維持するためにはな!
「ウダウダ騒ぐんじゃねぇ!」
 発砲音とともに床に向かって銃弾が一発放たれた。内輪揉めに盛り上がる俺たちに若頭は苛立ちを隠す様子すらない。
「お前らの命はあのドアノブよりも軽い。身の程を知らない馬鹿どもは死を持って改心させねーとなぁ」
 若頭は銃口を俺と新山の頬に交互に突きつけてきた。
「死ヌ前ニ改心スル機会ヲ与エテオクンナマシ……」
「却下だ。諦めて死ね」
 死んだら改心もクソもありません。
「最期にこの世に言い残す言葉はあるか?」
 若頭は遺言がないか聞いてきたが、言ったところで誰に伝えるってんだよ。
「ヲ前等ガ好キ勝手デキル時代モイズレ終ワリヲ迎エル。肝ニ銘ジテオケ」
 俺が不敵な笑みを向けてやると、奴はこめかみに血管を浮かべて、
「あっそ――あばよ」
 俺に銃口を向けてトリガーに指を置く。
 万事休す――――というところで。
 ――――玄関扉が乱暴に開かれた。

「警察だ! 本建物を立入調査する!」

 拳銃を所持した警察官数名が事務所に乗り込んできた。
「サ、サツだと……?」
「誰がいつの間に呼びやがったんだ!?」
 若頭と部下は突然の警察の介入に焦りの表情を隠せない。若頭は慌てて拳銃をスーツの内ポケットにしまったが、もう遅いぞ。
 更に言うと、玄関扉を施錠してないばかりか半開きのままにしていた杜撰ずさんさもお前らのダメな点だ! いとも簡単に警察に突入されてるじゃねーか。
「ここで監禁事件が発生していると通報を受けた! 被害者を解放しろ!」
「ヲマワリサーン!!」
「……で、また君か。すっかり顔なじみだな」
 準レギュラー格の警察官がげんなりした表情で俺を一瞥いちべつしてきた。お前も世界の主人公である俺と絡むことで出番があるんだぞ。感謝しろよな。
「は? 監禁じゃねぇし。教育をほどこしてたんだよ」
 若頭の弁明に部下がぶんぶんと首を縦に振って同調する。殺人が教育ってどういう脳みそしてやがるんだよ。裏社会の人間ってマジアウトローだな。
「問答無用! 話は署で聞く! 監禁および殺人未遂容疑で現行犯逮捕する!」
「おい放せや!」
 しかし聞く耳を持たない警察官の手によって二人は逮捕された。
「誰が警察に通報を……?」
 呆気あっけに取られていた新山が我に返って首を傾げた。
「フフッ、誰デショウナァ」
「もしや平原が……?」
 頭にクエスチョンマークを浮かべる新山に、俺はドヤ顔してやった。
「やっぱり……いつの間に」
 俺は新山を一人にして退散した際に神奈組の事務所で一般人が監禁されていると警察に通報してやった。
「デュブデュブデュブ。全テハ計算ヨ」
「本当かよぉ? 全部思いつきとしか思えないけど」
「ヴァカナヲ前カラシタラソウダロウヨ」
 まぁ新山みたいな戸阿帆のドアホには考え至らない策だからな。奇策と思われても無理ないか。
「神奈組――カ。所詮俺様ノ手ニカカレバコンナモンヨ」
「警察にチクっただけで偉そうに」
 新山がさっきからうるせえな。しばき倒したい。
「あー、お話し中のところ申し訳ないですが」
「オウン? 何用ダ」
 警察官が俺たちの会話に割って入ってきた。
「この度は通報感謝いたします。被害者のあなた方にもお話を聞きたく、署までご同行お願いします」
「……あー」
「マァッタ警察署行キカヨ。モハヤ顔パスデキルノデハ?」
 結局俺たちまで警察署に行くこととなった。これ、被害者の宿命なのよね。
 こうして俺は人生で三回目となる警察署訪問と相成った。
 結果的に俺は神奈組の若頭とその部下を刑務所にぶち込むことに成功、社会貢献したのだ。
 余談だが、警察による捜索で神奈組の余罪が明るみに出たことにより、関係者が追加で逮捕されたのだった。

 しかし、この一件が遺恨を残し、俺はヤクザから恨まれ狙われる身となることに、この時は全く気づくことはなかった――――

    - ここからは神奈組組長の視点でお楽しみください -

「平原圭と新山鷹章、か――――ずいぶんとふざけた真似してくれたもんだ。ワシらがこのまま何もせずに大人しくしてると思うなよ……」
「どうしやすか組長? シメちまいやすか?」
「もとよりそのつもりだ。だがまだ機は熟していない。襲撃できるその時まで待つ」
「承知しやした!」
「この恨み忘れるものか……必ずや、半殺し以上の地獄の苦しみをお前らに味わわせてやる」
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