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2巻
5_真夏の海は人間の心なんかよりも熱いのが現実 ②
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「おおっ? これはこれは、自称邦改高校二年のレジェンドじゃありませんかぁ」
手持ち無沙汰になったので新山にビーチボールを膨らまさせていると、チャラい雰囲気の男が悪党感満載の喋り方で俺に絡んできた。
背後には、数名の男が嘲笑しながらこちらに顔を向けている。
「こんなとこで会うたぁ、因果かねぇ」
「…………誰ダヲ前!?」
「覚えてねーんかい!」
チンピラは砂を蹴飛ばして怒りの感情をアピールしてくるが、やることがいちいちお下品だな。
どこのどいつか知らんが、楽しい夏のひと時を邪魔するとほざくなら、今すぐその身柄を沖合まで引っ張って沈めてやる。
「ゲスト出演ノ端役ナンゾ、イチイチ覚エテラレッカ! コチトラ主人公ゾ!」
作中の登場人物を逐一覚えてたらキリがないんだぜ。
「んじゃま、嫌でも思い出させてやるよ……!」
チンピラはじりじりと俺たちの眼前まで歩み寄ってきた。
「俺は戸阿帆OBの向井! 以前はお前にボコられたが、今日は意趣返しするぜ!」
「モウ二度ト登場シナイクセニ聞イテモイナイ名ヲ勝手ニ名乗ルンジャナイ。自己顕示欲ノ塊カヨ。読者ノ負担ガ増大スンダロ」
例によって戸阿帆の奴らだったか。向井という名に全く心当たりはないが、売られた喧嘩は買うしかねーな。ここで俺の強さをアピールできれば、浜辺に佇むギャル全員が俺に惚れるのは不可避だしな。
向井一味は積年の恨みを晴らさんとばかりに俺と新山を見据えている。
――ん? 俺と新山?
「オイ新山、高岩ハイズコヘ?」
「あそこにいるよ」
新山が指差した先を見ると、高岩はのんきに浮き輪で海水浴を満喫していた。面倒事がはじまると察知して自分だけ逃げやがったな。
「新山ぁ、お前、相も変わらずその角刈り眼鏡野郎にこき使われてるのか?」
向井の背後にいた男の一人が新山を嘲笑っている。新山はどうにもこんな類のどうしようもない輩に顔が利くんだな。全くもって羨ましくもない。
「まぁ、そっすね……」
「プッ。友達いない陰キャオタク野郎はこれだからキショイんだよ」
戸阿帆のドアホども全員が覇気のない新山を嘲笑する。海岸の美しい景観が損なわれるからやめてくんねーかな。そのダミ声、不適切!
「オイ戸阿帆ノ人生オワタ軍団。俺様ハ角刈リ眼鏡野郎デハナク、平原圭ッテイウ素晴ラシイフルネームヲ持ッテイルンダゾ」
「今更お前の名前を知ってもねぇ。ここで会ったが百年目! 倍返ししてやるよ!」
「我ハ今年デセブンティーンナンダガ?」
「そういう意味じゃねーよ!」
俺が言外にバカかテメェとの思いを込めた視線を送ると、向井は地団駄を踏んで荒ぶった。
「会話が成り立ってない……これはカオス」
「ウッセエンダヨ貴様ハヨ!!」
「ぐぁはぁっ!?」
新山が甚だやかましかったので、とりあえず一発顔面に拳を入れて静めておいた。
「仮にもお前ら仲間じゃねーの?? 慈悲なさすぎだろ」
向井が舌を出しながら唖然とした顔を向けてくるが、生きるって、そういうことなんだよ。
「ハ? 仲間? コイツハ俺様ノ僕ダッツーノ! ツマリ、僕ノ僕ヤーー!!」
「漢字が同じなだけで全然ダジャレとして成立してねーからな?」
俺は向井を無視して、戦闘のために新山の肩を揺らして覚醒を試みる。
「オイ新山!! 応答セヨ!! サボタージュハコノ俺ガ許可センゾ!!」
新山は砂浜の上で鼻血を出してのびたまま復活しない。肝心な時に役に立たない野郎だな。
「応答もクソも、お前が顔面殴ったんじゃねーかよ」
「シエスタタイムハオ終イヨ! 目覚メヨ、新山!!」
新山の顔面を何発もビンタするが、顔が赤く腫れあがるだけで肝心の意識は戻ってこない。
俺の勇ましさに戸阿帆ギャラリーのアホどもが愕然としているが、それでも俺は手を抜いてやらないぞ。
「新山……貴様ノ死ハ無駄ニハシナイゾ。俺ガ仇ヲ取ッテヤル!」
「全部お前の自作自演なんだけども??」
俺たちの友情に向井一味が例外なく呆れている。
「覚悟っ! 平原圭!!」
連中は一斉に俺の元へと向かってきたが、俺は戸阿帆相手にはかなり相性が良いんだよなぁ。これまで敗戦したことすらないしな!
――――のだが。
「ンナッ!? ソレハ――」
向井が見せてきたのは、某セクシーアイドルの写真集だ。しかも表紙ではなく、最もキワドイページ部分を見せてきたものだから、俺の股間に軽い電流が走った。
「クッ……卑怯ナ……」
油断した隙に数名に押し倒されて身動きが取れなくなってしまった。
「引っかかったな! お前の程度なんて知れてんだよ!」
この俺がこんな低劣な手にかかってしまうとは、無念――!
「――おい君たち、誰か忘れてないか?」
覇気が全く感じられない間抜けな声に振り向くと、そこには復活した新山が戸阿帆軍団に喧嘩を売るようにあっかんべーをしていた。
「お前ら全員バーカ!」
「新山テメェ、なぶり殺してやろうかぁ!?」
「戸阿帆の伝説の陰キャの分際で調子づくんじゃねぇぞ!!」
見下している新山からの挑発に連中は顔を真っ赤にして、俺の存在も忘れて向井以外の全員が新山をボコろうと疾走する。
あれ、あの辺って確か――
「断言しよう! 君らは俺に指一本触れられない!」
「ほざけ戸阿帆の伝説の陰キャが!」
「一捻りで泣かせてやる!」
新山はお尻ぺんぺんして戸阿帆軍団を更にけしかける。あのケツにバット打ち込みてえ。
……ところで、連中がさっきからほざいてる『戸阿帆の伝説の陰キャ』はコイツの称号か?
「覚悟――――おあっ!?」
「お、落とし穴だと!?」
「かかったな! ひっそりと作った落とし穴に!!」
新山は高揚感からか、ドヤ顔で穴に落ちた連中に向かって叫ぶ。偉そうで頭に来るので普段ならば殴るところだが、今回は助けてもらったので渋々見逃してやる。
「だが俺はバリバリタイマンできるぞ、平原ぁ――!」
「ググゥ……」
向井が背後から腕で俺の首を絞めてきやがった。
「ごめんなさい、僕が生意気でしたって土下座するなら生かしてやるよ……!」
「グギギギイィィィ…………!」
この偉大なる平原圭様がこんなアホどもに土下座だぁ? 地球が滅亡した後じゃないとありえんわ!
「はははは、いい気味だな! ざまぁねーわ!」
向井が高笑いしているが、何がそんなにツボにはまったのかさっぱり理解ができない。
「前に貴様が俺らに勝てたのはたまたまなんだよタマタマァ!?」
不意に向井の高笑いが崩れて、苦痛で顔を歪めた。よし、俺は解放された!
「ヲ前、エスケープシタンジャナカッタノカ!?」
浮き輪で海水浴していたはずの高岩が、畳んだビーチパラソルの取っ手部分で向井のデリケートゾーンを押し上げている。
向井は激痛で顔を歪めながら自分のタマタマを手で押さえる。
「不意打ちって卑怯感満載で最高ですよね」
「あがが……」
向井が痛がっているが、高岩はその様子を見てむしろ力を強めている。なんてサディストな野郎なんだ。近々非行に走らないか心配だぜ。
「このまま子作りができない代物に仕上げてもいいですけど」
「ソノヘンデ勘弁シテヤレ。情ケヲカケルノモ強者ノ務メナリ」
「平原さんは何もしてませんよね?」
「ソレハ常日頃俺ガヲ前ニ思ッテルコトダワ」
俺は向井の足首を掴み、ジャイアントスイングをかまして何回転かしたところで、
「コレニテ終ワリニシテヤルァァ!!」
「うわああああああ!?」
向井の身体を海へと投げ飛ばしたのだった。
俺らのチームプレーの完全勝利だな。
「いやぁ罠とか不意打ちとか最高だよな――――あ」
俺の元へと歩いていた新山は自らがしかけた落とし穴に落下していった。墓穴を掘るってのはこんな時に使う言葉だな。このまま生き埋めにしてみてえ。
「――あのー。穴をあけられると危ないので、埋め直してくれませんか?」
「…………ハイ」
いつの間にやら近くまでやってきていたライフガードから注意を受けた新山は、穴を埋め直す作業に取りかかる羽目となった。
その際、穴に落ちたままの戸阿帆一味がどうなったかは知らん。
手持ち無沙汰になったので新山にビーチボールを膨らまさせていると、チャラい雰囲気の男が悪党感満載の喋り方で俺に絡んできた。
背後には、数名の男が嘲笑しながらこちらに顔を向けている。
「こんなとこで会うたぁ、因果かねぇ」
「…………誰ダヲ前!?」
「覚えてねーんかい!」
チンピラは砂を蹴飛ばして怒りの感情をアピールしてくるが、やることがいちいちお下品だな。
どこのどいつか知らんが、楽しい夏のひと時を邪魔するとほざくなら、今すぐその身柄を沖合まで引っ張って沈めてやる。
「ゲスト出演ノ端役ナンゾ、イチイチ覚エテラレッカ! コチトラ主人公ゾ!」
作中の登場人物を逐一覚えてたらキリがないんだぜ。
「んじゃま、嫌でも思い出させてやるよ……!」
チンピラはじりじりと俺たちの眼前まで歩み寄ってきた。
「俺は戸阿帆OBの向井! 以前はお前にボコられたが、今日は意趣返しするぜ!」
「モウ二度ト登場シナイクセニ聞イテモイナイ名ヲ勝手ニ名乗ルンジャナイ。自己顕示欲ノ塊カヨ。読者ノ負担ガ増大スンダロ」
例によって戸阿帆の奴らだったか。向井という名に全く心当たりはないが、売られた喧嘩は買うしかねーな。ここで俺の強さをアピールできれば、浜辺に佇むギャル全員が俺に惚れるのは不可避だしな。
向井一味は積年の恨みを晴らさんとばかりに俺と新山を見据えている。
――ん? 俺と新山?
「オイ新山、高岩ハイズコヘ?」
「あそこにいるよ」
新山が指差した先を見ると、高岩はのんきに浮き輪で海水浴を満喫していた。面倒事がはじまると察知して自分だけ逃げやがったな。
「新山ぁ、お前、相も変わらずその角刈り眼鏡野郎にこき使われてるのか?」
向井の背後にいた男の一人が新山を嘲笑っている。新山はどうにもこんな類のどうしようもない輩に顔が利くんだな。全くもって羨ましくもない。
「まぁ、そっすね……」
「プッ。友達いない陰キャオタク野郎はこれだからキショイんだよ」
戸阿帆のドアホども全員が覇気のない新山を嘲笑する。海岸の美しい景観が損なわれるからやめてくんねーかな。そのダミ声、不適切!
「オイ戸阿帆ノ人生オワタ軍団。俺様ハ角刈リ眼鏡野郎デハナク、平原圭ッテイウ素晴ラシイフルネームヲ持ッテイルンダゾ」
「今更お前の名前を知ってもねぇ。ここで会ったが百年目! 倍返ししてやるよ!」
「我ハ今年デセブンティーンナンダガ?」
「そういう意味じゃねーよ!」
俺が言外にバカかテメェとの思いを込めた視線を送ると、向井は地団駄を踏んで荒ぶった。
「会話が成り立ってない……これはカオス」
「ウッセエンダヨ貴様ハヨ!!」
「ぐぁはぁっ!?」
新山が甚だやかましかったので、とりあえず一発顔面に拳を入れて静めておいた。
「仮にもお前ら仲間じゃねーの?? 慈悲なさすぎだろ」
向井が舌を出しながら唖然とした顔を向けてくるが、生きるって、そういうことなんだよ。
「ハ? 仲間? コイツハ俺様ノ僕ダッツーノ! ツマリ、僕ノ僕ヤーー!!」
「漢字が同じなだけで全然ダジャレとして成立してねーからな?」
俺は向井を無視して、戦闘のために新山の肩を揺らして覚醒を試みる。
「オイ新山!! 応答セヨ!! サボタージュハコノ俺ガ許可センゾ!!」
新山は砂浜の上で鼻血を出してのびたまま復活しない。肝心な時に役に立たない野郎だな。
「応答もクソも、お前が顔面殴ったんじゃねーかよ」
「シエスタタイムハオ終イヨ! 目覚メヨ、新山!!」
新山の顔面を何発もビンタするが、顔が赤く腫れあがるだけで肝心の意識は戻ってこない。
俺の勇ましさに戸阿帆ギャラリーのアホどもが愕然としているが、それでも俺は手を抜いてやらないぞ。
「新山……貴様ノ死ハ無駄ニハシナイゾ。俺ガ仇ヲ取ッテヤル!」
「全部お前の自作自演なんだけども??」
俺たちの友情に向井一味が例外なく呆れている。
「覚悟っ! 平原圭!!」
連中は一斉に俺の元へと向かってきたが、俺は戸阿帆相手にはかなり相性が良いんだよなぁ。これまで敗戦したことすらないしな!
――――のだが。
「ンナッ!? ソレハ――」
向井が見せてきたのは、某セクシーアイドルの写真集だ。しかも表紙ではなく、最もキワドイページ部分を見せてきたものだから、俺の股間に軽い電流が走った。
「クッ……卑怯ナ……」
油断した隙に数名に押し倒されて身動きが取れなくなってしまった。
「引っかかったな! お前の程度なんて知れてんだよ!」
この俺がこんな低劣な手にかかってしまうとは、無念――!
「――おい君たち、誰か忘れてないか?」
覇気が全く感じられない間抜けな声に振り向くと、そこには復活した新山が戸阿帆軍団に喧嘩を売るようにあっかんべーをしていた。
「お前ら全員バーカ!」
「新山テメェ、なぶり殺してやろうかぁ!?」
「戸阿帆の伝説の陰キャの分際で調子づくんじゃねぇぞ!!」
見下している新山からの挑発に連中は顔を真っ赤にして、俺の存在も忘れて向井以外の全員が新山をボコろうと疾走する。
あれ、あの辺って確か――
「断言しよう! 君らは俺に指一本触れられない!」
「ほざけ戸阿帆の伝説の陰キャが!」
「一捻りで泣かせてやる!」
新山はお尻ぺんぺんして戸阿帆軍団を更にけしかける。あのケツにバット打ち込みてえ。
……ところで、連中がさっきからほざいてる『戸阿帆の伝説の陰キャ』はコイツの称号か?
「覚悟――――おあっ!?」
「お、落とし穴だと!?」
「かかったな! ひっそりと作った落とし穴に!!」
新山は高揚感からか、ドヤ顔で穴に落ちた連中に向かって叫ぶ。偉そうで頭に来るので普段ならば殴るところだが、今回は助けてもらったので渋々見逃してやる。
「だが俺はバリバリタイマンできるぞ、平原ぁ――!」
「ググゥ……」
向井が背後から腕で俺の首を絞めてきやがった。
「ごめんなさい、僕が生意気でしたって土下座するなら生かしてやるよ……!」
「グギギギイィィィ…………!」
この偉大なる平原圭様がこんなアホどもに土下座だぁ? 地球が滅亡した後じゃないとありえんわ!
「はははは、いい気味だな! ざまぁねーわ!」
向井が高笑いしているが、何がそんなにツボにはまったのかさっぱり理解ができない。
「前に貴様が俺らに勝てたのはたまたまなんだよタマタマァ!?」
不意に向井の高笑いが崩れて、苦痛で顔を歪めた。よし、俺は解放された!
「ヲ前、エスケープシタンジャナカッタノカ!?」
浮き輪で海水浴していたはずの高岩が、畳んだビーチパラソルの取っ手部分で向井のデリケートゾーンを押し上げている。
向井は激痛で顔を歪めながら自分のタマタマを手で押さえる。
「不意打ちって卑怯感満載で最高ですよね」
「あがが……」
向井が痛がっているが、高岩はその様子を見てむしろ力を強めている。なんてサディストな野郎なんだ。近々非行に走らないか心配だぜ。
「このまま子作りができない代物に仕上げてもいいですけど」
「ソノヘンデ勘弁シテヤレ。情ケヲカケルノモ強者ノ務メナリ」
「平原さんは何もしてませんよね?」
「ソレハ常日頃俺ガヲ前ニ思ッテルコトダワ」
俺は向井の足首を掴み、ジャイアントスイングをかまして何回転かしたところで、
「コレニテ終ワリニシテヤルァァ!!」
「うわああああああ!?」
向井の身体を海へと投げ飛ばしたのだった。
俺らのチームプレーの完全勝利だな。
「いやぁ罠とか不意打ちとか最高だよな――――あ」
俺の元へと歩いていた新山は自らがしかけた落とし穴に落下していった。墓穴を掘るってのはこんな時に使う言葉だな。このまま生き埋めにしてみてえ。
「――あのー。穴をあけられると危ないので、埋め直してくれませんか?」
「…………ハイ」
いつの間にやら近くまでやってきていたライフガードから注意を受けた新山は、穴を埋め直す作業に取りかかる羽目となった。
その際、穴に落ちたままの戸阿帆一味がどうなったかは知らん。
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