平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

4_人とはスペックと肩書で相手の格を推し量る生き物 ④

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「やりましたね、平原さん」
「オウヨ。チームプレーノ勝利ダ」
 今日会ったばかりでも分かるくらいにプライドが高く、俺をナチュラルに見下す里見が尻尾を巻いて逃げるわけがない。どこかに潜んでいて、相手が隙を見せた時に現れるとは踏んでいた。
 チームプレーでもあるが、察しがいい俺のファインプレーの部分も大きいぞ。
「びょ、病院に……!」
 二人組の片割れは、俺のビンタにより腫れあがった面で相方を引きずりながら公園から去っていった。
「戸阿帆ノバカドモハ、イクラ成敗シテモ次々沸イテキテダリィナ」
「そりゃ、学区のワルが一校に介してますからね」
 逆に考えれば、戸阿帆が不良の受け皿を担ってくれてるおかげで近隣校には素行不良な生徒が流れてこない。必要悪ってやつだな。
 ひとまずは一件落着だな。
 一方、その頃新山はというと。
「お兄サン、なんてことしてんの?」
「いいかげん怒るよー?」
「――――……(サーセン)」
 新山が何か言ってる気がするが、まぁ気のせいだろう。
「この人、このまま埋めちゃおっかぁ」
「お城を作るよりそっちのが楽だよねー」
「城をこわした罰だ!」
「「わっせ、わっせ」」
「――――! (やめなさーい!)」
 殉職じゅんしょくした新山は、幼き子供たちの手によって砂場の中へと埋められてゆく。
 決して良い奴ではなかったが、お前の勇姿は忘れないぞ。三日くらいはな。
「――――ってそれ窒息死するやつやー!!」
 あ、新山がガバッと砂の塊を突破して地上に復帰した。ゴキブリ並みにしぶとい野郎だな。
「悪魔大王がよみがえったぁー!」
「にげろにげろー!」
「待て小僧ども! 我がソナタらの舌を引き抜いたる!」
 舌抜く発言は冗談なのか本気なのか、新山は子供たちと鬼ごっこをはじめた。
 もちろん手を、いや足を抜いてダッシュしているので子供たちは簡単には捕まらない。
 ま、楽しそうだからいっか。新山と子供たちの知能も近そうだし、気が合うんだろうな。
「…………やっぱり新山さんはろくなことしないよね」
 高岩とともに俺たちの元にやってきた葵は感情を失った顔で追いかけっこを眺めていた。
「二人とも、お疲れ様でした。一部始終は遠目から眺めてました」
 高岩が俺と里見に労いの言葉をかけてくれる。
「圭、順も。二人とも、カッコ良かったよ」
 葵は俺と里見に笑顔を届けてくれた。
 よっしゃ! 葵の好感度がまた上がったぞ。
「僕はちゃんと空羽さんをお守りしましたよ」
「高岩くんのおかげで私も無事でした~」
「ドウセ高岩ハナンモシテネェダロ」
 お前はなーんもしてないのにさらっと自分の手柄にする習性を改めやがれ。
「いやぁいい汗かいたわ」
 四人で勝利の余韻を味わっていると、子供と遊んでいた新山が戻ってきた。
「新山さんは全く活躍しませんでしたね。子供と遊んでただけですか」
 葵が呆れた顔で新山に声をかけた。
「そこはまぁ、俺の力ではね。適材適所だ」
 新山はなぜか誇らしげに手をはたいて埃を払う。
「開き直り、ここに極まれり……」
「新山さん、僕はあなたにドン引きですよ」
 そして新山は葵と里見からの信用度がガクっと下がったのだった。

 新山に聞いて分かった本件のあらまし。
 奴らは中学生から金をカツアゲしようとしていたらしい。
 はじめは話し合いでどうにかしようと試みるも、相手はキレるばかりで会話にならないので、挑発して奴らの気を自分に向けた。
 その隙に新山は奴らから中学生を逃がすことに成功。
 その後のポンコツっぷりはご覧の通りだ。
 とにもかくにも、戸阿帆関係者以外に負傷者が出なかったのはよかった。

「平原さんも結構やりますね。まだ不安ですけど、少なくともチンピラからは葵を守ってくれそうです」
 里見は俺のことを少しは認めたようだ。ま、俺様は天才だからなんでもできるんだよ。
「アタボウヨ。俺ハ常ニ心身トモニ鍛エテイル身。コノ程度造作モナイ」
「あとは正論を吐く相手に対してどう立ち振る舞えるかですね」
 まるでガチな悪党相手には強いが、正論で押し通す奴が相手だと惨敗ざんぱいするかのような言い草だな。
「平原お前ナルシストも大概にしとけや」
「新山さんに平原さんを酷評する資格はありませんよ」
 と、そこまで言って里見は、
「まさか、平原さんがこんな人格になった元凶も新山さんにあるのか……?」
「コイツのコレは先天的なものだわ!」
 新山が俺を指差して吠えやがる。キャンキャンとうるさいやっちゃ。
「ですが、まだ僕は平原さんを完全には認めません」
「ヲ前ノ許可ナンゾイランワ」
「これからも、葵や周囲から平原さんの行動や言動を聞いて評価を続けます」
 里見は引き続き俺の審査を続行するようだ。ま、この俺が落選するはずもないので、勝手にどうぞって話だ。
「里見さぁ、逆にもう平原のファンだよな」
 新山がへらへらと笑うが、里見と葵が睨んだのですぐさま押し黙った。
 もしや里見は、葵のためを装ってはいるが、実は俺がお目当てなのか……?
「里見ヨ、ヲ前ハ女性ヲ愛セ。見境ハアルベキダ」
 俺はありがたい言葉を贈るが、
「……? 僕の性癖はノーマルですよ」
 里見はいきなり何言ってんだこの人的な目線をよこしてきたのだった。

 こうして、俺の知人同士に繋がりが生まれた特別な一日は暮れたのだった。

    ♪

 その夜。
 俺はチャットのグループで今日の感想を聞いた。

ゴッドスター:『諸君、今日の出会いの場はいかがだったかな?』

新山鷹章  :『マジで行って後悔したわ。ふざけんなよ』

ゴッドスター:『何キレてやがんだ? 情緒不安定な輩なり』

新山鷹章  :『フラストレーションが溜まっただけだからだよ!』

GBよっしー:『ところで空羽さん、でしたっけ? 僕に優しくしてくれましたし、
        結構可愛い人でしたね』

新山鷹章  :『人は、相手によって仮面をつけ変えるから恐ろしいのだ……』

ゴッドスター:『それは自業自得だろ。戸阿帆にさえ入っていなければ』

新山鷹章  :『そうなんだけどさぁ……』

GBよっしー:『空羽さんの連絡先も交換できましたし、今度デートに誘ってもいい
        ですか?』

ゴッドスター:『いいって言うと思うか!? キンタマ引きちぎるぞ。ったく、葵がた
        いそう魅力的だからってどいつもこいつも……』

GBよっしー:『冗談です。人の女に手を出すほど僕はスリルに餓えてないので』

新山鷹章  :『もう、俺は今後彼女らとは会うことがないよう祈りを捧げるわ』

ゴッドスター:『そうやって人間関係から逃げるからお前は今の立ち位置だし、内定
        ももらえないんだよ』

新山鷹章  :『ハートを突き刺すド正論はやめたまへ』

GBよっしー:『二人とも、まともな就職先はないでしょうね』

ゴッドスター:『おい、俺を新山なんぞと同類の括りに入れんな』

 新山はともかく、高岩はそれなりに楽しめたようだ。
「葵ハ渡サネーケドナ」
 里見ならくれてやる。
 しかし、葵だけでなく里見までアンチ新山になるとは想定外だった。
 俺の目的は二つあった。
 一つ目は俺の彼女を新山と高岩に自慢すること。これは成功した。
 そして二つ目が、葵の新山への敵意、警戒心を解くこと。
 これは……まぁ、一生不可能だと分かった。
「新山ノ人ニ嫌ワレル能力ハ天性ノモノナノカ?」
 若干同情はするが、それも奴の人生なんだろうな。合掌。
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