平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

2_サイコパス人間は自覚がないからこそサイコパス ④

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「どうかしました?」
「散々暴行してくれたお前は誰?」
「僕は高岩由生です。イケメン以外に取り柄がない中学三年生です」
「確かに顔立ちは良いけど、ナルシストキャラは平原だけでお腹いっぱいだわ」
「新山さん。もっと中学の勉強を頑張ってマシな高校に行けてれば、あんな目に遭わずに済みましたね。自業自得です」
「まさか中学生から正論を吐かれるとは……それは言い返せない」
 おいおい。勉強だけが全てじゃないぞって言い返してやれや。チンピラに絡まれたのは単に自分の力不足で、出身高校は関係ないって言わないと高岩が調子づくぞ。
「で、俺を殴って楽しかったか?」
「楽しかったで――ゴホン、違いますよ」
 高岩はわざとらしく咳払いを挟み込んで台詞を訂正する。
「僕が新山さんを殴れば奴らは新山さんに手を出さない。奴らに殴られるより僕が手加減した攻撃を受けた方が、ダメージは少ないって算段です」
「お前、いい奴だな! 戸阿帆の連中よりもお前から受けた攻撃の方が断然痛かったけどな」
 明らかにストレスの捌け口にお前をボコってただけだしな。
「全ては新山さんを救うための演技です。敵をあざむくにはまず味方から、ですよ」
「そこまで考えてたのか、さすがだな」
「当然です。僕は平原さんや新山さんより頭が良いですから」
「成績も良いのか。将来有望だな!」
「ま、お二人とは出来が違うんでね」
 出るわ出るわ、人を見下す発言。いつか痛い目見るぞ。
「ソレッポイコト言ッテ、自分ノ悪行ヲ正当化シテンジャネーヨ」
 まったく、物は言い様だな。日本語は奥が深いぜ。
 と、新山が突然頭を掻きながら嫌らしい笑みを浮かべはじめた。
「喉乾いたわー。おい高岩、コーラ買ってきてくれよ。パイセン命令だ」
「えっ、なんで僕がわざわざ……?」
 突如オラつきはじめた新山は高岩にパシリを命ずる。
「オイ新山、相手ガ中学生ダカラッテイキリカスハヤメロ」
「お前はさっき俺を殴ったよな? これ、先生にチクられたくないよなぁ? 受験生が不祥事なんて、受験に影響するよなぁ?」
 新山は悪い面で高岩の弱みを突いている。
「……分かりました。ちょっと待っててください」
 さすがのサイコパス高岩も先ほどの悪行に対してばつが悪いのか、新山のウザったい指示に律儀に従う。
 …………なんか新山が偉そうに振舞ってると無性に腹が立ってくる。
「買ってきました」
 高岩がコーラを片手に戻ってきた。
 うむ、新山にはお仕置きが必要だな。
「高岩、俺ニコーラ渡セ」
「え? あ、はい」
 なぜ平原さんに? と困惑の色を浮かべる高岩からコーラを受けとり、プルトップを開ける。
「ホレ新山、ヲ飲ミナサイ!」
「おわっ!? 目が! 服が濡れた!」
 俺はコーラの中身を全て新山にぶちまけた。不意の行動に新山は一切反応できず、全身でダイレクトにコーラを浴びた。
「なにすんだよ!?」
「ヲ前ガ調子ニ乗ルノハ重罪ダ。極刑ジャナイダケ寛大ナ処置ト思エ」
「だってコイツは俺を殴ったんだぞ!? このくらい許されるあがーーーーっ!!」
 減らず口を叩き続ける新山の顔面に一撃をおみまいしてやった。
「鼻血が止まってきたのにまた出てきたし……」
「年下相手ニイイ気ニナルカラヨ。ヲ前ノ喜楽ガ俺ニトッテ最大ノ怒哀ヨ」
「また訳の分からないことを……まぁ、いっか」
 再び鼻を押さえた新山は、もう片方の手でズボンのポケットからスマホを取り出した。
「高岩、チャットの連絡先教えてくれ」
「いいですよ」
「俺、アキバ散策と野球観戦が趣味なんだ」
「僕も同じですよ。気が合いますね」
「今度野球観に行こうぜ! チケット取るわ」
「いいですね! よろしくお願いします」
「他にも趣味あるの?」
「女遊びですね」
「お前最低だ……」
「と言いつつ、今まで二人としか付き合ったことないんですけどね」
「俺は一度たりともないんだよなぁ」
「でしょうねぇ。陰キャで肌も汚い。とてもモテなさそうですもん」
「お前性格悪いわ……」
 新山と高岩はなんやかんやで気が合うようで、軽快なトークショーを繰り広げていた。そこに交じるほど俺も暇ではないので、鼻をほじりながら二人のトークを聞いている。
 高岩は年上の俺らと絡んでよく物怖ものおじしないよな。
「っと、友達から着信が来てました。折り返してきますね」
「お前、友達いるのか」
「当たり前でしょww 普通、友達の一人二人くらいいますよ」
「俺はいないけどな……」
「嘘っしょ!? さすが新山さん――っと、こうしちゃいられない」
 高岩は折り返しの電話をするために俺たちから少し離れた場所まで移動する。
「普通……? 普通ってナンだ……? ナンはカレーをつけて食べるモノだよな……?」
 新山は高岩の発言にカルチャーショックを受けているのか、意味不明な独り言を呟いている。
 高岩は笑顔で人のハートに刃を突き刺すきらいがあるよな。
「安心シロ。ヲ前ハ普通デハナイ。タダノアホデクズナゴミムシダ」
「これっぽっちも安心できなかったんですけどそれは」
「人ガおもんばかッテヤッテルノニ無粋ナ野郎ダナ」
おもんばかるの意味分かってて使ってる??」
 俺と新山がいつものように下らない会話を繰り広げていると。
「電話終わりましたっと――――じゃ、一服しますかね」
 電話が終わった高岩が俺たちのところまで戻り、タバコを取り出して火を着けた。
 当然、その愚行を見過ごせない俺は奴からタバコを奪い取って掌に乗せて握り潰す。

「ッッッチッチッチッチッチッチキッチィーーーーーーッ!!」

 親指を突き出して火による痛みをこらえる。
「いやだから、火が着いたタバコを手で握り潰したらそうなりますよって」
「しかも既存のギャグを丸パクリしてきたな」
 火の熱さは収まったが、入れ替わる形で二人からの熱いツッコミのシャワーを浴びた。
「俺ノ目ガ黒イウチハ、タバコハ吸ワセナイカラナ」
「なら、家に帰ってから吸いますね」
「お前タバコ吸うのか。ドン引き」
「僕は新山さんたちの生き様にドン引きしてますけど」
「まぁ、俺は落ちこぼれだから引かれてもしゃあないけども」
「改善してくださいよ」
「俺様ノ人生ハエレガントスギテ引クノモ分カランデモ? ナイ」
「そういうことではなくて……まぁポジティブ思考なのはいいことだと思います」
 俺たち三人はぎゃあぎゃあ言いながら駅まで向かうのだった。

 ちなみに帰宅時間が大幅に遅延したことで、マミーの手料理が冷めてしまっていた。
 俺は台所でマミーに土下座した。

 かくして、俺の夏休みの幕は開いた。

    ――――※ ここからは高岩視点でお楽しみください ※――――

「平原さんと新山さん、か」
 駅にて解散となり、俺は自宅マンションまでの道を歩いていた。
 その道中で、今日出会った奇妙な二人を思い出す。
「底辺な人たちだったなー」
 あんな風になったら人生終わりだよな。反面教師にしよう。
 けれど。
「平原さんはともかく、新山さんは年上だけど気を遣わずに絡めて気楽だったな」
 尊敬はできないけど、交友関係を持つのは悪くないと思った。

「でもさぁ。俺はサイコパスじゃないよなぁ?」

 夕闇に染まる夏空を眺めながら、俺は首を傾げてタバコを吸った。
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