平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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2巻

2_サイコパス人間は自覚がないからこそサイコパス ①

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 待ちに待った終業式の日がやってきた。
 明日から夏休みだと考えるだけで開放感MAXだぜ。
「夏休み中の気の緩みが人生に暗い影を落とすこともあって――」
 校長話長ぇな。これ以上若者の貴重な青春タイムを奪わないでくれよ。
「私が学生の頃は、夏祭りが近づくと――」
 眠くなってきたわ。ちょっとだけ目をつむるくらいは教師も目をつむってくれるよな。
 てなわけで、目を閉じた。
「グゥ~、グゥ~」

『平原の奴、立ったまま寝てるぜ』
『器用だなぁ。いびきがうるさいけど』
『このまま永眠してくんねーかな』

「グゴォ~、グゴォ~――――グゴオォッ!?」
「寝るな、起きろ」
 いい感じに夢の世界にエスケープしたというのに、教師に頭をはたかれた。おいおい、今時体罰は遺恨いこんしか生まないんだぞ。PTAもうるさいご時世なんだぞ。
「ボクハスコーシ、チョビーットダケ、精神統一シテタダケッスヨォ」
「思いっきりいびきかいてただろうが」
「ソレハヲ前ノ幻覚ヨ。仕事シスギテ疲レテルヨウダナ。休メ」
「それを言うなら幻覚じゃなくて幻聴な。あと、教師にタメ口を聞くんじゃない。俺はお前と友達じゃない」
「友達ト思ッテタノハ俺ダケダッタ!?」
 今、とてもショッキングな発言を耳にしたぞ。三秒くらい立ち直れないかもしれん。
「なぜ友達だと思ってたのか理由が聞きたいくらいなんだが……」
「話スト長クナルガ、アレハ1882年、明治時代ノ春――」
「黙って校長先生の話を聞いとけ!」
「聞キタイッツッタノハソッチダロ!」
 ったく、人がせっかく身の上話をしてやろうと思ったのに、つれない先公だぜ。
 そんなこんなで、引き続き一学期最後の苦行を味わう羽目になった。

「じゃ、通知表を渡すぞー。相田あいだー」
 終業式は滞りなく終わり、HRの時間になった。
 教科書写しのノルマ達成済かつ、中間、期末試験で赤点がなかった俺に憂いはなにもない。通知表をもらったら、あとは夏休みへと思いをせるだけだ。
 夏休みは部活と宿題があるが、それ以外の時間で何をしようか。
「平原ー」
 葵と海とか夏祭りとか色々行きたいところではあるが、吹奏楽部は夏休みもフルで練習がある。コンクールはもちろん、いつでも運動部の応援ができるように準備をしないといけないそうだ。
「平原ー!」
 そういう俺も夏はインターハイを控えている。俺のスプリンターぶりを下々の愚か者どもに見せつける絶好の舞台だ。
「平原ぁ!! 早く取りに来い!」
 担任が通知表をひらひら振りながら、大声で俺を呼んでいることに気づく。
「イエス! イカニモ、拙者ガ平原圭デゴザソウロウ」
「なぜに時代劇口調なんだ……? ほら、通知表だ」
 俺のスタイリッシュな口調にキョトンとしている担任から通知表を受け取る。
 その場で通知表の中身を確認。
 結果は――――

「ンミッション!! クォ~ンプリィートゥゥゥゥゥ!!」
 ドガァッ!
「おい、うるさいぞ!」

 感極まったあまり、教壇で叫びながら黒板を拳で殴ったら担任から注意を受けたが、俺のハイな気持ちは収まらない。
 試験の結果から分かりきってはいたが、赤点がついた科目は一つもなかった。評定は10段階評価で保健体育が7で、他は全て3だった。ちなみに1と2が赤点。
 常にナンバーワンを目指す俺としては、1がついたら逆に進級が危うくなるのは到底納得がいかないが仕方がない。それが決まりだから。
「ヲ前等! 来年モヨロシクナ!」
「一学期が終わっただけで何言ってんだ?」
「まだ二学期、三学期があるだろ。次は赤点取れよな」
「来年も平原と同じクラスだったらあーしマジ精神病になるカモ~」
 俺の爽やかな笑みに、名もなきクラスメイトのギャラリーどもは恐れ多いとばかりにおののいている。
 天才と同じクラスで常にプレッシャーとの戦いになってるだろうけど、お前らも俺に少しでも追いつけるように精々あがくこった。
 まっ、俺はそれ以上のスピードでお前らを突き放すんだけどな。

    ♪

「今日ノ部活モシンドカッタナァ」
 最近、部長が俺にだけやたらと厳しい練習を課してきやがるものだから、さすがの俺も毎日ヘトヘトだ。
「早ク帰ッテマミーノゴ飯ガ食ベタイゼ」
 家に帰れば家族の温かな団欒だんらんと、美味しい晩御飯が待っている。これは非常に幸福なことなんだよな。
 一学期も終わり、晴れ晴れとした気分で駅までの道を歩いていると、俺の視界に妙なものが映り込んだ。

「アレハ、俳優カ……?」

 視線の先、公園の端には戦隊ドラマの主演を務めていた俳優に酷似した男がタバコをふかしていた。
 芸能人を生で見る機会は何気初めてじゃないか? 色紙とサインペンこそないが、握手くらいのファンサービスはしてくれるだろう。
 俺はその男の元へと向かった。

「チョオーットイイッスカァ? 握手シテクダッサーイ!」
「……え?」

 俺の登場に、こちらを振り向いた俳優は戸惑いの色を隠そうともしない。
「アナタ俳優ッスヨネェ? ドラマデ観タコトアルジェリア」
「はぁ……? 僕は俳優じゃないですけど」
 男はコイツ何言ってんだと言いたげな表情で俺と対峙する。
「ナーニ、周リニハ俺トアンタシカイナインダシ、シラヲ切ル必要ハネーヨ」
 俺は俳優の肩に手を回して、耳元でそうささやいた。
「だから僕は一般人ですよ。あと口が臭いです」
「我ノブレスガ臭ウト申スカ!?」
「はい」
 身も蓋もないド直球発言を平然とする男だな! 軽い衝撃を受けたわ! 俺は新山じゃないんだぞ!
 それは一旦置いといて、話を本題へと戻す。
「デ、ソナタハ俳優デハナイト?」
「僕は高岩たかいわ由生よしおです。ごく普通の中学三年生です」
「タバコフカシテル中坊ノドコガゴク普通ナンダヨ。コノ非行男児メ」
 タバコを吸ってる俺ワルでかっちょイイとか、時代錯誤もはなはだしいぞ。
「ニシテモ、偽者レプリカ野郎ダッタカァ。ッタク、俺ノ大切ナ時間ヲ返セヨナ」
「一方的に声をかけられただけなのに、更にそんなことまで言われないといけませんか……?」
 高岩は白目を剥きながら苦笑いする。おい、なんだそのセンスの欠片もない変顔は。
「シッカシアノ俳優ニ似テルヨナァ」
 俳優と中学生を見間違えたのはやりすぎたが、それでもよく似ている。容姿だけで見れば、俺には到底及ばないもののそれなりにモテることだろう。
 夕暮れに照らされた横顔は憂いを帯びており、ミステリアスな印象を与えてくる。
「まぁ、僕はイケメンですからね」
「自分デイケメントカ、ヲ前ナルシストダナ。イケメンッテノハ、俺様ノヨウナダイナミックナ男前ノコトヲ言ウンダゾ」
「ええっ!? あなたはどこからどう見ても、イケメンとはお世辞ですら言えないのでは……?」
 高岩がマジ顔でそんな反応を示すものだから、俺もガチな話がしたくなってきたってばよ。
「ヲ前ヨォ、中学生デタバコトカドウカシテルゼ。非行ダシ、ンナモン吸ッテテ格好良イトデモ思ッテンノカ?」
「慣れたら味も美味しいですよ」
「ンナ問題ジャネェ。受験ヲ控エテル中デバレタラタダジャ済マンゾ」
「僕は説教ごときでタバコを止める気はないんで。どうせバレないから余裕っすよ」
「ナラバ武力行使スルマデヨ!」
「あ、ちょっと」
 俺は高岩からタバコをぶんどって手で握り消す。
「アァ~チーチィーアーチーイェ!!」
 掌に鋭い痛みが走ったので、爽やかな息を吹きかけて温度を下げる。
「火が着いてるんだからそりゃそうでしょ……何やってんですか」
 男ってのはな、多少は痛みを味わっておかないと強くなれない生き物なんだよ。強くなければ、愛の戦士として愛する女性をいざと言う時に守ることなど至極困難よ!
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