平原圭伝説(レジェンド)

小鳥頼人

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1巻

1_昨日の敵が今日の友になる確率なんてほぼゼロ ②

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    ♪ ♪ ♪

 以上が去年の回想だ。
「俺ハ天才ナンダヨ! ソシテヲ前バカ! 俺マジ天才!! ヲ前ハバカダカラ死ネ!」
「ああ~、ついに発狂しちゃったかー。圭ちゃん、おちちゅいてくだちゃいね? 周りに迷惑をかけちゃいけまちぇんよ? それから人を指差す行為はマナー違反って知ってる? お前のマナーのなさを見る限り知ってるはずないか」
「テメェコノ野郎! 俺ノパントゥーヲ食ライタイラシイナバーカ!」
「パンチだろ? 誰が好き好んでお前の汚いパンツを食べたがるんだよ」
「グヌヌ……貴様……!」
「しかもバーカとか、今時中学生でも使う奴は少ないのに。おつむの程度が知れるね」
「グヌヌ……チョチョチョチ、チョコザイナ!」
「猪口才の使い方合ってる? 言葉は意味を理解した上で使えよな」
「グヌヌ……マジデクソ生意気ナ奴メ……」
「ぐぬぬとしか言えないのか? えっ、それお前の鳴き声なの? ボキャブラリーの乏しい奴だな。おい圭、これに懲りたら他人に喧嘩を売る真似はやめたらどうだ? そんな態度だからお前の周りには味方が居ないんじゃないのか? 自分を省みることをおすすめするよ。じゃあな」
 そう言って永田大地は立ち去ろうとしやがる。しかしそうは問屋が卸さねぇ。
「オイコラ待テ逃ゲルノカ永田大地!? 俺ニ怖気ヅイタンダナ!? ヲ前ニハガッカリダヨ」
 俺の言葉が効いたのか、永田大地はピタリと足を止めてこちらを振り返る。
「お前をイジるのに飽きたんだよ。気づいてないのか? お前は学校っていう大きな檻に閉じ込められたサル同然なんだよ。見世物になってるんだよ。みんなそれを知っててお前を腫れ物扱いしてる。何も気づかずに踊らされてるのはお前だけ」
「ナンナンダソノ上カラ目線ノ物言イハヨォ!? 自分ノ方ガ威力ナイクセニ俺ヨリ威力アルッテパチコクンジャネェゾ死ニヤガレ!」
「威力って何の威力だよ。お前のそういうギャーギャー喚くところが恰好のネタになってるって言ってやってんだよ」
「ハアアアアアァァアアァ!? ナンダトボケカスガァァァ!! イイ加減ニシナイトマジデ骨折ルゼ? 折ッチマウゾ? イインカチビスケエエエェェェェ!?」
「はいはい、どうぞ折ってくださいませ。お前の力で折れるんならな」
 永田大地はすっと両腕を差し出してきた。ずいぶんとナメきってるじゃないのさ。
「俺ガ毎日ドノクライ筋トレニ時間ヲ使ッテルカ知ラネーカランナコトホザケルンダヨ! 俺ニ折ラレタ骨ハヨォ! 永遠ニ完治シナインダゼ? 特別ナ魔力ヲ使ッテ折ルカラナァ! 大体ヨォ、俺ハ頭良クテ運動神経抜群デイケメンデモテモテデ性格モ優シイ完璧超人ナンダヨナァ! 貴様ミタイナ低階級ノ雑魚トハ格ガ違ウンダヨ格ガァ!」
「…………お前って、本当哀れな奴だな。自分に泣けてこないのか」
 なぜか永田大地は本気で俺を哀れんでいるような視線を送ってきやがる。
 お前のそういうクールを装った態度も腹が立つんだよ。
「アーアーアーアー! モウ我慢ノ限界ガキチマッタヨゥ!? 永田大地、今ココデ死ネ! 死ニサルァセェェェェェェェイ!!」
 俺は拳に力を込め、永田大地に向かって突撃した。
 ――その時。

「お前ら! 何してるんだっ?」

 都合悪く教師が現れやがった。
 くそっ、もう少しだったのに!
「先生。平原君が暴りょ――」
「デヘヘヘ、タダ単ニジャレ合ッテルダケジャナイッスカ。ホラ、永田大地君、コノ、コノ」
「気持ち悪いな。触んじゃねえよ、制服がけがれる。それに感染症が怖い」
 カッチーン。
 この野郎、言うに事欠いてけがれるってなんだよ、感染症ってなんだよ。
「よく分からんが、仲が良いあまり一線を越えても俺は何も言わないからな」
「いやいや、俺と平原君はそんな関係じゃありませんからね?」
「ソース! 曲ガリナリニモ俺ハ男ノ子、愛ノ戦士デスヨ! 女ノ子ニシカ興味ハアリマセンデース」
「分かった分かった。ところで気がついてるか? チャイムはとっくに鳴ってるんだぞ。早く自分たちの教室に戻らないとまずいんじゃないのか?」
 げっ、もうそんな時間か。だから教師が俺たちの前に姿を現したのか。
「ヨシ、コノ続キハマタ近イウチニデモ」
「永遠にお断りだっつーの」
 まったく、運の良い野郎だぜ。
 しかし失敗だったな。休み時間じゃ時間が圧倒的に足りなかったわ。ちょっとしたミステイクだぜ。
 ま! 天才もたまには間違えるってもんよ。それが人間だ。

    ♪

 胸糞悪い。
 俺は神同然の男だぞ? 世界は俺を中心に回ってるんだぞ?
 その俺様をあそこまでコケにした永田大地。あぁ永田大地!! 永田大地。アイツが憎たらしくていてもたってもいられねぇ。
「マァイイ。調子コイテラレルノモ今ノウチダケダカラナ。グフ、グフフフフフフアァー!」

『平原の奴、一人で笑ってやがるよ』
『キメーな。絶対に目を合わせるなよ。ウザ絡みされる危険がある』

 そう、永田大地は敵に回す相手を間違ってる。他の奴ならどうにか対処法があるかもしれないが、この俺だけはそうはいかないぞ。
 容姿、体型、性格、運動、頭脳、学歴、家系。全てにおいて世界、いや宇宙でナンバーワンアンドオンリーヲヮンの俺様を敵に回すということ、それ即ち永遠の眠りを意味するのだ!

 そう! 今は放課後。あの放課後だ。
 さっきの屈辱を晴らすべく永田大地を探し求めている最中だ。
 だが見つからないんだぜ! 教室にもいない。食堂にも、図書室にも、校庭にも。
 いや、アイツが図書室に来るはずないな。俺と違って知性が絶望的に乏しいからな。
 もう帰っちまったのかな? 下駄箱の中をチェックすれば早いが、ウチの学校の下駄箱は鍵がないと開かない作りにできていて、安易な確認はできない。
 学校も余計な真似をしてくれやがったぜ、ったく。
 俺にピッキングの技術があれば、奴の靴と上履きなど容易くゴミ箱にブチ込めたのに。
「マァイイ。俺ノ知能サエアレバ、アットイウ間ニピッキングクライ覚エラレルカラナ」
 あと奴がいそうな場所といったら――体育館だ。
 奴はバスケ部。今日は練習日で体育館にいるかもしれない。
 しかしこの学校は運動系の部活動があまり活発ではなく、一番本格的な我が陸上部ですら週四日しか活動していない。弱小部となると更に活動日は少ない。
 バスケ部は女子、男子ともに二回戦敗退レベルの雑魚だ。それ故今日は活動していない可能性がある。
 ちなみに弱小だからこそ、永田大地がでかい面してレギュラー入りできている。
 中堅レベルの学校ならアイツなんかからっきし通用しないね。ベンチ入りすら、無理! 百%の自信を持って断言できるぜ。
 センスのある顧問なら奴を試合に出すなんて対戦相手への冒涜はしないだろう。つまりは、顧問のレベルもそういうことだ。
「体育館ノ様子ヲ見ニ行クカ」

「ブフッ、アッハッハ、ハーッハッハッハ! ガーッヒャッヒャッヒャーットナァ!」
 俺の予感的中。さすがは俺。勘の鋭さも全宇宙に通用するレベルだぜ。
 体育館ではボールが床を叩く音が響いている。まだ練習開始から間もないようで、部員たちが一心不乱にシュート練習に打ち込んでいた。
 へぇ、意外とシュートは入ってるな。ここだけ見ると二回戦負けするような錆びた実力とは思えないんだがな。
 ま、他が致命的に悪いんだろう。ディフェンスとか、パス回しとかがな。
 俺ならバスケなんざ一日でプロ以上に上手くなれるね。なにしろ神から直接力を受け取ってる伝説の男だからな。俺が過去に様々な地で残した伝説の数は計り知れない。
 さて、永田大地は――っと、いた。
 奴は一番奥のネットを使ってシュート練習をしている。
 ふむ、フォームは綺麗なのな。俺にゃあ遠く及ばないけどな。
 奴が放ったボールは華麗な放物線を描いてネットへと近づいていき、ネットの端に命中――したが、僅かな誤差でボールはネットをくぐることなく床に虚しくバウンドした。
「フヒョフヒョフヒョーン! デュババババ! ザマァネエナァ永田大地ィ! バスケ部レギュラーノクセシテシュートスラ満足ニ入ラネートハヨ! 恥ヲ知レ恥ヲヨォ!」
 あー実に愉快痛快爽快ですなぁ。嫌な奴の失敗した姿ほど気持ちいいものはないね。快感だ。
 今宵の晩御飯は美味しく頂けそうだ。

『あれ平原圭じゃね?』
『アイツがここに何の用だ?』
『何か企んでるのか? ここにトラブルを持ち込まないでほしいんだけど』

 一部の生徒が練習の手を止めて俺の方を鋭い瞳で見据えている。メジカラとかいうやつの練習か?
「オラオラヲ前等、視線ジャナクテ手ヲ動カセ? 俺ハ二年ノ永田大地ニ用ガアルンダ」
 他の男どもなんざどうでもいい。ちなみに俺を凝視してくる男子どもとは対照的に女子は俺に全くの無関心。こっちは女子なら関心ありまくるんだけどなぁ――って!
 いかんいかん、俺には愛するハニーがいるじゃないか。
「またお前かよ。お前と一日に一回会うだけでも不運なのに二回目とかさぁ」
「黙レクソボケ殺スゼゴルァ!?」
「おいこら、喧嘩するなら校外でやれ」
「すみません部長。すぐに追い出すんで」
 永田大地が部長と思わしきガタイのいい人物をなだめる。
 誰も喧嘩するなんて一言も言ってないんだが、何ほざいてやがんだこの脳筋ゴリラは? しばくぜ?
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