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第二章
13.
しおりを挟むもういいや。
……「おつかい」はスルーする事にした。
「……お前は、何してんだ?」
「――――……」
困ったような顔で、心春がオレを見上げたその時。
「よお、久しぶりだな、伊織」
一声で、不穏な空気に変わる。
声の方を向いた心春が、半歩、後ずさった。
――――……中学ん時によく絡んできたいっこ上の馬鹿先輩と、その仲間三人。
卒業してから会わなくなって、清々してたのに。
……名前何だっけ。
弱ぇくせに、つっかかって来て面倒だったことしか、覚えていない。
「何、彼女?」
不遠慮な視線を向けられて、びく、と心春が揺れる。
「こいつ、何の関係もねえ」
一歩前に出て、心春との間に入った。
背後に押しやってから、少し振り返る。
「――――……お前、もう行けよ」
「え……」
「大丈夫だから。つか、買い物あんだろ、離れろ」
困った顔をしたまま、心春は少し引いて。それから、走って行った。
「何だお前、カッコつけて」
「――――……名前もちゃんと知らねえしマジで関係ない。つか、何の用、センパイ?」
「……つか、久しぶりに見ると、やっぱすげームカつくなぁ?」
「ほんとほんと」
「お前に恥かかされたの忘れてねえからな」
1人ずつ喋れ。うるさい。思いながら、聞いていたが。
……何かしたっけ。オレ、こいつらに。
――――……あんま、記憶がない。
「つか恥って……先輩らが弱えだけじゃねえの?」
思わず言ったら四人それぞれが、ムッとする。
……あーめんどくせえ。
――――……空手の大会あるし、こんな弱いのと喧嘩しても、喧嘩は喧嘩だし。
困るんだけど。かといって、じーちゃんが言うように逃げるとか、ムカつくし……。
そう思った瞬間。
「何してるんですか?」
遠くから聞こえる声に振り返ると、警備員が二人、走ってくる。
四人は、またな、とか言いながら逃げて行った。
またなじゃねえよ。二度と遭遇したくねえし。
……警察でもないし、まだ何もしてないから大丈夫だろうと判断して、警備員が寄ってくるのを待っていると。
警備員は、駆け寄ったオレの側で、オレに、大丈夫ですか?と聞いた。
「――――……」
オレが絡まれてたのを知ってるってことは――――……。
警備員が来た方を見ると。案の定、心春が様子を伺いながら、現れた。
周りの野次馬も、警備員も居なくなってから、少し離れている心春に近付いた。
「……警備、呼んだのか?」
「だって……」
「余計なことして、バレると、目ぇつけられるぞ」
「……だけど」
「まあ。……相手すんの面倒だったから、とりあえず今回は、サンキューな」
一応そう言うと。心春はふとオレを見上げて、マジマジと見つめてくる。
「上宮くんて、お礼、言うんだね」
「は? ――――……つか、今の礼、無し」
言うと、心春が、少しだけ、クス、と笑った。
「上宮くんって……不良じゃないの?」
「……」
同じ質問。悠斗にされたな。
……でもあいつは、生きてたら聞いてないって言ってたけど。
こいつは聞くのかと思いながら。
「……どう思うんだよ」
「最初は完全にそうなのかなと思ったけど」
「――――……」
「違うかなと思う。――――……でもやっぱり怖そうに見えるけど」
「は?」
……何なんだ、悠斗も心春も、そろって。
似てるな、言うこと。
雰囲気も――――……似てる気がする。
男と女で。
悠斗はしっかりしてそうで、こっちは、頼りなさそうで。パッと見、全然違うのに。
何だか。感じる、波長が似てるのか。
そう思うと。
……そんな二人が離れたことを。もう話も出来ないことを。
他人事だけど切なく感じてしまう。
「……上宮くん?」
呼ばれて、気を取り直して。
「――――……つか。お前、ほんとに、何してたの?」
「ううん……何でも、ないよ。買いたい物があって、探してただけ」
――――……多分。何か違うんだろうが。
……話したくないなら、追及する必要もないか。
そもそもオレには関係のないことだもんな。
「……ふうん……とにかく、さっきのあいつら、まだ居るかもしれないし。気を付けて帰れよ」
「うん。……ありがとう」
頷いた心春と別れて。
家に向かって歩き出しながら。
――――……何となく。
悠斗を、思った。
オレが今したみたいな、心春との、何気ない会話を――――……。
悠斗は、切に願うんだろうなと思うと。
なんだか、やりきれない。
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