上 下
26 / 41
第二章

13.

しおりを挟む


 もういいや。
 ……「おつかい」はスルーする事にした。



「……お前は、何してんだ?」
「――――……」

 困ったような顔で、心春がオレを見上げたその時。


「よお、久しぶりだな、伊織」

 一声で、不穏な空気に変わる。
 声の方を向いた心春が、半歩、後ずさった。


 ――――……中学ん時によく絡んできたいっこ上の馬鹿先輩と、その仲間三人。
 卒業してから会わなくなって、清々してたのに。

 ……名前何だっけ。
 弱ぇくせに、つっかかって来て面倒だったことしか、覚えていない。


「何、彼女?」

 不遠慮な視線を向けられて、びく、と心春が揺れる。


「こいつ、何の関係もねえ」

 一歩前に出て、心春との間に入った。
 背後に押しやってから、少し振り返る。


「――――……お前、もう行けよ」
「え……」


「大丈夫だから。つか、買い物あんだろ、離れろ」


 困った顔をしたまま、心春は少し引いて。それから、走って行った。



「何だお前、カッコつけて」

「――――……名前もちゃんと知らねえしマジで関係ない。つか、何の用、センパイ?」

「……つか、久しぶりに見ると、やっぱすげームカつくなぁ?」
「ほんとほんと」
「お前に恥かかされたの忘れてねえからな」


 1人ずつ喋れ。うるさい。思いながら、聞いていたが。

 ……何かしたっけ。オレ、こいつらに。

 ――――……あんま、記憶がない。


「つか恥って……先輩らが弱えだけじゃねえの?」


 思わず言ったら四人それぞれが、ムッとする。


 ……あーめんどくせえ。

 ――――……空手の大会あるし、こんな弱いのと喧嘩しても、喧嘩は喧嘩だし。
 困るんだけど。かといって、じーちゃんが言うように逃げるとか、ムカつくし……。


 そう思った瞬間。


「何してるんですか?」

 遠くから聞こえる声に振り返ると、警備員が二人、走ってくる。

 四人は、またな、とか言いながら逃げて行った。

 またなじゃねえよ。二度と遭遇したくねえし。

 ……警察でもないし、まだ何もしてないから大丈夫だろうと判断して、警備員が寄ってくるのを待っていると。

 警備員は、駆け寄ったオレの側で、オレに、大丈夫ですか?と聞いた。


「――――……」


 オレが絡まれてたのを知ってるってことは――――……。


 警備員が来た方を見ると。案の定、心春が様子を伺いながら、現れた。
 周りの野次馬も、警備員も居なくなってから、少し離れている心春に近付いた。


「……警備、呼んだのか?」
「だって……」

「余計なことして、バレると、目ぇつけられるぞ」
「……だけど」


「まあ。……相手すんの面倒だったから、とりあえず今回は、サンキューな」


 一応そう言うと。心春はふとオレを見上げて、マジマジと見つめてくる。


「上宮くんて、お礼、言うんだね」

「は? ――――……つか、今の礼、無し」


 言うと、心春が、少しだけ、クス、と笑った。



「上宮くんって……不良じゃないの?」
「……」


 同じ質問。悠斗にされたな。
 ……でもあいつは、生きてたら聞いてないって言ってたけど。

 こいつは聞くのかと思いながら。


「……どう思うんだよ」
「最初は完全にそうなのかなと思ったけど」

「――――……」

「違うかなと思う。――――……でもやっぱり怖そうに見えるけど」
「は?」

 ……何なんだ、悠斗も心春も、そろって。

 似てるな、言うこと。
 雰囲気も――――……似てる気がする。

 男と女で。
 悠斗はしっかりしてそうで、こっちは、頼りなさそうで。パッと見、全然違うのに。


 何だか。感じる、波長が似てるのか。



 そう思うと。

 ……そんな二人が離れたことを。もう話も出来ないことを。



 他人事だけど切なく感じてしまう。



「……上宮くん?」

 呼ばれて、気を取り直して。


「――――……つか。お前、ほんとに、何してたの?」


「ううん……何でも、ないよ。買いたい物があって、探してただけ」


 ――――……多分。何か違うんだろうが。
 ……話したくないなら、追及する必要もないか。

 そもそもオレには関係のないことだもんな。


「……ふうん……とにかく、さっきのあいつら、まだ居るかもしれないし。気を付けて帰れよ」

「うん。……ありがとう」


 頷いた心春と別れて。
 家に向かって歩き出しながら。


 ――――……何となく。
 悠斗を、思った。

  

 オレが今したみたいな、心春との、何気ない会話を――――……。

 悠斗は、切に願うんだろうなと思うと。



 なんだか、やりきれない。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

『Goodbye Happiness』

設樂理沙
ライト文芸
2024.1.25 再公開いたします。 2023.6.30 加筆修正版 再公開しました。[初回公開日時2021.04.19]       諸事情で7.20頃再度非公開とします。 幸せだった結婚生活は脆くも崩れ去ってしまった。 過ちを犯した私は、彼女と私、両方と繋がる夫の元を去った。 もう、彼の元には戻らないつもりで・・。 ❦イラストはAI生成画像自作になります。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

バツイチ子持ちとカレーライス

Crosis
ライト文芸
「カレーライス、美味しいよね」そう言える幸せ。 あらすじ 幸せという日常を失った女性と、日常という幸せを失った男性。 そんな二人が同棲を始め、日常を過ごし始めるまでの話。 不倫がバレて離婚された女性のその後のストーリーです。

鎌倉古民家カフェ「かおりぎ」

水川サキ
ライト文芸
旧題」:かおりぎの庭~鎌倉薬膳カフェの出会い~ 【私にとって大切なものが、ここには満ちあふれている】 彼氏と別れて、会社が倒産。 不運に見舞われていた夏芽(なつめ)に、父親が見合いを勧めてきた。 夏芽は見合いをする前に彼が暮らしているというカフェにこっそり行ってどんな人か見てみることにしたのだが。 静かで、穏やかだけど、たしかに強い生彩を感じた。

君の中で世界は廻る

便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、 二年つき合った彼にフラれた フラれても仕方がないのかも だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから… そんな私は田舎に帰ることに決めた 私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島 唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい 看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた 流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため…… 田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た 「島の皆さん、こんにちは~ 東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。 よろしくお願いしま~す」 は??? どういうこと???

処理中です...