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第一章
9.
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入学式の朝。起きて、制服を着る。
スマホが震えて、親友の佐々本 彩から、メッセージが届いた。
『心春、おはよ。あとでねー』
朝、通学路の途中で会うことになってるので、「おはよ、うん、あとで」と返した。
私が引きこもっているその間もずっと、短い挨拶だけはくれてた。
最初私は、スマホの通知を全て消していた。
メッセージの通知が来ると、悠斗から、って、一瞬、心が思ってしまって。
違うのは分かってたんだけど、分かっていても、一瞬、悠斗が浮かんで。
実際に見て、違う人だと、そんなの当たり前なのにがっかりして。
がっかりしたことも、ほんとに失礼だなと、更に自己嫌悪で。
だから、通知を消して、見ないようにしていた。
でもしばらく経って、段々スマホを見られるようになって、少しなら返せるようになった。
それは多分。悠斗からはもう来ないって言うことが、私の心に、沈み込んで。
スマホの通知を、悠斗だって、思わなくなって。
がっかりしなくなった、から。
そんな風に悠斗が居ない事実を、一つずつ、自分に浸透させて、諦めて。
頑張って、悠斗の居ない日常を過ごすために、心が感じなくなっていくみたい。
悠斗のこと、忘れたくないのに。
でも少しずつ、こうしていかないと。
毎日が、耐えられない。
ずっと、心から思ってるのは、いつまでたっても。
悠斗に会いたい。声、聞きたい。ってことだけなのに。
悠斗に会えるなら。
誰に会えなくてもいい。そんな風に思ってしまう自分も、嫌い。
多分、こんな私のこと、悠斗も好きじゃないと思うから……。
だから、本当は、思わないようにしたいけど。
でも、ただ、悠斗に、会いたい。
「……会いたいよ――――……」
思わず。声が、小さく漏れた。
窓から、下の道路を見下ろす。
何度も何度も、ここに向かってくる悠斗の姿をここから待って。
悠斗の姿が見えたら、家を出て、悠斗と遊びに出掛けた。
もう、迎えには。来てくれない。
もう、分かってるのに。
「心春」
悠斗が呼ぶ声が、まだ耳に残ってる。
でもこれも――――……薄れて行って、消えちゃうのかな。忘れちゃうのかな。
忘れる位なら、忘れない内に、私も、悠斗のとこに行きたい。
忘れてから向こうに行ったら――――……悠斗に会えないかもしれない。
そんな風にも思ってしまう。
「悠斗……」
涙は、止めようとしても止まらないから、勝手に流し尽くして。勝手に落ち着くまで待つしかない。
悠斗が居なくなってから、そんな風に思うようになった。
一回、泣き尽くすと、暫くは、涙が止まる。そういうものみたい。二十四時間涙があふれてる、なんてことは、ないみたい。
泣きやんでから鼻を噛んで、洗面所に降りて顔を洗う。さっぱりしてから深呼吸。
それから、リビングに顔を出したら、家族が笑ってくれた。
「心春、おはよ」
「うん……おはよ」
答えて、座って。朝ごはんを、食べる。
ずっと部屋で引きこもってたから、ここでご飯を食べるのは久しぶり。でも、家族はそれには触れない。
お母さんが入学式の話をして。
後から直接式に行くね、と言ってる。
「一人で歩いて行けるよね?」
「うん。……二回行ったし。途中で彩と待ち合せてるし……」
そう言うと、お母さんは笑顔で頷いた。
帰りは先に帰って、そのまま仕事に行くからねと言うので、頷いた。
――――……ほんとなら入学式が終わったら、悠斗と帰ってきて、桜の樹の下で、写真を撮ったんだろうなあと、浮かびそうになって。
すぐ、俯いた。
考えちゃダメだ。
泣かないためには、考えちゃいけないのに。
そう思いながらも、高校への道を思い浮かべてしまう。
歩いて行ける距離の所に良い高校があって。頑張って勉強すれば入れるレベルでちょうど良くて。悠斗と二人で、頑張って目指すことにした。
二人とも合格で――――……どんなに嬉しかったか。
本当なら今日も、一緒に――――……。
「……ごちそうさま」
「もう良いの?」
「うん、おなかいっぱい……」
私は立ち上がって、リビングを出た。
声の最後が震えたの、気づかれたかな……。
スマホが震えて、親友の佐々本 彩から、メッセージが届いた。
『心春、おはよ。あとでねー』
朝、通学路の途中で会うことになってるので、「おはよ、うん、あとで」と返した。
私が引きこもっているその間もずっと、短い挨拶だけはくれてた。
最初私は、スマホの通知を全て消していた。
メッセージの通知が来ると、悠斗から、って、一瞬、心が思ってしまって。
違うのは分かってたんだけど、分かっていても、一瞬、悠斗が浮かんで。
実際に見て、違う人だと、そんなの当たり前なのにがっかりして。
がっかりしたことも、ほんとに失礼だなと、更に自己嫌悪で。
だから、通知を消して、見ないようにしていた。
でもしばらく経って、段々スマホを見られるようになって、少しなら返せるようになった。
それは多分。悠斗からはもう来ないって言うことが、私の心に、沈み込んで。
スマホの通知を、悠斗だって、思わなくなって。
がっかりしなくなった、から。
そんな風に悠斗が居ない事実を、一つずつ、自分に浸透させて、諦めて。
頑張って、悠斗の居ない日常を過ごすために、心が感じなくなっていくみたい。
悠斗のこと、忘れたくないのに。
でも少しずつ、こうしていかないと。
毎日が、耐えられない。
ずっと、心から思ってるのは、いつまでたっても。
悠斗に会いたい。声、聞きたい。ってことだけなのに。
悠斗に会えるなら。
誰に会えなくてもいい。そんな風に思ってしまう自分も、嫌い。
多分、こんな私のこと、悠斗も好きじゃないと思うから……。
だから、本当は、思わないようにしたいけど。
でも、ただ、悠斗に、会いたい。
「……会いたいよ――――……」
思わず。声が、小さく漏れた。
窓から、下の道路を見下ろす。
何度も何度も、ここに向かってくる悠斗の姿をここから待って。
悠斗の姿が見えたら、家を出て、悠斗と遊びに出掛けた。
もう、迎えには。来てくれない。
もう、分かってるのに。
「心春」
悠斗が呼ぶ声が、まだ耳に残ってる。
でもこれも――――……薄れて行って、消えちゃうのかな。忘れちゃうのかな。
忘れる位なら、忘れない内に、私も、悠斗のとこに行きたい。
忘れてから向こうに行ったら――――……悠斗に会えないかもしれない。
そんな風にも思ってしまう。
「悠斗……」
涙は、止めようとしても止まらないから、勝手に流し尽くして。勝手に落ち着くまで待つしかない。
悠斗が居なくなってから、そんな風に思うようになった。
一回、泣き尽くすと、暫くは、涙が止まる。そういうものみたい。二十四時間涙があふれてる、なんてことは、ないみたい。
泣きやんでから鼻を噛んで、洗面所に降りて顔を洗う。さっぱりしてから深呼吸。
それから、リビングに顔を出したら、家族が笑ってくれた。
「心春、おはよ」
「うん……おはよ」
答えて、座って。朝ごはんを、食べる。
ずっと部屋で引きこもってたから、ここでご飯を食べるのは久しぶり。でも、家族はそれには触れない。
お母さんが入学式の話をして。
後から直接式に行くね、と言ってる。
「一人で歩いて行けるよね?」
「うん。……二回行ったし。途中で彩と待ち合せてるし……」
そう言うと、お母さんは笑顔で頷いた。
帰りは先に帰って、そのまま仕事に行くからねと言うので、頷いた。
――――……ほんとなら入学式が終わったら、悠斗と帰ってきて、桜の樹の下で、写真を撮ったんだろうなあと、浮かびそうになって。
すぐ、俯いた。
考えちゃダメだ。
泣かないためには、考えちゃいけないのに。
そう思いながらも、高校への道を思い浮かべてしまう。
歩いて行ける距離の所に良い高校があって。頑張って勉強すれば入れるレベルでちょうど良くて。悠斗と二人で、頑張って目指すことにした。
二人とも合格で――――……どんなに嬉しかったか。
本当なら今日も、一緒に――――……。
「……ごちそうさま」
「もう良いの?」
「うん、おなかいっぱい……」
私は立ち上がって、リビングを出た。
声の最後が震えたの、気づかれたかな……。
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