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 そして、翌日。
 帰ってきたヒロくんは、小次郎と約束してきた!と意気込んでる。

 ヒロくんが、待ち合わせ場所にしたのは、あまり人が来ない小さめの公園だった。
 僕とあきくんと姫ちゃんが、皆でヒロくんを見守っていると。
 小次郎は少し遅れてやってきた。

「……やっぱり、オレんちの子供だった……」

 あきくんがちょっとむっとしてる。

「うちの子だけど、ヒロに嫌がらせするとか、ちょっとなぁ……」
「そうだよー。あきくんに、幸せにしてもらってるのにさ。ヒロくんみたいないい子に怪我させるとか」

 二人は怒ってるけど。ヒロくんは怒ってるというのとは少し違う感じだった。

 ヒロくんはその声が聞こえたのか、僕たちを振り返って、首を振った。

「……」

 黙って見てて、と言ってるように見えた。
 二人にも、そう見えたみたいだ。

「何の用だよ」

 小次郎はすでに喧嘩腰。

「……言いたいことあるなら聞くって言った。来たってことは、あるんだよね?」

 ヒロくんが聞いても。小次郎は「……別にないし」とそっぽをむく。

「何でずっと、そんな感じなのか知らないけど……」
「――――……」

「嘘つきって、何? オレ、何か嘘、ついた?」
「なんでもないって言った!」

「…………」


 全然、話す気、無いのかな。
 ヒロくんもちょっとムッとしてるけど。


「はっきり言うけど。……小次郎、今、皆に嫌がられてるからな。偉そうだし、乱暴だし。オレにやなことばっか言ってるし。……そんなんで、楽しい?」

 ヒロくんは、まっすぐ、小次郎を見て言った。

 小次郎は、ものすごい顔で、ヒロくんを睨んで。
 詰め寄った。

 あきくんと姫ちゃんが、止めに入ってしまいそうな雰囲気で。僕は慌てて、それを止めた。

「うるさい!」
「……違ってたら、もういいけど……! 友達が欲しいなら、そんなんじゃだめだからな!」


 ヒロくんの言葉に、小次郎はただヒロくんを睨む。


「――――……って……」
「え?」

 何かを小次郎が言ったけど、聞き取れず、ヒロくんが聞き返したら。

「……お前も、友達じゃないだろ……」
「…………」

 そう言って、小次郎が、ヒロくんから少し、離れた。


「ずっと友達でいようって言ったのに……」
「え」

「クラス変わったら、全然……」
「……え?」

「お前、嘘つきじゃんか!」

 ヒロくんは、めちゃくちゃぱちくりしてる。
 僕たちも、思いがけない言葉に、顔を見合わせた。


「……あー……え。それで、怒ってた、の?」
「――――……別に……! ……つかもう帰る!」

「え、ちょっと待ってよ」

 ヒロくんが、小次郎の腕を掴んで止める。


「……確かにクラス変わったら遊ばなくなってたけど……だったら今年、遊べばいいじゃん。何であんな態度でずっと……」
「もうお前、去年から友達じゃないし」

「――――……はー……??? 意味分かんない……」


 ヒロくんは、めちゃくちゃため息をついた。


「……小次郎、やってること、ばかみたいだなー」
「…………もう帰るし!!」

「……あんなことしてたら、友達、出来ないし。良いの?」
「別にいいし」

 ヒロくんは、はー、とため息。


「……ずっと友達とか、言ってたけど……確かに去年は、離れてたけど…… 嘘、ついてた訳じゃない、し……」
「――――……」


 ヒロくんは、まっすぐ小次郎を見て、ぷ、と笑った。

 急に笑顔になったヒロくんに、小次郎も、あきくんも、姫ちゃんも、僕も。
 ヒロくんに見惚れた。


「……オレ今、お前、全然好きじゃないけど」
「――――……」


「もいっかい、友達に、なってもいいけど。どーする?」

「――――……」


 すると、小次郎は、すごく、複雑な顔をした。
 ……多分、嬉しいけど、それを出せない、て顔なんだと思う。


「……オレだって、お前なんか、嫌いだし」

 小次郎が、そう言う。

「あ、そう?」

 それでも、ヒロくんが、笑う。
 
「……貧乏なくせに、なんで、皆、お前の側にいんの? もう、ほんと、嫌い」
「――――……貧乏、関係ないし。何それ、口癖になってんの? はー、オレ、ほんと、お前、嫌い」

「………じゃあ友達なんて無理だろ……」

「……別に。嫌いでも、友達にはなれるし。そっから好きになるかもしんないし」
「――――……」

 僕たち三人には、小次郎の気持ちが、変わっていくのが、見えた。
 ヒロくんの言葉を、小次郎は、喜んでて。

 素直じゃない顔には出てないけど。
 ふわ、と、小次郎のまわりに、明るい光が、見えるみたいで。

 なんかもう大丈夫そう。
 僕が思ったところで、あきくんと姫ちゃんも、そう思ったみたい。

「先帰ってるー」

 僕が言うと、ヒロくんは、振り返って、笑った。

 ヒロくんには、あの光は見えないのに。
 小次郎の、素直じゃない、仏頂面しか、見えてないはずなのに。

 でもヒロくんには、分かってる気がした。

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