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第3章◇ふたりきり

「気まずい」

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 プリンを黙々と食べながら、テーブルの上で鳴ってるラブソングを、誰の曲かな、なんて、画面を覗いて見たりしていると。


「愁さ」
「うん?」

「そうやってスマホで音楽よく聞く?」
「んー……たまに、かな」

 答えると、ふうん、と、快斗が黙った。
 ふ、と、快斗を振り返って、見上げる。

「……音楽、うるさい?消す?」
「うるさくはないから、いいよ」

「……ん」

 消しちゃうと、シーンとしそうなんだよな……。


 2人で夜を過ごすのなんて初めてじゃないのに、

 すごく意識して――――……緊張してる、自分。


 夕方会ってからも2人だったけど、花火で、周りに人がたくさん居たからまだ普通にいられた。完全に2人きりになって、落ち着いて座ってしまうと、やっぱり緊張する。


 聞きたいけど、なかなか聞けそうにない事が頭を巡り回っていて。

 他の会話が思い浮かばないし。



 よく喋る快斗が、今日に限って、あんまり喋ってくれないし。
 実は、快斗も、気まずい…のかなあ…。



「なあ、愁?」
「ん?」

 スマホに触れたまま振り返ると。

 何かに触れてしまったらしく、音楽が消えた。


 しーん…。


 ……この部屋の状態を、自ら言葉に出して、表してしまいそうだった。


 しかも。
 静寂に慌ててもう一度再生しようとスマホを持ち上げた瞬間。

 手からスマホが滑り落ちてしまって。

 咄嗟に手を出した快斗と、スマホを挟んで、触れあってしまった。

「……っ」


 思わず、思い切り手を引いてしまった。
 自分の行動のあまりの不自然さに、硬直する。

 快斗はというと。

 スマホを手に持ったまま、無言でしばらくオレを見つめて。
 それから、ふ、と苦笑い。


「音、つけなくてもいい?」
「え、あ、うん、いい」

 答えてしまってから、はっと気付く。
 いや、やっぱりつける。ちょっとこの静けさは、耐えられそうにない。

「……やっぱり、つけていい?」
「良いじゃん。別に聞きたくてつけてる訳じゃないだろ?」

「……」


 静かなのが嫌だとも言えず。 そのまま続く言葉も言えずにいると。
 快斗が、スマホをそっと、テーブルに置いた。


「――――……なあ、愁?」
「……うん」


「オレと居るの、気まずいか?」
「――――……」

 いきなり核心を突かれて、言葉を失う。
 すると、快斗は、今度は苦笑い。


「2人で居るの、嫌?」
「――――……」


 ……そうじゃ、ない。嫌なんかじゃない。

 いや、そりゃちょっと気まずいし、沈黙がちょっと苦しい気がするけれど、でも、それは快斗の事が嫌だからとか、そんなんじゃ、ない。



 ぶるぶるぶる。
 言葉にならず、ただ首を横に振る。すると。


「なら、あんまり意識しないでくれない?」
「……え?」

「そんなに意識されて緊張されると――――……こっちまで、意識する」
「……ごめん」


 ああ。そうだよな……。

 オレがこんなだと、快斗だって、居辛いよな。
 そう思って、謝ると。


「謝るとこでもないんだけどさ」

 クスクス笑う快斗。
 何だかあまりに優しく笑ってくれるから。息詰まっていたものが少しだけ解ける。




 あ。
 ……今なら…。


 聞ける、かな。






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