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第2章◇再会

「快斗が一緒なら」

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 花火が終わると同時に、一気に辺りが騒がしくなった。


 周囲の人が皆それぞれに、歩き出す。
 快斗は、動かない。オレを振り返らない。


「――――…快斗…?」


 くい、と快斗の背中のシャツを掴んで、引くと。
 快斗は、やっと振り返って。 まっすぐオレを見つめた。


「……行く?」
「ん」


 花火が始まるまでは段々と集まった大人数が。
 今は、一斉に帰途に着く。 

 比べる迄もなく、今の方が、一気に動く人数が多すぎて。
 物凄いことになっている。


「愁、はぐれそうだからさ。手」
「え?」

「繋いでもいい?」
「……ちょっとやだ。外だし。知り合い居るかも」

 言うと、快斗は、クスッと笑って、オレの手首をぐい、と掴んだ。


「これならいい?」

「――――……はぐれそうだから、許す……」


 快斗の手が触れている事が、すごく――――……何ともいえない、感じなのだけれど。
 強がりも多分に含んだ言葉を吐くと。


 快斗はおかしそうに笑いながら、「ありがと」と言った。



 手首を掴まれたまま人混みを抜けて駅まで着いて。

 これまた、ものすごく混んだ電車に押し込まれた。


「――――……ッ……」

 快斗に、ものすごい、密着する形で、押し込まれてしまって。

 ――――……嫌ではないのだけれど、色んな意味で、今の自分には 最悪、だった。


「愁、へーき……?」
「うん、頑張る……」


 そう答えると、快斗は苦笑い。


 快斗は、吊革の上の鉄棒に右手を伸ばして、体を支えると。左手で、オレの背中を囲んだ。

「支えとくからいいよ、体重かけて」
「――――……」

 抱き締められてしまっているみたいで、かなり焦る。

 ――――……とりあえず、一応、頷いておいて。

 途中で乗換の線のある大きな駅で、人が大量に降りる迄は、息も絶え絶えな感の車内だったけれど、快斗が支えてくれてたから、正直かなり楽だった。

 けれど。楽なのは体勢の問題だけで。


 心の中は、大騒ぎで。


 人が居なくなって、ようやく自分でまっすぐ立てて、やっと、快斗から少し離れてホッと一息。



「……ありがと、快斗」
「とか言っても、お前あんまり寄りかかってなかったろ」

 苦笑いする快斗。

 そうかな? 体的にはかなり楽だったんだけどな。
 思いながら、まっすぐ見てくる快斗の目を見つめ返した。


「――――……綺麗だったな、花火」
「うん」

「ちゃんと、花火、見てた?」
「……え?」

 クス、と笑って快斗が言った言葉の意味が一瞬分からなかったけど。

 少し考えて、さっき、オレが後頭部みてたから、かなと思うと。
 すごく恥ずかしくなってきて、何も言えず、快斗を見てると、快斗は黙ったまま、にっこり笑うだけだった。 


 電車の中でそれ以上話す気もしなくて。
 地元の駅へ着くのをひたすら待った。


 やっと辿り着いて車外に出た瞬間。 風が頬を通り抜けた。


「あー、気持ちいい」


 オレが言うと、快斗も笑顔。


「ついさっきまで 人がごちゃごちゃしてたのが嘘みたいだな」


 風を受けながら改札を出て、コインロッカーに預けていた快斗の荷物を持って、家へと向かう。


「愁、今年花火、何回目?」
「ん? あ、初めて」

「あれ、そうなの? いくつか花火大会あったんじゃないの?」
「んー。誘われたけど……人混みすごいし、パスしちゃった」


 そう言うと。快斗は、ふ、とオレを見つめた。


「ふうん。そーなんだ」

 何か言いたげな雰囲気を醸し出しつつ、何も言わない快斗。


「何?」


 言うと、快斗はまっすぐにオレを見て。 ふ、と嬉しそうに笑った。


「オレが今日行きたいって言った時、嫌がらずにOKくれたから」
「え。――――……あぁ」

「去年までもさ、花火色々一緒に行ったじゃん。パスされた事なかったなーと思って」

 そう言われてみれば……。



「今日、久々に会ったし……」

 ……そんな事、特に何も、考えてなかった。
 会った時、快斗が嬉しそうに笑って、花火のポスター見てるから。

 行きたくない、なんて、かけらも思わなかった。


 去年も、快斗が一緒なら、全然――――……。



「久々に逢うから、我慢したの?」
「我慢とかじゃないよ。楽しかったし」

 うん。我慢じゃない。

 じゃ何故だと言われると――――……。


 ……まあ、いいや。
 さっきの質問の答えを聞くまでは、これ以上深く考えるのはやめよう。



 ……もしかしたら、もう考える必要のないものかもしれないし。


「快斗こそ疲れたんじゃないの? 来たばっかで休みもせずにそのまま行っちゃったし」

「全然平気。これから遊び行ってもいいよ」


「あ、そ……」


 何だか快斗らしくて、笑ってしまう。







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